第7話 黄金の町

 俺達はイベルタル村で寝泊まりした後、黄金の町へ行く用意を進めていた。村で便利そうなものをあさってアイテムボックスへ入れていく。もう一つアイテムボックスがあったのでそれを入れ、包丁も入れた。


「ねえ靄志。あの山に登るの?山って登る準備とか必要になると思うけど。それにあの山はもっと強い魔物がいるらしいわよ」

「そうなのか。あの山にはもっと強い魔物がいるのか」


 俺は、山にもっと強い魔物がいると聞いて気を引き締める。これまでよりも強い魔物がいるのなら、アリスを守れるようにしたいと思う。山に登るのに必要なものを集める。村で井戸があったので水をたくさん樽に積んでアイテムボックスに入れる。このアイテムボックスは本当に便利だと思った。


「ねえ、アリス。ついてきてくれるのは嬉しいけど、君に負担はかけていないかな」

「それくらい我慢するわよ。貴方がいなければ私は餓死しちゃうから」

「やっぱりこの村でもうちょっと休んでく?」

「いや、貴方が黄金の町に行きたいなら私も行くわ。そのまま準備して。私も手伝うから」


 こうして俺達は黄金の町に行く準備を進めて、準備が整い出発した。東にそびえたっている山、急に坂道になるが、俺達は先に進んでいった。その間に魔物がいたが靄は2人分かけてある。察知されずに30分は進むことができた。だが、30分くらいたって猪が赤くなった魔物に襲われた。赤い猪の魔物はこれまでの魔物より早い突進をしてきた。アリスに向かって来たのでアリスを押して俺が庇う。


「ぐは。これほどか」

「大丈夫、靄志?」

「ああ、魔物を追い払うぞ」


 俺はやせ我慢で傷をなんともないと言うが、実際には傷は酷い。俺は糸使いを発動し傷を縫って止血した。そしていつものように網目状にした切れ味の強い糸を猪に飛ばした。猪はそれをも躱そうとするが少しは当たり血が出ていた。


「厄介だな。でも勝たないと」


 俺は切れ味の強い糸を鞭のようにして猪に当てる。鮮血を散らし、突進が止まる。猪は逃げて行った。


「気づかれるのはどうしてだったんだろう。視覚とは別の何かだったんだろうな」

「猪は鼻がいいっていうから臭いで気付かれたんじゃない?」


 そうかもしれないと思うが、猪1匹にここまで遅れをとっているようでは先が思いやられるかもしれない。魔物の身体的なスペックが山を登るごとに増している。この山は一体何なのかと思うが分からない。ここまで強い魔物がいるのなら、強くなるのにはいいかもしれない。だが、目的は黄金の町だ。ここで戦闘をして経験を積むのもいいがアリスもいる。俺は一刻も早く黄金の町にたどり着いてアリスを安全な場所に連れて行きたいと思った。

 その後、進むこと20分くらい山にもだいぶ登れてきたが東に金色に光る街を見つけた。


「あれか」

「そうみたいね。でも遠い」


 俺達が見ていた黄金の町は地平線から遠い場所にちょこっと見えていた。その時会話をしたことがきっかけか兎型の豚くらいに大きい魔物がこちらに気付き襲って来た。数は5匹。俺は糸使いの加護を発動させて、鞭のように放つ。だが、兎型の魔物は正確にその糸を躱しこちらへ向かって来た。俺は糸を網目状にした切れ味の強い糸をバリアのように目の前に張り兎の侵攻を妨げる。ここの魔物は人間を見ると襲ってくる習性があるのだろうか。それくらいに気付かれたらすぐに襲って来た。俺はバリアにしている糸を鞭のようにして放つ。これは避けられなかったようで5匹に鮮血が噴き出す。前はここまで精密な糸の使い方はできなかった。成長を感じつつとどめの一撃を5匹に糸を鞭のように放って刺す。今日の昼はこの肉でいいだろう。俺は5匹の兎の肉を包丁で切り裂いて分けていく。そして火を使い焼いた。


「今日のご飯はこれ?たまには木の実とかも食べてみてもいいんじゃない?」

「それもそうか。でも食べられるものがあるかな」


 山には苺があった。これがおいしければいいが野菜も確かに必要かもしれない。俺は苺を摘んで食べてみた。とても酸っぱいが食べられない味ではなかった。


「うん。食べれるな。アリスも食べるか」

「うん。美味しいのかな」

「酸っぱいよ」

「本当だ。でも肉ばかりよりはいいわ」


 そう言っている間に肉が焼ける。その匂いにつられて狼型の銀色の魔物が寄ってきた。


「早く食べて。俺はこいつらの相手をする」

「ありがとう。いただくわ」


 俺は狼型の魔物に切れ味の強い糸を使い足を絡めて切り裂こうとした。だが、狼型の魔物は痛みを察知すると銀色の光を放ち糸が切れなくなった。どうやら固くなったようだ。その間狼型の魔物は動かなくなった。その間に俺は糸をぐるぐるに巻こうとしたがそれはさせまいと再び狼型の魔物が光り、糸を避けた。足に切り傷がつく。その糸を縛り上げ足を切り裂いた。血がだくだくと流れる。やがて足を失った狼型の魔物は出血多量で息絶えた。


「さて、俺も食べるか」


 俺は兎の肉を頬張る。塩はアリスがかけてくれていて、美味しかった。肉の味は元の世界の焼き肉のようだった。元の世界に戻って焼き肉をできる機会がまたあればいいが、魔王を討伐しなければそれができないというのが大変だと思った。そうして、山を下ること30分。また猪の魔物に気付かれ突進された。今度は地面に切れ味の強い糸を網状に放ち足を狙い、的中する。山での戦いにも慣れてきた。猪は暴れるがそれをするほど糸が引っ掛かり足が切れていく。


「やっぱり靄志はすごいわね。私も戦えればいいんだけど」

「無理に戦わなくていいよ。無駄に戦おうとしても怪我をするだけだと思うし」

「靄志だけに任せるのも悪いなと思って」

「なら戦いのこと以外で手伝うことは手伝ってくれると助かるよ」

「分かったわ」


 そこから、歩いていき山を下りる。また森の中だ。ここの魔物は山より弱く。簡単に進むことができた。日が暮れるまで歩き、またコウモリ型の魔物の住む洞窟を見つけたのでそこのコウモリ型の魔物を倒して寝床にした。夕食は猪型の魔物の肉を狩って食べた。だが、そこで、前に見た巨大なカバの魔物がやって来た。こちらに気付いているようでこちらを襲って来た。


「アリス、洞窟に入ってるんだ。俺はあいつの相手をしてくる」

「大丈夫なの?今までの魔物よりも大きいけど」

「今の俺ならいける気がする」

「分かった信じるわ」


 俺はカバの魔物に切れ味の強い糸を今まで一番大きく網目状にして放った。カバの魔物はその木々ほど大きな巨体に引っ掛かる切れ味の強い糸を受け、血を流した。そして暴れまわる。木々が倒れて大変なことになっているが俺は切れ味が強い糸を固くなるイメージをしながら足に鞭のように放った。カバのような魔物は足を怪我し動けなくなる。糸も普段よりも固くなっており、そこをさらに鞭のように切れ味の強い糸を放ち攻撃を加えていく。暴れまわるがそこから動けていないようでとどめを刺すべく、切れ味の強い糸を放ち首筋に鞭のように勢いよくバチンと打った。カバ型の魔物の首から大量の血が出てやがて出血多量で倒れた。


「おい、アリス出てきてもいいぞ」

「終わったの?」

「ああ、あのカバはもう死んだ」

「すごいよ。あんなの私じゃかなわない」

「アリスは俺が守るから大丈夫だよ」

「あんた。私を守ってくれるのは嬉しいけど黄金の町に着いてもついて行っていい?私はあんたと離れたくないよ靄志」

「いいけど、俺といてそんなに楽しませることができてるか」

「楽しいわよ。私はいつもあの家に居させられた。今はこうやって自由に行動できて楽しい。それにあんたがいてくれるから会話の相手にも困らないし」

「ありがとう。俺もアリスといれて嬉しいよ。会話をする相手がいるのはいいことだよな」


 アリスは俺といることを好んでくれているようだ。俺達はその後、寝る用意をして寝た。アリスは寝袋を俺に渡すと言っていたが、俺はアリスが使ってくれと言ってアリスが使うことになった。それから歩き何日もして、黄金の町と思われる金色に輝く街にたどり着いた。


「こんなところに人間がいるとはどうしたもんか」


 俺達に気付いた人がこちらに声をかけてきた。だが、背が低く耳がとがっている。


「ここってドワーフの町だったの」

「おう、もしかして嬢ちゃんはあの村の村長の娘か」

「どうしてそのことを」

「髪と目が同じ色だからじゃないか」

「そうそう。お前さんはここら辺では見ない人種のようだがヤマト族か」

「アリス。ヤマト族って何だ」

「おじさん。こいつは異世界から来た人なんですよ」

「まさか勇者召喚が成功したのか」


 勇者召喚と聞き町の人が集まってきた。ここで早々に身バレしてはまずいと思った。


「おじさん。その話は人のいない場所でしてくださっていいですか」

「ああ、そうか。この人だかりだもんな。いいぞ」


 こうして、俺達は黄金の町にたどり着いた後、早々に注目を浴びることになってしまった。だが、あった人が路地裏に俺達を連れて行き話をすることになった。


「私はケルヴィン・サントラ。お前らは何て言う名前なんだ」

「私はアリス・イベルタル」

「俺はモヤシ・ホソカワです」

「その名前やはりヤマト族か。あいつらもそんな苗字だからな」

「アリス。ヤマト族って何だ」

「分からない。聞いたことがないわ」

「ここよりもっと東に住んでいる種族だよ。お前さんは異世界のヤマト族なのか」

「ヤマト族が何なのかは分かりませんが異世界から来ました」

「そうか。お前は異世界から来たのか。お前が勇者ってことはまずないよな」

「はい。別の人が勇者として召喚されて俺は巻き込まれた感じです。何人も巻き込まれてるんで巻き込まれたのは俺だけじゃありません」

「これは町長に会ってもらわなきゃな。勇者の連れがここにやって来たってことだが、お前はどうしてこんなところにいるんだ」

「実は_」


 俺はケルヴィンにこれまでの経緯を話した。ケルヴィンはそれを聞いて怒った顔になっていた。


「その静稀とかいう奴は酷い奴だな。俺だったら復讐しに行くわ。ついて来い。町長のところに連れて行ってやる」


 こうして俺はケルヴィンに連れられ黄金の町の町長の家に連れていかれた。

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