クラスでもやしと呼ばれいじめられている俺は異世界で最強になる

禿鷹吟

第1章 崖の下での奮闘記

第1話 もやし

 夏の日差しが照り付ける。この日差しは平等に剣岳高校を暑くしていた。そんな中、俺、細川靄志ほそかわもやしは校舎裏で殴り続けられていた。


「はっ。お前なんて白崎さんと釣り合わねえんだよ。死ね」

「誰が死ぬか。俺は生きていたい」

「ふん、なら死よりもつらい拷問を仕掛けるまでだ。お前ら一斉に殴り掛かるぞ」

「「「おう」」」


 俺は校舎裏で殴られ続けるの毎日を送っていた。俺に死ぬように言ったのは武藤静稀むとうしずき小動物をいじめるのが趣味の最低な奴だ。俺はこれから来る痛みを覚悟しながらも静稀たちを殴ろうと拳を構える。が、こいつらは強くせいぜい俺が殴っても一発入るかくらいだった。俺は体がやせ細っており、筋肉はそれほどない。それに比べて静稀たちは筋力が倍以上あった。勝つことは到底かなわない。だが、俺はあきらめたくない。俺が静稀へパンチしようとするもその手を押さえつけられ爪と指の間に釘を入れられる。とてつもなく痛かった。その後全員が俺に殴りかかってきた。ボコボコにされ、血も所々出ている。このいじめが終わる物なら終わって欲しかった。


「貴方達やめなさい」

「ちっ。もやし、今日はこれくらいにしておいてやるよ」


 静稀等いじめられっ子たちを止めたのはクラスのマドンナ白崎青葉だった。黒く長い髪は艶やかで目は二重で大きく、鼻もすっとしている。そんな彼女は俺に対し、なぜか優しくしてくれる。他のクラスメイトは俺を見て見ぬふりをするかあざ笑うかなのに彼女だけはいじめられている時も優しく接してくれた。


「大丈夫、靄志もやしくん」

「流石に爪と指の間に釘を入れられたのは痛かったけど。いつも助かってるよありがとう」

「保健室に行こう。授業は休みにしてもらうように先生に言いましょ」

「ああ、君は優しいね白崎さん」


 俺は白崎さんに連れられて保健室に向かった。保健室の先生はこの事態を見て怒っていた。俺をいじめるいじめっ子たちに何か言いたいことがあるのだろうか。


「もう、何度目よ。担任も何やってるのかしら。この事態は問題視すべきよ。ただでさえ最近はいじめ問題が注目されているのに。この学校は何なのかしら」

「先生、いつもありがとうございます。俺がここでいられるのは貴方のおかげかもしれない」

「私は職務を全うしてるだけですよ。白崎さんに感謝しなさい」


 白崎さんは俺に目を向けるとじゃあまた後でと保健室を去って行った。保健室の白い壁を見つめながらベッドに横になる俺、こんなことが続いているからか授業の出席数が危うかった。


「はあ、何で俺ってこんなにいじめられてるんだろう。俺が何をしたんだろう」


 一人でそんなことをつぶやいていた。俺は傷を癒すためにも暇な時間を潰すためにも眠りについた。そうして起きたときには昼の11時になっていた。


「そういえば水泳の授業だったな。石井先生何度も休むなって言ってたからな。行こう」


 そうは言っても俺は保健室の先生に許可を取ろうと立ち上がる。


「駄目よ。保健室から出ないで。またいつ殴られるかもわからないし」

「でも出席日数は足りてないんです。見学でもいいからさせてもらいたいと思って」

「......はあ、分かったわ。すぐに戻ってくるのよ」


 そう言っている時間にも時間は経っている。2年になってから水泳の授業にいまだに行けていない俺だが、夏特有のこの授業を楽しみたかった。まあ、怪我をしているから見学で終わるのかもしれないが。俺は水泳の授業にプールへと向かった。


「細川、遅かったじゃないか」

「すいません今日もボコボコにされて怪我してプールには入れないと思います」

「はあ、お前も入って欲しいところなんだがな。まあ仕方ない。今日は見学でいいぞ。ただ、女子生徒だけをまじまじ見るのは駄目だからな」

「分かってますよ」


 俺はプールに入るのではなく見学した。日差しはさんさんと照り付けている。熱いと思いながらも女子生徒の方はなるべく見ないようにした。いらぬ誤解を招かないためである。


「おい、もやしが女子生徒の方みてるぜキモ」

「プールに入れなくて残念だったな」

「おいお前ら、靄志に難癖付けるな」


 俺が女子生徒の方は全く見ていないが難癖をつけられる。いじめられっ子はいじめっ子にとってそれほどどうでもいいのだろう。腹が立つが無視しておいた。体育の授業の石井先生がそれを咎めていたが、言って止まるのならもうとっくに止まっているだろう。そうして授業は終わった。プールでシャワーを使い他の生徒たちが去っていく。俺は授業中は掃除をしていた。最後の一人がシャワーに入ったことを確認し、シャワーの床の掃除も始める。


「悪いな細川。授業も刺せてやれなくて掃除ばかり」

「先生が悪いわけではありません。今日はありがとうございました」

「私は何もしてないんだがな」


 先生もいなくなろうとしていた後、女子更衣室に悲鳴が響いた。この悲鳴はクラスの美少女なほうの女子生徒、志水夏鈴しみずかりんの声だった。長い白髪をポニーテールにしている背が低い少女だ。女子更衣室に入った奴がいるのだろうか。石井先生は戸惑っている。だが、急がなければ危ないかもしれない。俺は急いで女子更衣室に駆け込んだ。その先には、上杉犬信うえすぎけんしんがいた。スポーツ刈りのごつごつした手の男だ。今にも志水さんに手を出そうとしているところのようだった。


「何してるんだ犬信。今すぐ志水さんから離れろ」

靄志もやしか。何を言っているんだ。男なら襲うだろ」

「そんなことはない。やめなきゃ力づくで解決するまでだ」


 俺は犬信けんしんと取っ組み合いになった。力と力がぶつかり合い激しく揺れる。更衣室の床がギシギシと鳴る。とにかく今は志水さんをこいつに近づけさせないようにしなければならない。清水さんの方はできるだけ見ないようにして取っ組み合った。俺の力は弱い。だが動きを速くし犬信けんしんを翻弄した。


「流石は喧嘩慣れしてるだけはあるようだな。だが、俺はここで童貞を卒業するんだ」

「ふざけるな。お前の好きにはさせない」


 取っ組み合いはさらに激しくなる。その間に志水夏鈴が着替え終わり、犬信にビンタした。犬信の頬に赤い手形がつく。俺はいじめっ子には勝てなかったがこの戦いで勝利したのだった。


「お前、靄志より力強くねえか」

「着替え終わったか。犬信、もう志水さんに手を出そうとするなよ」

「くそ、童貞卒業できると思ったのにぃ」

「ありがとう靄志くん。女子更衣室に入ってくるのはもうやめてほしいけど助かったよ」


 志水さんはそう言って更衣室を出て行く。俺達だけが残された。


「やめだ。やめやめ。俺はあくまで童貞を卒業しに来たんだ」

「はあ、先生。ちょっとこいつに注意してください」

「おいやめろ。俺は童貞の卒業のために」

「先生」

「おう、更衣室にはこいつが入っていたのか。女子はいないならいいか。この馬鹿野郎」


 石井先生が犬信に怒鳴る。この場は石井先生に任せてもいいだろう。俺は保健室に戻るのだった。戻る途中に白崎さんに会った。


「あっ、靄志くん。今日のプールの授業は残念だったけど、怪我は大丈夫?」

「ああ、あいつらは俺に酷いことをたくさんするからな」

「そういう時は私が守るから」

「ありがとう。でも自分でもなんとかするように努力してみるよ」

「保健室にまたついて行くよ靄志くん。また何か体を使うことしたでしょ」

「ありがとう白崎さん。ついさっきまで犬信と取っ組み合いしてたんだよ」


 話をしながら保健室へとたどり着く。保健室の先生は白崎さんを見ると笑顔になった。


「本当に靄志くんのことを思ってくれてるみたいだね。靄志くんも感謝しなさいよ」

「してますよ。白崎さんには頭が上がりませんよ」

「ふふ、またいつでも呼んでね。あ、そうだお弁当一緒に食べない?教室でさ」

「いいけど。あいつらが襲ってきたら対処できるかな。白崎さんがいてくれるのは嬉しいけどあいつらも白崎さんのことを狙っていたみたいだから」

「大丈夫。私と一緒にお弁当食べましょ」

「そうだね。白崎さん。俺は君がいてくれるだけで嬉しいよ」

「えへ。そう言ってくれるのは嬉しいよ」


 白崎さんはクラスのマドンナだ。俺のようないじめられっ子ともこうやって仲良く接してくれるのは本当にいい子だと思う。もやしと呼ばれいじめられている俺だが、彼女だけは守りたいと思った。例え静稀達が白崎さんを狙っても彼女だけは何としても助け出したい。そんなふうに思う一瞬だった。


「ねえ白崎さん。俺は白崎さんのことを守りたい。俺、もっと強くなるよ」

「ありがとう。期待してるよ靄志くん。強くなった時は青葉って名前で呼んでね」

「っ」


 俺は弁当を食べようと教室に戻っている時に白崎さんに言った。そうしたら色っぽい口調で返された。思わず見とれ黙ってしまう俺。白崎さんは俺のことを好いていてくれるのだろうか。


「着いたね。今日の弁当は何だろうね。親の作ってくれる弁当はやっぱり美味しいし、靄志くんと食べれるのもとってもうれしい」

「白崎さん。何で俺なんかにこんなに構ってくれるの」

「君が大事だからだよ。これは好きっていう気持ちかもしれない」


 白崎さんが顔を微妙に赤らめながら言う。俺は突然の告白にびっくりした。だが、真剣にこちらも受け止めようと思った。


「俺も白崎さんのことが好きだよ」

「ありがとう。靄志くん。ずっと一緒にいようね」


 白崎さんが俺の告白に顔を赤らめながら了承してくれる。俺達はこれを機に恋人同士になったのかもしれない。だが、黙っていない他の奴らがいる。


「ああん、靄志。手前本気で俺のこと怒らせたな。八つ裂きにしてやるよ」

「靄志くん。下がって」

「いや、白崎さんを盾になんてできない。俺が戦う」


 武藤静稀が俺等の告白を聞いていたようだった。俺は、こいつだけには白崎さんを傷つけさせたくないと思った。


「やんのか。お前はこの教室中の人間を敵に回したんだよ。クラスのマドンナを落としてクラスの奴らが黙ってると思うか」

「知るか。お前だけには白崎さんに手出しさせない」

「靄志くん......」


 俺と静稀が口論する中、突然魔法陣がクラスの教室の床に現れた。その時、2年4組にいた生徒たちは異世界に転移したのだった。

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