城壁前の戦い⑦
ヴィルヘルム以外の『治療術師』に施術を受けた兵士たちはその後食欲も旺盛で、あっという間に元の逞しい体に戻り我先と退院して行った。顔面及び上気道熱傷の兵士は毎日ヴィルヘルムの治療を受けつつ、胃瘻と呼ばれる経路から必要なカロリーや水分、栄養素を補充していた。ヴィルヘルムの予言通り、四日目からは経口摂取が可能となり、用無しとなった胃瘻は閉じられ縫い糸は外された。兵士の顔面はほぼ再生しており、上道熱傷の完治を確認した後で喉の瘻孔も塞がれた。今は瞼の下にある目玉を再生させている真っ最中である。
「ではゆっくり右の瞼を開いてください。」
ヴィルヘルムが麗しの低音ボイスで語り掛けた。兵士は恐る恐る右の瞼を開けた。
「・・・・・・。見えます。」
久しぶりの光を知覚したその瞳からは涙が溢れ、それが眩しさだけによるものではないとその場にいた誰もが感激しながら眺めていた。
≪つくづくすごいなこの技術。≫
彼女の常識からはあまりにかけ離れた治療技術に改めて驚かされる小夜であった。
「まだ右の目玉は後ろ側とつながったばかりですから、あんまり目玉を動かすと痛みがあるかもです。」
右目だけではあるが失われたはずの視力を取り戻し、さらに眼球運動まで元に戻る。すなわち眼球を元通り再生しただけではなく、眼球の後部から脳につながる視神経を再接続し、眼球運動を
≪これを私の世界に持ち帰ることが出来たら・・・・・・。≫
元の世界へ帰る算段もないまま、この技術を現代社会で生かす事を夢見る小夜だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます