第16話 反撃の礎
翌日、西区にて。
「おう、サマちょ。今日も超絶カワイイな!!」
全身キラキラのガーゴイルが、世にも馬鹿っぽい挨拶をする。
これ見よがしに宝石を散りばめているのは、商人として成功していると見栄を張るためだろう。首やら指やらにじゃらじゃらとアクセサリーがうるさい。
「ありがとう。……サマちょ?」
「サマちょ」
変な呼び名をつけられて、一瞬だけサマーが固まった。
どういうわけだか、アドの隣でウィンターが嬉しそう。新しいおもちゃを見つけた子猫の顔だ。これからサマーのこと、絶対〝サマちょ〟と呼ぶぞ。
「……まあいいや。例のものは?」
「これでいいのか? 世界で一番愛のこもった切符だ」
小さな紙片を受け取り、目線をじっと落とした。
時間と車両を確認しているようだ。
「そう、これが欲しかったの。よく取れたね、やるじゃん」
「ホネを使ったのさ」
「コネね」
「そう、それだ! さてはサマちょ、頭いいな!?」
「あなたよりはね」
「ぶほっ。たまんねえぜ、その視線」
空に向かって「好きだぁ!!」と叫ぶメニエル。
今日もうるせえ。
例のごとく、物陰に隠れているアドのもとまで聞こえる愛の叫びだ。
「もう我慢できねえ。サマちょ、早速だが、俺様と飯にでも――」
「だーめ。これから予定があるの」
サマーはメニエルの唇を押さえ、言葉の続きを遮った。
「そうなのか!?」
「ざんねんだけど、お礼にこれあげる。許して?」
「なっ!! こんなに!?」
それは、麻袋にこれでもかと詰め込まれた魔晄結晶だった。
メニエルは慌ててカバンから丸いレンズと筒状の魔具を取り出した。魔晄結晶の一つを手に取り、口に咥えた筒状の魔具から光を当て、丸いレンズ越しに様々な角度で確認する。
どうやら丸いレンズは拡大鏡で、筒状の魔具は簡易式のライトのようだ。
「……高純度だ。どこでこれを?」
感嘆の息とともに、静かな興奮を含んだ声を出す。
「すごぉい。一瞬で価値がわかるんだぁ」
「この世で最もぼったくられたらいけねえ存在、それが俺様たち商人だ」
「その鑑定眼があれば、立派なお店を構えるのも時間の問題だね♡」
「どっきゅんハート!! 俺様、がんばる!!」
話をはぐらかされるメニエル。
サマーの誘導が上手いのか、メニエルがただ馬鹿なだけなのか、アドにはよくわからなかった。たぶん、馬鹿なんだろうな。でもこれから、メニエルにはしっかり働いてもらうことになる。そのためにも餌として魔晄結晶を渡し、自分にも利があると思わせておく。ボクの手で踊ってもらうぞ、メニエル。
「アドくん、アドくん!」
隣にも、興奮気味にばしばしと肩を叩いてくるジト目が一人。
「あの魔晄結晶、どうやって持ってきたんですか!?」
リアラだ。
そんなに大声を出したら、隠れている意味がない。
「どうやってって、アンタが教えてくれたんじゃないか」
「わたしが……?」
「ファームの中に入る方法は二つ。一つは列車、もう一つは排水門。だけど排水門は深くて長いから、息が持たない。じゃあ、息をしなけりゃいい」
「どうやって!」
アドがゆっくりと頭蓋骨を突き出した。
「スケルトン」
「あっ……」
目を丸くして両手を口に当てるリアラを見て、ダグラスがカカカカと骨を鳴らした。
「不死の軍団は、そもそも呼吸をしない。しかも地下水路は、ゴーストリッチが安全だと調査済み。そこから導き出される結論は、〝魔の森〟から〝影の国〟へ――魔晄結晶の大量搬入だ。今も地下水路では、高純度の結晶が積み上げられてるはずだ」
アドの頭の中では、地下水路の空洞で、カーン、カーン、と結晶同士のぶつかる音が響いている。その音は、間違いなくアドに勝利をもたらす音だ。
「発想が違う……こんなの初めて……」
リアラが神妙につぶやき、何か思考を張り巡らせる。
「魔晄結晶があれば、ボクは魔術を使える。姫様奪還の準備は整った」
「アドくん……あなたは一体……」
「ボクはアンタと同じだ。布石に布石を重ねて、勝率を最大限まで高める。いま影の魔王は、知らず知らずのうちに追い詰められてるんだ。じわじわとね」
太陽の光が、リアラの顔を照らした。
「これで、明日ついに――姫様と会えるんですね」
リアラはただ前を見据え、瞳の奥に芯ある意志を灯していた。
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