スズメにも気付かれない忍び足

 高校生の頃の出来事。

 学校からの帰り道、桜の枝にとまってチュンチュン鳴いている1羽のスズメがいた。


「あのスズメに気付かれずに近付いて捕まえられたら、アイスおごってあげる」


 スズメを見た友人が、僕にそんなことを言う。

 当時、友人たちの間で、流行っていたこと。

 背後から近付いて、ポンッと肩を叩いて振り向かせて、人差し指で頬をプニッと押すという、比較的無害で平和なイタズラ。

 みんなの中で成功率が最も高く、気配を消すのが上手いと言われた僕に、人間以外にも通用するか試してみて、というのが友人の要望だった。


 要望に応えて、スズメの背後から忍び寄ってみることに。

 半径1m以内まで接近しても、気付いてないのかチュンチュン鳴いているスズメ。

 更に距離を詰めて、スズメの後ろから片手を伸ばした。


 野鳥だし、スズメだし、普通は逃げるよね?


 しかしそのスズメは余程鈍い奴だったのか、鷲掴みされる直前までチュンチュン鳴いていた。


「ヂュッ?!」

「うそ、マジで捕まえた?!」


 掴まれて驚くスズメ。

 見ていた友人が、笑いながら驚いていた。


「はい、アイス確定だね」


 片手に鷲掴みしたスズメを持ちながら、勝利宣言をした僕に、友人はアイスをおごってくれた。


 スズメは友人に見せた後、勿論リリース。

 両翼を広げられないように押さえていた指を離したら、スズメはすぐに飛び立った。

 凄い速さで飛び去ったから、鈍い奴ではないのかも?


 それは、鳥インフルエンザが、世間に知られる以前のこと。

 僕は小学生の頃からインコ、文鳥、十姉妹などの小鳥を飼育していて、小鳥の扱いに慣れていたから出来たのかもしれない。

 木々に囲まれた中、スズメがいた桜の木の幹に隠れるように接近したから、気付かれなかったというのもあるかも。

 でも同じことをしろと言われても、出来ないと思う。


 あの日、何故素手でスズメを捕まえられたのか?

 多分、テーブルトークRPGに当てはめたら、ダイスで6ゾロが出て絶対成功判定になったようなものかな?


 以来、友人から「忍者」とか「野生児」とか呼ばれるようになった、高校時代の珍事でした。

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