第21話 狼男来店(前編)
深夜のコンビニバイト二十一日目。
ピロリロピロリロ
ふぅ、今日は普通に店に入って来てくれるタイプの人だ。
ここ最近店前に捨てられていたり、店前で襲われたり、全速力で店に駆け込んで来たりってのばっかりだったから、少し安心して.....。
「.......」
声が出なかった。
「もしもし?あぁ、明日な」
電話しながらコンビニにご来店してきたのは、パリッとした黒スーツにクールなサングラスの、狼男だった。
高身長で190センチ以上はあるんじゃないか?俺の首は自然と狼男さんの顔を見上げる形になる。
「あぁ、分かったって。約束は守るから」
いやいやいやいやいや!!!普通にスマホで電話してる!!でも顔は確かに毛が生えた黒い狼だった。
狼男さんは、俺にハッとして声を小さくして、
「今店内にいてな。誰かに聞かれるとまずいから切るわ」
なんかやばい仕事してんの!?
タバコとか買いに来たんだろうか。声が低くて全体的に格好いい。
スーツのポケットに手を入れて、コンビニをまわった後、
「お兄ちゃん、レジ頼むぜ」
予想外にもウェットティッシュを買いに来ていた。
「え、あっいらっしゃいませ!ありがとうございます」
「へっ意外って顔してんな?ツレが極度の綺麗好きでよぉ、清潔にしてねぇとちっとうるせぇのよ。タバコなんて言語道断だからよぉ、禁煙してやめちまったよ」
意外と普通に話しやすくて、ダンディで格好いい。
何となくだが、店長に似てる気がするからかもしれないが、俺はこの狼男さんにかなり好感が持てた。
普通に高価そうな財布からお金を払って、あばよ。と背中を向け手を振って帰って行こうとした──途中ぴたりと止まった。
どうした?何か買い忘れたりしたのだろうか?
「なぁ──ちょいと兄ちゃんに相談があるんだけどよぉ」
狼男さんは、怖い顔で振り返った。
「な、なななな何ですか」
なんだ、相談?初対面のただのしがないコンビニ店員の俺に相談?
狼男さんは、つかつかと俺のレジの方まで歩いて来て、
「あんたって...彼女とかいるのか?」
真剣な面持ちで聞かれて、きょとんとする。
「彼女.....?え?」
綾女さんの顔がちらっと浮かぶ。
私達は恋人同士って言ってたし...そうだな。恋人同士...かな。
「いますけど」
「相談に乗ってくれ!!」
ガシッと両手を掴まれて、俺はびっくりして思わず、聞き返してしまった。
「は...はい?」
「あっ、そ、そうだ。大事なコンビニ店員のお兄ちゃんに相談に乗ってもらう間、レジがお留守になっちまうな。えっと、このコンビニはこの時間お兄ちゃんだけか?」
ちゃんとそういうところも考えてくれるところ本当に狼男さんいい人だよなぁ...。
「あ、えっと店長がいますけど...誰もこないと思うので大丈夫ですよ...多分」
ほとんどこの時間帯変な客が一人か二人しか来ないからな。
「そんなわけにはいかねぇよ。店長さんにちょっと話つけてくるわ。店長さーん!!」
「あ、ちょっと!」
すぐにキィっと休憩室が開いて、制服姿の店長が出てきた。
「どうされました?お客様」
「このお兄ちゃんの顔をちょっとの間借りたいんだけど、お願いできるかぃ?」
あの強面の店長に全く臆さない辺り、この狼男さん──できる!!
店長は、俺と狼男さんの顔を交互に見て、もう一回俺の顔を見て、お前さん、何かやらかしたんかぃ?と首を傾げた。特に何もしてないです店長。
「あっ、店長、相談があるそうで、お客様の相談に乗るだけですよ」
「あぁ、ちょっと彼に相談したい事があってな。そこの休憩スペースで話聞いてもらうだけだからよ」
休憩スペースを親指で示す、狼男さんに、店長は眉をひそめた。
「相談?...村松君と知り合いってわけじゃなさそうだし...うーむ、じゃあ俺も同席させていただこうか」
何か俺が怪しい相談を持ちかけられると思ったのか、店長は俺の前に庇うように立って狼男さんを真っ直ぐ見据えた。
「...失礼だが、あんた恋愛経験は?」
サングラスを外し、真剣な眼差しで、店長に問いかける狼男さんに、店長は変わらず凛々しい顔で、
「ゼロだぜ...」
格好よくいう言葉じゃないですよ!店長!!
「じゃあ、結構です。行こうぜ店員のお兄さん」
さらっと店長を拒否して俺をレジから連れ出そうとする狼男さんに、
「そういうのよくないと思いますよ!お客様!恋愛差別って言うんですよ!」
狼男さんが俺の腕を掴んで引っ張り、店長がそれを引き剥がそうと腕を引っ張り、俺の両手は引きちぎれそうだった。いだいいだいいだいいだいいだい!!!
手が!!手がもげる!!!俺コンビニバイトしてきてこんなに痛い思いしたの初めて!いだぃいいいい!!!
「ま、ちょ、まって、待ってください!じゃあこうしましょう!!俺が相談に乗る代わりに、店長もその相談会に参加するって事で!!相談は一人が乗るより二人で乗った方がいい意見が聞けますよ!」
俺が力の限り叫ぶと、二人は止まった。
「いや...あんまり人におおっぴらに言うもんじゃねぇからなぁ...」
頰をぽりぽりかく狼男さんは、困ったように目をそらした。
なんとなく相談内容は察した。
「店長も一緒じゃないと、俺は相談に乗りませんよ!」
強い意志を見せ、店長は村松君...と俺に熱い視線を送っていた。
「わ、分かった、分かったよ。相談には、その、乗ってもらいたいからそうだな。じゃあ、お願いしようか」
狼男さんと俺達は休憩スペースで、恥ずかしそうに狼男さんが切り出したのは、やっぱり──。
「相談ってのは、恋愛相談の事なんだ」
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