第6話 かぐや姫来店(前半)

深夜のコンビニバイト六日目。




ピロリロピロリロ




「いらっしゃいま.....せ?」




今日は、おかしい。


ゾロゾロと深夜2時、五人くらいの男性がご来店した。


こんな大勢が一気に来たのは初めてだ。


全員着物を着ていて、全員切羽詰まった様子でキョロキョロと早歩きで店内を歩き回っている。


よく見ると全員の手には一枚の紙切れ。




「そこのもの、一つ問いたい」




一人、黒髪を後ろになでつけた緑の着物を着た美青年が俺に声をかけてきた。


その瞬間、他の人達もぐりんと俺の方に注目する。


何!?何怖いんだけど何!?




「私は車持皇子くらもちのみこと申すものだ。其方に問いたい。これは何を指しているものなのだろうか」




ぺらりと手に持っていた一枚の紙切れを指さし、困った顔で聞かれても。


なになに...紙には、




『甘い果実を模した傷ついた満月』




とだけ、書いてあった。




「.....いや、これうちにはないやつです」




「そんなはずはない、かぐや姫はここにあると申したのだ」




くらもちのみこさんは断固として譲らない。


気がつけば他の人達もぞろぞろと俺の付近に集まってきて、紙切れをレジ前に並べ始めた。




「僕には全然わからないのです」


「探すのに協力してたもう」


「これはどういう食料を意味するのか...力を貸してもらいたい」


「傷ついた甘い満月とはなんだ」


「誰よりも先に見つけてかぐや姫に差し出さねばならぬのでおじゃる」




うるさいうるさいうるさい。




「いや待ってください一気に話さないで俺は聖徳太子じゃないんですから。レジは順番に並んでください」




「最年少の僕が先です」


「何をいう一番年上の私が先だ」


「私に譲るでおじゃる」


「貴様はさっき聞いただろう一番後ろに行くがよい!」


「まだ回答が出ておらんのだまだ私の番だ」




あー!もううるさいうるさい。


レジ前で口喧嘩をおっぱじめるのやめて!!


レジ台に肘をついて呆れていると、




「じゃんけんポンで恨みっこなしだ!」


「おーし!負けないぞ!」


「後出しはなしだぞ!」


「正々堂々勝負だ!」


「ふふ、腕がなるでおじゃるよ」




そうして、じゃんけんぽんの後大人しく順番に並ぶあたりこの人達絶対仲良しだろ。




最初に来たのは、ロングヘアをポニーテールにした、青い着物を着た驚く程にイケメンの男性だった。




「私は石作皇子いしつくりのみここの紙を共に解読してたもう」




紙には、




『軽やかに口の中で踊る支柱』




「うちに支柱はありませんので、ここに売ってるものではないかと」




「少しは考えてたもう!」




「つ、次は私だな!見るでおじゃるよ」




いしつくりのみこさんを押しのけて大きく体を揺らして前に出たのは、肥満体質のオレンジの着物を着たいかにも今まで好きなものだけ食べてきましたって顔をした男性だった。




「私は阿部右大臣あべのうだいじん。誰よりも早くこの紙に書いてあるものを見つけねばならないのでおじゃる」




紙を押し付けられるように渡されて確認すると、




『魔氷から作られた青く彩られし盾』




「うちは武器屋じゃないんで」




「そんな事はわかっているでおじゃる!頼むでおじゃる!」




俺の制服にすがりついてきたあべのうだいじんを引き剥がすと、ガタイのいい熱血そうな短髪の赤色の着物を着た髭の生えた男性が前に出てきた。




「すまないな、他のものは品がなくて。私も自分で考えては見たのだが、さっぱりでな。協力してくれないか?」




唯一落ち着いていて好印象だな、この人は。


なになに、




『刺激的な黄金の黄昏を飲み込んで』




「もはや商品じゃないじゃないですかこれポエムじゃないですか」




わかるかよこんなもんんんん!!


段々イライラしてきて、ビリビリに破きたくなってきた。




「もうさっさと最後のも見せてください」




最後の子の中で一番若いショートボブの女の子みたいな俺より若いピンク色の着物を着た青年の手掴んで中身を見ると、




『異世界の青春聖書』




「ラノベタイトルじゃねえんだよ!!んぁああ!!!」




「僕の名前は、石上中納言いそのかみちゅうなごんです。かろうじて書籍という事はわかったのですが、いくら調べてもそのような書籍は出てこないのです』




眉をしゅんと下げ俯いたいそのかみさん、他の人達も俺と同じで頭を抱えて紙を見ながら唸っていた。




ピロリロピロリロ




「闇夜に現れし一つの魂....そう、我こそは」




何かブツブツいいながら異様な格好の女の子がご来店。




「「「「「かぐや姫!!」」」」」




え?




フリフリの白いレースが至る所に散りばめられ、黒いゴスロリ風の膝下くらい短い着物を着た黒いツインテールの中学生くらい美少女は、自信満々に微笑んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る