第34話 チートなのは聖女だけではなかった

 聖女の守護騎士の超感覚で神宮悟じんぐうさとるは感じた。


 王城の大広間の中、彼は隣にいた月夜見に言った。


「ねえさん。私を私が感じている場所に転送してください」




 黒魔女ローザがカタリナに完敗したことを見て、魔王リューベは激怒した。


 そして、自分がいる魔界で消滅する剣を、現実世界にいるカタリナに向け振った。


 現実世界と魔界、次元が違うことで、魔王の消滅する剣の刃が届くのがほんの少し遅れた。


 それが幸運だった。


 神宮悟じんぐうさとるは、王城の中庭にいたカタリナのそばに実体化した。


 やがて。


 魔王リューベの剣の刃が、現実世界で実体化した。


 ぎりぎりのタイミングだった。


 悟はなんとか、聖剣護国でその刃を受け止めることができた。


 受け止められた剣は、すぐに魔界にいた魔王リューベの元に返った。


「はあはあはあはあ 」

 最高の緊張感で対応した悟は、カタリナのすぐ前で肩で息をしていた。


 魔王は驚いた。


「ほーう、さすが聖女様だ。ばかばかしいほど運に恵まれているのだな」


 魔王に対して、カタリナは厳しい口調で言った。


「私達の勝利ですね。あなたは卑怯な剣を卑怯なタイミングで放ちました。もしかしたら、私は命を落したでしょう。でも、そうわいきませんよ‥‥


‥‥ 私は世界最強の守護騎士に守られています。今、確信しています。あなたは、私の守護騎士には絶対に勝てない。だから今すぐ、人間界への侵略を止めなさい」


「何を言うかと思えば、聖女はあんがい愚かだな。ばか運に恵まれたことだけで、根拠の無い自信をもち、我に勝てると思っているとはな」


「魔王リューベ。私の守護騎士と正々堂々戦いなさい。だから今すぐ、この場に来なさい。魔界から人間世界を守る聖女からの宣戦布告です」


「う――ん 我が聞いたことがないほど無礼な言葉だな。無礼な者には絶対的な力の差を見せつけて心を折ってやろう。少し待て」




 やがて、中には上空の空間の一部にひずみが生じた。


 そして、そこからおどろおどろしいオーラが湧き出て、人間界の空を覆った。


 それは、色を否定した死の色、当然、太陽の光りも地上に届かなくなった。


 反対に死の色は光り、見るだけで絶望を感じさせた。


 カタリナはすぐに世界中の人間に伝えた。


「みなさん。少し、眠ってください」

 人間が直接、魔王のオーラに触れることの影響を恐れたのである。


 大広間にいた家臣達やロメル帝国の国民、その他全ての国民が深い眠りに落ちた。

 彼らを聖女のオーラが包み守った。




 やがて、上空の空間のひずみから、魔王リューベが実体化した。


 魔王、ゆっくり、王城の中庭に降りてきた。


 最後に降りた魔王とカタリナの間には、神宮悟じんぐうさとるが立った。


 悟は聖剣護国を構えていた。


 魔王が言った。


「ほう。勇ましいものだな。聖女の守護騎士か、知っているぞ、あの老いぼれた元剣聖シャーが最強と見間違えた者だな」


「私は、剣聖シャー様にしっかり能力を見極めていただき、心の底から感謝しております。第3位の強さと言われた魔王リューベ様―― 」


 それを聞いて、魔王リューベは大激怒した。


「聖女も聖女なら、その守護騎士も極めて無礼だな。それに間抜けだ。剣聖シャーなど死ぬ間際で、しっかりした判断はもうできぬわ」


「違いますね。どれだけ年をとっても、剣聖は剣聖です。決して年齢の影響を受けることはありません」


「そうかな。魔族も人間と同じだぞ。まあ良い、今から瞬時に決着を付けて、お前が守るべき聖女を守れないよう殺してやる」


 そう言うと、魔王リューベは身構えた。


「我、魔王。神のことわりを極限まで否定する。我の勝てる確率があれば全て100%にせよ」


 魔王は見えない剣を放った。


 しかし、


 その剣を聖女の守護騎士悟は簡単に跳ね返した。


「うん。ばか運が2度続いたか、それでは―― 」


 魔王は見えない剣を連続して振った。


 しかし、それはことごとく守護騎士悟に確実に跳ね返されて。


 何千何万回、ほんのわずかな瞬間の中でそれは続いた。


(なんだ、聖女の守護騎士に我が勝てる確率は0%なのか。いや、そんなことはない)


 魔王リューベはあせった。


 そして、残った力を全て振り絞り、見えない剣を振った。

 



 神宮悟じんぐうさとるは、魔王リューベのあせりをしっかりと感じた。


 そして、予想することができた。


(最高の1振りが来る。それならば、それに最高のカウンターを‥‥ )


 予想どおり、魔王が最大の力を込めた消滅する剣の一撃が実体化された。


 悟はその軌跡をスローモーションを見ているかのように感じた。


 そして、最高の力で完璧なカウンターになるよう聖剣護国を振った。


 聖剣護国の刃は4倍のスピードと威力で魔王の体に届いた。


 これまで、敵から傷を受けたことのない魔王が悟の剣で深く切られた。


「守護騎士よ。チートだったんだな。我が師、剣聖シャーも偉大なんだな」


 そう言うと、魔王はその場に倒れた。


 倒れた後、魔王は苦しそうなかすかな声で言った。


「だが、人間が作った剣で我の体が傷つけられても、すぐに再生できるわ‥‥ えっ???? 」


 魔王の傷は少しも再生しなかった。


「だめですよ。私の別の名前は人間世界の最終守護者。神から与えられた、魔族を絶対的に滅する聖剣護国を振う者なのです」


「‥‥‥‥ 」


 やがて、魔王リューベは息絶えた。




 それを見た瞬間、カタリナは急いで神宮悟じんぐうさとるに駆け寄った。


「悟さん。勝ったのね、ほんとうによかった」


「ほんとうによかったです。たぶん、カタリナさんの悲劇の発端は、魔王リューベの野望が原因だと思います。これで全て終わりですね」


 その時だった。


 意識を失っていた魔女ローザが、少し離れた場所で声を出した。


「カタリナ気を付けて。魔王はまだ消滅していない。魔王はほんお一瞬だけ、生き返ることができるのよ」


「えっ」

「えっ」


 カタリナと神宮悟は驚いた。


 その瞬間だった。


 死んでいたと思った魔王リューベが目を開けて、2人に向かってジャンプした。


「我の野望を防ぎ、生き続けることは許さない。ここで死ね」


 そう言うと、魔王リューベの体は2人がいた場所で爆発した。




 しかし、2人は無事だった。


 カタリナは刺していた7支剣から光りの剣を振い、魔王の体が起こした爆発を極限まで切断してた。


 切断した残骸は、たくさんの粉となり、ひらひらと中庭の地面に落ちていた。


「ローザ、ありがとう。一瞬、光りの剣を振うことができたわ」


「そうね。最高の親友の命を救うことができて、とてもうれしいわ」



 




 





 


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