お正月とダイエットとお餅

 お正月も二日目。

 冬だからと運動不足になり、クリスマスに年末年始とだらけながら、暴飲暴食を続けてきたツケが回ってきたようだ。

 昨夜お風呂に入り、鏡で確認したお腹が想像以上にだらしないことになっていて、戦慄した。

 腹回りについた餅を燃焼するべく、ダイエットを開始することにした。

 というわけで今日の私は、お昼からスマートフォンで、ジャンプしない系のダイエット動画をつけ、有酸素運動をしていた。

 両腕を広げ、フンフンと勢いよく上体を捻る私を、彼がお雑煮を食べながら眺めている。

 そして、定期的に、

「ダイエットって、散歩の方が良いらしいぞ~」

 とか、

「なあ、食べないの? お雑煮冷めちゃうぞ」

 などと言って、ダイエットの妨害にかかって来る。

 その度に生返事をして、簡単には負けないぞ! お前の話など聞かぬ! と、強気の姿勢を示していたら、彼が急に大人しくなり、台所へと消えて行った。

 寂しそうな後ろ姿を思い出し、ちょっとかわいそうなことをしたかな? などと思ってしまった、数十分前の私を殴ってやりたい。

 簡単に私の心が揺れることは無いと悟った彼は、誘惑のレベルを上げるべく、台所でお汁粉を作っていたのだ。

 台所のお鍋と、満面の笑みを浮かべた彼の持つ、魅惑的なお椀の中から、甘く香ばしい香りが漂ってくる。

 動いたばかりの身体が疲れた! と糖を求め、お腹が食べ物を求めて文句を言い出す。

 私の大好物、焼き餅入りのお汁粉。

 太るから、たまにしか自販機で買わず、購入の際にはチビチビと大切に飲むお汁粉。

 何故か彼が作ると、通常の数倍は美味しいお汁粉。

 私の心はグラグラに揺れた。

 しかも、彼は悪い奴なので、私に見せつけるかの如く、目の前で、あんこを全身に浴びた四角い切り餅をムチムチと噛む。

「甘くてうまい! やっぱ焼いた餅はいいよな~。良い匂い! ほら、早くしないと冷めちゃうぞ~。こういうのは、できたてが一番おいしいんだから。大丈夫、俺も君の腹回りを見たけど、まだいける。まだ可愛い。大丈夫、まだお正月二日目だから、取りあえず一週間後に頑張ろう。お正月は食っちゃ寝するためにあるんだ」

 ここぞとばかりに誘惑の言葉を重ね、大丈夫、大丈夫と私のお腹を撫でる。

 私の自制心は崩壊寸前のジェンガのようにグラグラで、耐震性も何も、あったものではない。

「うぐぐ……でも、そうやって油断してると、あっという間に取り返しのつかないところまでいっちゃうのよ。貴方だって、私のくびれたお腹が好きでしょう!」

 彼の手をペシペシと叩いて退けさせると、かろうじてくびれの残るお腹を抱き締め、一歩後退る。

 だが、それに対し彼は、

「くびれたお腹も好きだけれど、お餅を美味しそうに頬張っている君も好きだ!」

 と、堂々と言い放った。

「そんな我儘な……どっちか二択でしょ」

 呆れて苦笑いを溢し、「今年の夏はビキニ着れなくなっちゃうかもよ」と脅すと、彼は少し考えた後、

「でも、お正月は一緒にお餅を食べてくれる方が良い! ほら、早く食べよう。どうせ正月終わりには俺も多少太るし、一緒に運動すればすぐに痩せるって」

 と、朗らかに笑い、私の分のお汁粉を取りに行った。

 私の精神は極めて弱っちいのだ。

 ここまで言われて、お汁粉と笑顔の彼を突っぱねることなど、できるはずもない。

 結局、私は彼の隣でテレビを見ながらモチモチとお餅を噛み、自らの身体もモチモチへと向かって行ったのだった。

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