コミュ障インキャぼっちなアナタのためのラブ恋?シミュレーション

神風のぼる

第1話「プロローグ」

ユリコ「でも…きっと私…お兄ちゃんのこと忘れられない……」

クレハ「お前……」

ユリコ「どんなに周りから非難されようとも……それでもお兄ちゃんが大好きなの‼」


 妹の真剣な瞳。

 涙が今にも溢れそうだった。


ユリコ「兄妹であろうと異性として愛してる。たとえ叶わぬ思いであっても……それが私の答え………」

クレハ「そんなの……ボクだって……!」

ユリコ「………お兄ちゃん!」


 突然、ユリコが私の胸元へと飛び込む。

 それからこちらを見上げては、期待の込めた眼差しを向けるのだった。


 妹を抱きしめますか?

 はい

 いいえ

 ………………………………………………………………………。

 はい←


クレハ「ボクも好き! ユリコのことが大好きだ‼︎」

ユリコ「………本当?」

クレハ「うん」


 次第に、彼女の顔には愛おしい笑顔が浮かび上がっていく。


ユリコ「お兄ちゃん…!」

クレハ「ユリコ…!」


 二人の間で永く溜まっていたものが、今弾ける。

 私達は求め合うように口づけを交わした。甘い……甘い口づけを……。


 ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅ…………ぶちゅ‼


クレハ「ボク、実は女なんだけど‼ それでも良いの⁉」

ユリコ「モウマンタイ! だって百合こそ至高だもん‼ それにポリコレ的にもナイス配慮だし! お兄ちゃん………じゃなくてお姉ちゃん! 大好き、ずっと大好きだよ‼」


 最早、後戻りは出来ない。

 これからは姉妹二人だけで生きていくことになる。私達の愛など誰も認めてはくれないからだ。

 だが俗世間から何と思われようとも気にはしない。私が選んだのはユリコを愛することであり、彼女もまた私を愛することを選んでくれた。

 まるで瓶詰めの中に閉まわれた、二人だけの世界でただ愛し合う……。そう、それだけで幸せなのだから…………。


FIN


「やっぱ神ゲーだろ、これ……」

 

 ゲームに熱中していた余りすっかり冷めてしまったコーヒーをすすりながら、俺は画面のエンドクレジットを見守る。


「これでエンディングは全部制覇したか」


 エクストラ画面から実績を確認して、クリア特典であるCG集がコンプリートされているのを満足気に眺めては、


「はあ……どの百合シナリオも神がかり的に尊かったなぁ」


 などと、これまでのヒロイン達との思い出にしみじみ浸っていると、ふとパソコンの横に置いてある時計に目がいった。

 既に時刻は朝の七時半を過ぎたところ。そういえば空気がひんやりと肌の奥まで透き通っていくようで、こんな寒い中暖房もつけず夜通しゲームに夢中になっていたとは……。


「竜介(りゅうすけ)、良い加減起きてきなさい!」


 突然、下の階から怒鳴り声がした。母だ。

 

「学校に遅刻するわよ!」

「…………だるいなぁ」

 

 この土日、徹夜でゲームをやっていたのだ。当然眠たくてたまらない。


「今日は休むよ」

「竜介、早くしなさい!」

「今日は行かない!」

「また遅れるわよ!」

「休むって!」

「竜介‼」

「だから今日は休むって言ってんだろがぁぁぁぁ‼ ババア‼」

「なんですって⁉︎」

「ツぅ⁉︎ ちょ勝手に部屋へ入ってくんなよ⁉︎」

「あんた、今なんて言ったの⁉︎」

「今日は学校に行かないって言ったの!」

「なんでよ?」

「えっと…なんだか体調が悪くて……」

「あら、大丈夫なの?」

「ううん。全然大丈夫じゃない。今にも倒れそう……グフン、グフンっ!」

 

 俺は大げさに咳き込んでみせる。


「グフンっ! からの! ハクション! ちきしょう…………いや~体がマジのガチで信じられない程だるいわ~。あ、これ無理だわ。学校行くのは到底無理だわ~」

「そうなの………まあ徹夜して大変だったものね」

「うん……えっ?」

「休みの間、ろくに寝もしないで、ずううううっとゲームしてたんでしょう?」

「ち、チガウヨ! も、もしそうでも体調が悪いのは本当で……!」

 

 すると母は深くため息をつくや、いつになく真剣な表情をした。

 

「竜介、あなた学校に行きたくない理由でもあるの?」

 

 ギョッと心身が緊張する。

 

「………べ、べ、別にないよ………」

「じゃあ行きなさい。サボるなんてだめよ」

「いや、でも…!」

「行きなさい」

「チィ…」

「…………………だけど、本当に何か悩み事があったら、一人で抱え込まずちゃんと相談するのよ。わかった?」

「……………うん……」

 

 消え入るような声で返事をする息子を母は心配そうに眺めていたが、それでも台所に残してきた主婦の朝の仕事を片付けるべく部屋から去ってしまう。

 仕方なく、俺は登校の準備をする。

 

「学校、行きたくないな……」

 

 そして今日もまた憂鬱な一日が始まるのだった。

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