忘れられない恋がある。
美浜 らん
第1話
「誠、遅刻するぞ」
いつも通りの朝。浜野誠は、彼の声で目を覚ます。
「今日は旅行だろ。ずっと前から楽しみ~って言ってたのはどこの誰だ」
「俺です…」
寝起きの声は掠れていた。
朝が弱い俺を毎日、彼は起こしてくれる。同棲を始めてから、朝はそんなに嫌いじゃなくなった。最愛の彼だ。
体を起こし、目をこすり、ドアの方を見ると、彼がドアにもたれかかって俺を見ていた。
「おはよう、お寝坊さん」
「おはよう」
「起きたらさっさと顔を洗う。俺は朝飯作ってくるから、二度寝するんじゃないぞ」
「はーい」
今日は有給を使っていつも予約がいっぱいの有名な旅館に泊まりに行くのだ。でも俺は急に午後から仕事が入ってしまって、彼に遅れてその旅館に向かうことにしていた。
顔を洗い、キッチンに向かった。
「出来たぞ。冷めないうちに食べろよ」
「美味しそう~。いただきます」
彼の作ったご飯をもりもり食べる。
「向こうで何する?絶対に温泉には入ろうよ」
「そうだな。久しぶりに二人っきりだな」
彼はウインクをしてそう言った。急な仕草にどきっとする。
「お前も気を付けて来いよ」
「タクシーで向かうから大丈夫だよ」
彼は微笑んで俺を見ていた。俺も微笑み返した。
朝九時、彼を玄関まで見送る。
「じゃあ、向こうで待ってるから」
「うん」
「仕事終わったら連絡してくれよな」
「はーい」
そう元気に返事をする。
俺は彼を抱きしめた。思い切り抱きしめると、すぐに背中に手が回ってきた。
「寂しいなあ」
「またすぐ会えるさ」
抱きしめた彼の体温は温かくて、心地よかった。
この先もずっとこうやって、二人で生きていけると思っていた。
なのに、それは永遠に叶わない夢となってしまった。
彼はもういない。
その時を最後に、彼は帰らぬ人となってしまった。乗ったバスが交通事故を起こし、彼も巻き込まれた。
もう数年経っているのに、まるで昨日のことのように思い出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます