第21話 文化祭、初日!

 文化祭当日になった。

 うちの班の作業は順調に進んだけど、やっぱり凛子さんの班は、昨日までバタバタだった。

 結局、児玉さんたちは一度もミニチュアを作らなかった。凛子さんたちと、それで何回ももめていた。凛子さんたちは岩田先生にも相談したんだけど、まともにとりあってもらえなかったみたい。

 凛子さんたちのミニチュアは、最後にはみんなで手分けして作ることになった。

 私は3日間でケーキ屋のミニチュアハウスを完成させた。

 凛子さんたちもケーキ屋を作ってたんだけど、壁と壁がピタッとくっついてないし、床も凸凹だし、あまりにも雑すぎるので、他の班からも「これはヤバすぎじゃない?」と言われていた。だから私が全部作り直すことにしたんだ。

 凛子さんは最後まで雑なところは直らず、ミニチュアのケーキも、「これじゃあ売り物にできないよ」と明日花ちゃんたちが呆れてた。結局、そっちも作り直すことになって。はああ。。。


 優さんとは、あれ以来、しゃべってないし、目を合わせられない。

 班で作業する時も、優さんは明日花ちゃんたちとはしゃべっても、私とはしゃべりたくないオーラを出してる。気まずい。気まずい。気まずい。でも、どうしたらいいのか、分かんない。


 クラス全体のレイアウトや飾りつけは、今朝までかかって何とかできた。

 廊下に出ると、窓ガラスには不思議の国のアリスに出て来る白ウサギや三月ウサギ、帽子屋、ハートの女王などのキャラクターを厚紙で大きく作って貼ってある。彼らが慌てて駆けて行く先に、つたで覆われたアーチがある。

 アーチは段ボールで作って、つたは緑や黄緑の色紙で葉っぱを作ってベタベタ貼りつけた。そこに赤い薄紙で作ったバラを散らして、アーチの上部には「ミニチュアの国のアリス」と書かれた看板が貼ってある。

 そのアーチをくぐると教室に入る。入ってすぐのところに、紙粘土で作ったパイと「Eat Me」と書かれた札が机の上に置いてある。 

 アリスが不思議なパイを食べたら体が大きくなった。そこで暗幕を開けて足を踏み入れると、ミニチュアの小さな世界が広がっているという設定だ。


 うちのクラスは私だけが美術部の部員だから、結局、私がアイデアを考えて、ラフを書いた。もう一からアリスの絵を描いている時間はなかったので、絵本を拡大コピーして厚紙に貼って使うことにした。そのコピーに絵の具で色をつけて、「一応、作りましたよ」感を出している。

 教室には、アリスの厚紙人形が、あちこちに立ててある。例の、首がにゅーんと伸びてるアリスとか。

 天井からは色とりどりの風船が垂れ下がり、壁や窓には色画用紙で作ったトランプやキノコ、花やティーカップなどを散らした。

 こういった大きなものは凛子さんたちに作ってもらうことにした。ミニチュアを作るより、大型のものを作るほうが合ってるんじゃないかと思ったからだ。


 黒板には枝の上でニタッと笑っているチェシャキャットが描かれている。これは今日、私が早めに学校に来て、何とかチョークで書き上げた。今も、黒板の余白にハンプティダンプティを書いているところだ。

 教室内は6つのコーナーに分かれていて、それぞれの班の作品が展示してある。

 私たちの班は、100円ショップで買った人工芝のマットを机の上に敷き、そこにカバンの中身をあけた、というシチュエーションにしてある。「女子高生のカバンの中身」というミニチュアの立て看板(これは明日花ちゃんが作ってくれた。神。)が手前に置いてある。


「すごいな、よくここまでできたな」

 岩田先生はみんなの作品を見ながら、感心している。たぶん、初めてみんなの作品をまともに見るんじゃないかな。

「ホント、よく間に合ったよ~」

「ここまでできたのは奇跡だよね」

 クラスのみんなは、教室をグルリと見回して感慨にふけっている。

「これも、葵ちゃんのお陰だよ」

 明日花ちゃんが肩を叩いた。私が振り向くと、「葵ちゃん!? 顔が真っ青だよ?」「目の下のクマ! クマ!」「だだ大丈夫?」とみんながざわつく。

「さすがに、疲れちゃって……」

「もういいよ、休みなよ!」

「葵ちゃんは、案内係はいいよ。どこかで休んで来たら?」

「視聴覚室があいてるんじゃない?」

「ちょっと寝て来たら?」

「うん、これが終わったら休んでくる……」


 そのとき、「ここ、ここ!」「ここを最初に見たかったんだ~」と他のクラスの子が入って来た。いつの間にか、10時を回っていた。

「いやあ~ん、かわいい~!」

「うわっ、ちっちゃ!」

「やばっ、ホンモノっぽい~」

 続々と人が集まって来る。みんなスマホで作品を撮り、ミニチュアグッズの販売コーナーで歓声を上げる。

 想像以上の反響で、クラスのみんなはしばらく呆然としていた。

「ホラ、ボッとしてないで! 案内係と店番の人は、対応して!」

 児玉さんがみんなに向かってパンパンと手を叩く。凛子さんたちが、「今まで何もしなかったくせに」「こういう時だけ、ねえ」とコソコソ言っているのが聞こえた。


 私は黒板の絵を描き上げると、仮眠をとるために視聴覚室に向かった。

 廊下では、「こんにちは~。1年B組のお化け屋敷で~す」「こちらガールズ&パンツァーカフェです、いかがですか~?」と、あちこちで呼び込みしている。

 行き交う人はみんな、キラキラした顔をしている。ああ。お祭りって感じだなあ。

 今の私は、泥のように眠いだけだから、楽しむ余裕なんてないけど。

 生徒に混じって、すでに一般の人の姿もチラホラ見える。

 おばあちゃんと市原さんは明日来るって言ってたな。案内できるといいな。



「葵ちゃん、葵ちゃん」

 誰かに揺り動かされて、私はうっすらと目を開けた。明日花ちゃんが顔をのぞき込んでいる。

「うー……ん」

 私はゆっくりと体を起こした。椅子の上に直に寝転がると、さすがに体が痛い。壁の時計を見ると、2時間ほど眠ってたみたい。

「大丈夫?」

「うん、何とか」

「葵ちゃんのお父さんが来てるよ」

「え?」

「お父さんが教室に来て、葵ちゃんはどこにいるのかって」



 教室に戻ると、廊下に列ができていた。児玉さんが、「最後尾はこちらで~す」と呼びかけている。

「この列、何?」

「ミニチュアを買う人の列」

「えっ。マママジで!? そんなにすごいの?」

「うん。もう一人1個までって制限作ったぐらい」

「へええええ~」

 教室に入ると、お父さんは私の班の作品の前でしゃがみ込んで、ミニチュアに見入っていた。久しぶりに会うお父さん。7月以来だから、もう3か月ぐらいか。

 って。3か月も会いに来なかったんだ……。

「お父さん」

「おっ」

 お父さんは立ち上がると、照れくさそうな表情になった。


「これ、葵が教えたんだってな。聞いたよ」

「これだけじゃないですよ。葵ちゃん、すべての班のアドバイスをして、あっちの班の作品も作ったんですよ」

 明日花ちゃんがナイスフォローをしてくれる。さすが私の守護天使✨

「へえ、すごいな」

「この教室のデザインとかも、全部葵ちゃんが考えてくれたんです。あの黒板のイラストも、朝、葵ちゃんが急いで描いて。葵ちゃんのお陰で、うちのクラスの出し物ができたんです」

「そうなんだ。葵、すごいじゃないか。大活躍だな」

「ううん、みんなが一生懸命作ったから何とか間に合ったんだよ」

「葵ちゃん、校内を案内して来たら?」

 明日花ちゃんの言葉に甘えて、校内を案内することにした。



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