第95話 暗黒の女皇帝

わらわは媚びぬ! 倒れぬ! 諦めぬ!」


 全裸のまま両手を無くし、傷だらけで。

 吼える妖魔神帝フレアー。


 握る者がいなくなったので、落下する大鎌。


「しぶといね悪鬼の女王ッ!」


 ビーストプリンセス……春香ちゃんが、その漆黒灼眼の目でフレアーを睨み据え、その口腔を限界まで開き。

 その口から舌が変形した蛇をぬるりと吐き出す。


 その蛇はぬるぬるした動きでさらにその口腔を限界まで開き。


 そこに瘴気を蓄積し、瘴気玉を膨れ上がらせていく。


「太陽系を吹き飛ばせるほどのエネルギーを溜めて、一息に消し飛ばしてくれるわッ!」


 春香ちゃんの究極奥義「プリンセスヴェノムブラスト」の構え……!


「サポートするでぇ!」


 そこにヒューマンプリンセスが動く


 両手を高く天に伸ばし、スキルシャウト。


「プリンセス兵器錬成!」


 その叫びに反応し、フレアーの真上に多数出現する金属の円筒……焼夷弾!


 さらにそこに、デウスプリンセスも動く!


 デウスプリンセスはしゃがみ込み、そこでスキルシャウト


「プリンセス呪縛樹草!」


 その叫びに反応し、地面から伸びる無数の植物。

 それが残らずフレアーに殺到し、雁字搦めに拘束する。


 両手が無いから両手の拘束は甘かったけど、両脚、胴体。

 そして首。


 巻き付いて、その移動を封じていく。


 そこに降り注ぐ焼夷弾の雨。


 爆発的に炎上するフレアー。


 だが、悲鳴は一切聞こえない。


 妖魔神という種の王である最後の矜持なんだろうか……?


 そしてそこに


「……充分なエネルギーが溜まったよ」


 ビーストプリンセスの言葉。


 ……終わりだ。


 春香ちゃんは拘束され、焼かれながらも悲鳴を洩らさないフレアーを睨み据え。


「宇宙から消えてなくなれぇぇぇぇっ! プリンセスヴェノムブラストォォォッ!!」


 ゴウッ!


 暗黒の瘴気のエネルギーをフレアーに向けて放射した。


「アハハハハハッ! 方向を間違えれば、地球どころか太陽系そのものが吹き飛ぶだけの瘴気を受けて、この世から完全に消えてしまえええ!!」


 笑みの形になっている漆黒灼眼の瞳。

 その春香ちゃんの瞳が見ているのは、妖魔神が完全抹殺された、平和な宇宙。


 だけど


「破ァ!!」


 そのとき、妖魔神帝フレアーから凄まじい波動が放たれた。




 その場にいた全員が動けなかった。

 ありえないものを見てしまったから。


 そこにいたのは焼かれ、蝕まれ、削り取られた無残な姿……ではない。


 自分を今まで滅ぼそうと襲って来た全てを気合で掻き消し。

 存在していたそれは。


 ……黒い女王。

 女王のドレスを身に纏った、輝く純白の髪を持つ暗黒の女皇帝。


 ……失っていた両手が、復活していた。


 その手の中に、再び出現する凶悪な死神の大鎌。


「……調子に乗るなよ。下等生物共が」


 ……全くの無傷!


 フレアーは冷たい表情を浮かべていた。

 静かな怒りを込めた。


 そして


 天を仰ぐ。


 その瞬間


 コオオオオオオオオオオッ!!


 奇妙な吸引音。

 風が巻き起こった気がした。


 それと同時だった。


「あ……」


「いひ……」


 ギャラリーだった人間たちがバタバタと倒れていく。

 その胸から、輝く球体を出現させながら。


 その球体は全てフレアーのところに飛んでいき。

 その天を仰いだ彼女の口の中に吸い込まれていく。


 輝く球体はあちこちからフレアーのところに飛来してくる。


 ……いくらなんでも、何をしているか分かるよ。


 コイツ……このあたりの人の魂を無差別で喰っている!


 止めなきゃ!


 私は地を蹴った。

 貫手の形にした右腕を振り上げながら。


「阿比須真拳奥義! 臓物モツ握り!」


 本来は命に別状のない形で貫手を体内に突き刺し、内臓を握って相手の戦意を喪失させる活人拳……。

 それを私は特殊技能プリンセススキルで殺人技に改変する。


 跳躍して、空中に佇むフレアーに迫る。


 だが


 一瞬早く、フレアーはその背に漆黒の翼を生やし、羽ばたき、空高く舞い上がり。


「食休みじゃ! 邪魔はさせぬぞ!」


 そう、一言を残し。

 フレアーは飛び去った。


 私たち6人の六道プリンセスを残して。

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