第88話 ごめんなさいしなさい

 前歯を失い、鼻血を流しながら呻く美少女。

 義妹の閻魔優子。

 ……阿比須族滅流の開祖・阿比須夕子前のクローンであり生まれ変わり……


 髪を掴んで引き摺り起こし、これまでの大暴れの謝罪を促す。

 優子は目を閉じて苦しそうに


「ううう……」


 そう、呻く。


「ごめんなさいは?」


 ごめんなさい。

 その一言でワカラセは完成される。


 けれど……


 優子は


 キッと私を見つめ。

 その両手を高く掲げて、こう気合の声を発した。


「プリンセスヘルフレイム!」


 ……特殊技能プリンセススキル


 スキルシャウトに応え、巻き起こる紫色の炎。

 それは爆発的な、竜巻のような唐突さで、凄まじい火柱になって私を巻き込む。


 だけど


「プリンセス大叫喚地獄ッ!」


 すかさず繰り出す私の特殊技能プリンセススキル

 私の発する声は声帯からだけでなく、全身に及び


 その半径10メートルの空間に存在する全ての物品を拉げさせ、破裂させる。

 それは一瞬でゲヘナプリンセスのプリンセスヘルフレイムを消し飛ばし


「あぎぃああああああ!」


 ゲヘナプリンセスの衣装を爆ぜさせる!

 その漆黒の、武者を思わせる暗黒のプリンセス衣装が木っ端微塵に吹き飛ぶ!


 私に髪を掴まれて引き摺り起こされた体勢で、すっぽんぽんになるゲヘナプリンセス。


 その両の瞳から滂沱の涙を流している。


「我は阿比須族滅流の開祖なのに……」


 すっぽんぽんで私に捕まれながら、そんな言葉を口にする。


「何故負けたか分かってないよね。優子は」


 言いながら、さらに高く持ち上げる。

 髪の毛が痛くて、顔を顰める優子。


「……何故……?」


 どうしても分からないらしい優子。

 私は溜息をつき……


 そんな優子に突き付けるように、隣で戦っている春香ちゃんの様子を見せてあげた。




「この化け物めッ!」


 デウスプリンセスはビーストプリンセスを前にして、攻めあぐねていた。

 ビーストプリンセスがヒューマンプリンセスを人質に取っていたからだ。


 肩から生えた2つの蛇の首が絡んで、ヒューマンプリンセスを宙づりにしていた。

 ヒューマンプリンセスは藻掻くけれど、全くの徒労のようで


「アハハハハッ! ほざくがいいよ裏切り者がッ!」


 ビーストプリンセス……春香ちゃんは、ヒューマンプリンセスを強く締め付けながら宙づりにし、その漆黒灼眼の目を見開きながら哄笑する。

 その間も、春香ちゃんの女郎蜘蛛の巨大な下半身は、奇怪な音を立てながら動き続けている。

 ……これが、私と春香ちゃんの友情が辿り着かせた奇跡の最終形態……!


「六道プリンセスの使命を忘れ、敵に寝返ったクズどもがッッ! 所詮、人間道と天上道など、至高である花蓮ちゃんの地獄道と私の畜生道と比較したら、生温く存在意義の見当たらないクズ道ッッ!」


 ビーストプリンセスの辛辣な批判に、デウスプリンセスはギリッと歯ぎしりをし


「国が乱れたこの機会に、この国に不要な人種を一括でワカらせようとして何が悪いのよッッ!!」


 その言葉を聞きビーストプリンセスは、鼻で笑いながら


「愚かな人間め! 教えてあげるわ!」


 このチカラは妖魔神を退けるために、冥府の支配者に与えられたチカラッ!

 その力を普通の人に向けて良いわけが無いよッッ!


 春香ちゃんの言葉に。震えるデウスプリンセス。

 震える手をそのままに、自分の主張を繰り返そうとしたら。


「デウスプリンセスッッ! ウチごとやれッッ!」


 自分の胴体をギリギリ締めあげる大蛇の身体から脱出しようとしながら。

 その言葉に、私は覚悟を感じる。

 凄まじい目をしていた。

 いつもは眠そうにしているその目を、限界まで見開いて。


 それは……目的のために、決断する者の目だった。


「でもヒューマンプリンセス!」


 決断を突き付けられ、泣きそうな顔になるデウスプリンセス。

 そこにヒューマンプリンセスは、吐血しながら言い放つ。


「このバケモンは普通の手段じゃ止められへん! そのぐらいせんと無理やッッ!」


 そしてヒューマンプリンセスは語り出す。

 デウスプリンセスとの友情の話を。

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