5章:卑劣な妖魔神界の作戦

第46話 妖魔神帝フレアー様

★アビ目線です。



 地球の傍の宇宙空間に、次元を隔てて存在する別空間。

 それが妖魔神界。


 そこは宇宙の静謐さを備え、その広大さも備えた空間。


 ここでは妖魔神帝フレアー様の御前以外の空間では、我々は存在できない。

 それぐらい、広すぎる。

 フレアー様の存在を軸にしないと、存在できない。

 我々が存在を確定していられるのは、ここだけなんだ。


 今、僕たちはフレアー様の前で膝を折って畏まり。

 怯えていた。


 フレアー様に合わせる顔が無いからだ。


 フレアー様を見ることが出来ない。

 ただの1勝も捧げられない僕たちは。


「……何かわらわに言うことは無いのか?」


 黙りこくった僕たちに、フレアー様は怒りを抑えた声でそう問いかける。

 僕たちはそれに何も返せない。


「我らは妖魔神……つまり神。神として情けなく無いのか……? 下等生物相手に何の成果もあげられぬとは……」


「そんなこと言ってもフレアー様!」


 赤い衣装で身を包んだ僕の仲間……マインが泣き顔で訴える。

 この事態の無理ゲー具合を


「あいつらおかしいんですよ! 六道シックスプリンセスって奴ら!」


 身振り手振りを交えながら。


 分かる……分かるぞマイン!


「200体オーバーの妖魔獣で襲わせても数分で全滅させてくるし、それをグループでなく各個撃破の方針に切り替えても全くの無駄!」


 言いながら、嗚咽を洩らしていた。

 マイン……!


「各個撃破作戦では、刑務所を襲って、モノホンの人殺しをかき集めて妖魔獣作りまくって1000体オーバー投入したのに、結局1000人オーバーの他責心を無くして更生を果たしてしまった模範囚1000人オーバーを作っただけでした!」


 そうだよ……あいつらメチャクチャ過ぎるんだよ……!

 あんなもんにどう勝てって言うんだ……!


 するとフレアー様は


「他責するな!」


 一喝。

 酷い!


 それでも僕らの陛下か!


 そう、思ったけど


「……と言いたいところだが、物量作戦では駄目だということが分かったのだ」


 ならば物量に頼らぬ方法を考えるべきだ。

 ……助言が続いたんだ。


 ……申し訳ありません。

 使命が果たせないから、僕の心も荒んでいたようです……。


 ならば……


「フレアー様」


 僕は顏を上げて正面からフレアー様を見つめる。

 これから奏上するのだから、堂々と。


「……アビ。その顔は何か考えがあるな? 許す。申せ」


 フレアー様は美しい。


 妖魔神の帝王。

 その深紅の目。

 氷の様に美しいご尊顔。

 宇宙の深淵を思わせる漆黒のそのお召し物。

 長い純白の光の髪。


 僕は言ったよ。

 会心の策を。笑みすら浮かべて。


「正当な他責心を利用します」


 そう……

 今までは妖魔獣のパワーを上げることばかり考えて、より不当な他責心を持つ人間を探した。

 でも、そこがそもそも間違っていたんだ。


「馬鹿な! そんな妖魔獣、パワーが人間とほぼ一緒だから奴らを倒せるわけねーぜ!」


 逞しい身体が特徴的な仲間・ノロジーが僕の意見の問題点を指摘する。


 そう……妖魔獣というやつは、他責心の理不尽さがそのままパワーに直結する。

 より無理筋の他責であるほど、強くなるんだ。


 例えば、自分から不倫して、不倫相手の配偶者に慰謝料を請求され破産。ついでに周囲の人間に縁を切られて人間的にも破滅。

 その恨みを裁判で晴らそうとして、不倫相手の配偶者を訴えたが当然の如く負けてしまい。

 さらに多くの借金を負ってしまった。

 そんなヤツが不倫相手の配偶者に抱く殺意。


 この場合、出来る妖魔獣は恐ろしく強くなる。

 どこにも同情する点が無いからだ。


 でも……通り魔に妻を刺殺された男が、その犯人に抱く殺意。

 この場合誕生する妖魔獣は最弱。


 出来上がるのは人間1人とあまり変わらないレベルの妖魔獣だ。

 正直、妖魔獣である必要が無い。ほぼ脅威でも何でもない。


 そんなもん作ってどうすんの?

 そう言いたくなる気持ち……それは大いに分かる。


 だが


「……でもその代わり、やつらも妖魔獣を倒せませんよ?」


 大事なのはここなんだ。


 その他責心が正当だった場合。

 その妖魔獣を倒してしまった場合。


 浄化が出来たとしても。


 例えば件の通り魔の場合は


 ……妻を刺殺されたのは、そんな場所に妻を連れて行ってしまった自分のせいである。


 こういう考え方になる。

 そんなの、まあ許せないよな。人間は。


 だから……倒せないんだよ。


 それを口で説明したら


 マインとノロジーが、僕を羨望の目で見てくれた。

 誇らしかった。


「そしてそこに」


 この僕の作戦。

 その問題点の最高の解決策を提案する。


 それは……


「僕がその妖魔獣に憑依し、その足りない戦闘能力を補います」


 ……フレアー様。

 今度こそあなた様に、最高の勝利をお届け致しますから!


 僕はそう、フレアー様に心で宣言した。

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