第4話 さて、帰ろう

 妖魔獣を倒した。


 どうしよう?


 ……これ、戻れるよね?


 私は自分の衣装……黒基調の魔法少女衣装……髑髏の意匠があしらわれたやつ……を見て、心配する。


 すると


 心が戦闘状態じゃなくなったせいか。

 私の変身が光と共に解けてしまった。


「おお……」


 私は思わず、感嘆の声を洩らした。


 外に出るとき着ていた、通天閣Tシャツと、黒ジャージ、サンダルだ。

 破れてないし、壊れてない。

 3キロ引き摺られたときに、ズタズタ、ボロボロになったのに。


「妖魔獣を倒すと、服が破れてても治るの?」


 そう言ってバキに訊くと


「妖魔獣を倒すと、妖魔獣が引き起こした悲劇は全て無かったことになる」


 死人も蘇る、だって。

 ……マジで?


 そういえば、道路に長々とついていた、私が3キロ引き摺られた跡が無いや……

 そっか……消えちゃうんだ……全部……


「う……」


 そのとき。


 爆発四散した妖魔獣のいた場所に倒れていた男の人が、意識を取り戻した。

 ……グレーの背広の、ちょっと古めのお兄さんだった。


「……ここは? ちょっと飲み過ぎた……」


 頭を振りながら、立ち上がる。

 お酒臭い。


 私はカチンと来てしまって


「ちょっとじゃないでしょう! まさか車で呑みに行ったんじゃないでしょうね!」


 そんな風に、メタなことを言って糾弾してしまった。

 だってさ……そのせいで3キロ引き摺られたと思ったら、ムカついたんだもの。


 すると


 古めのお兄さん、何で知ってるんだ!? って顔をして


「……すみません。最初は呑むつもりじゃなかったんです」


 俯いて、泣きながら懺悔した。

 ……えっと


 何で言い逃れしないの?


 すると


「キミが彼の他責思考を木っ端微塵に爆散させたせいさ」


 他責思考が無くなったら、自責するしかない。

 だから言い逃れしないんだ。


 ……だって。


 なるほど……


 って


(バキ! あなた他人に見られたら不味いんじゃ!? 妖精なんて普通じゃないでしょ!)


 そう小声で囁くように言うと


「大丈夫。僕の姿はシックスプリンセス候補生か、シックスプリンセス本人にしか見えない」


 ……そうなんだ。


 それは色々都合がいい。


 そして私は、歩きで立ち去って行く古めのお兄さんを見送った。

 もう、あの人は飲酒運転をしようとしないだろう……多分。


 一通り見送って。

 私は振っていた手を引っ込めて


「さて、帰ろう」


 そう言って、歩き出した。

 街灯で照らされる、暗い夜道を。

 3キロ引き摺られたから、自宅が3キロ先。

 だいぶ歩かないといけない。


 アイス、買えて無いけど。

 そんな気分じゃないからなぁ。

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