第2話 拷問二人目

 映像には、平先輩が映っていた。


 平先輩は、体力馬鹿で、まるまる3日一睡しなくても元気なため、自分の会社がブラック企業だと気づいていなかったおかしな人だ。


 性格は、優しく頼りがいがある。

 こっちの世界に来てからも、ずっと自慢の肉体で戦っていた。


 ちなみに、僕らは異世界に来たからといって、チートスキルのような都合のいいものは手に入れていない。


 僕は、聖剣を与えられたので、なんとかやってこれたが、平先輩は、武器すら与えられていない。


 ムキムキの鍛え上げられた、己の肉体だけで、敵を殴り倒してきたとんでもない人だ。


 多分先輩は、最初からこちらの世界の住民でもやっていける。

 

 先輩のおかげで、魔王城までこれたと言っても過言ではない。


 そんな先輩が捕らえられてしまうなんて!


 ただ江美さんのように、鎖でつながれているわけではなく、何かマシーンのようなものに乗っている。なんだろうあのマシーン元の世界でみたことあるような?


 僕が首を傾げていると、映像に、ゴブリンロードの女性が映し出されていた。


 平先輩が『ここは任せて、先に行け』といってくれた敵の将軍である。


 僕は、そんなゴブリンロードにも手も足も出なかった。


 なぜなら美人だったから!


 ゴブリンらしく肌は緑色ではあったが、不潔ということは一切なく、鍛え上げられた肉体が素晴らしい女性だったからだ。


 そんな女性に、僕が刃物を向けることは出来なかった。


 平先輩も、さすがにゴブリンロードには勝てなかったらしい。


 ゴブリンロードのお姉さんは、平先輩に言う。

 

「今からおまえには、拷問を受けてもらう」


 ついに先輩に拷問が……。


「いいだろう! 受けて立つ!」


 うん?

 多分、拷問って、そんな前向きに受けるものではない気がする。

 

「まずはおまえの足元を見てみろ」


「なんだこれは?」


「無限回転マシーンだ。魔法によって、足元がずっと動き続ける。マシーンが動き出したら最後、ずっと動き続けなければならない」


 僕は、思い出していた。


 あのマシーンは……。


 ランニングマシーンだ!


 ガコンという、音と共にマシーンが動き始める。


「くっくっく。このマシーンからおちたとき」


 どうなってしまうんだ。

 もしや、針山とか、マグマとかに落とされるのでは?


「拷問が終わる」


 終わるんかい!


「速度調整するから、教えて欲しい」


「分かった」


 親切だなぁ。


「あとは、こまめに水分補給を行うように」


 ただのプロトレーナー!


 ~一時間後~


 ゴブリンロードのお姉さんが時計を見て言った。


「よし!本日はここまで!」 


 平先輩は普通にランニングマシーンから降りた。拷問を受けた感想はというと……。


「ふう。いい汗かいた」

   

 ですよね。

 そうなっちゃうよね。

 なんで普通におわったの!?


「汗はしっかり拭いておくように、風邪をひくからな」


 ゴブリンお姉さんは、平先輩にタオルを渡した。


「ありがとう!」


 いや、もう平先輩、お礼言っちゃってるよ!


「次は、この拷問マシーンだ。肩の筋肉を効率的に拷問することができる」


 効率的に拷問ってなんだ?


「ふむ。ショルダープレスか」


 先輩マシーンの名前言っちゃってるし。


「こっちには、トライセップスエクステンション、あれはバイセップスカール、チェストプレス、レッグプレスなんて、充実しているんだ!」


 うん。先輩詳しいなぁ!

 ただの高級スポーツジムだろ。


「そうだ。平よお前目的を忘れたわけではないな」


「ああ、もちろんだ!」


 僕らの目的は、魔王討伐……。

 さすがの平先輩でも、目的を忘れるなんてこと。


「あのオーガ達に肉体美で勝ることだ!」


 おおい!

 完全に目的忘れてるよ!

 戦ってくれよ。

 なんで肉体美で競おうとしてるんだ。


「筋肉量では、勝てないかもしれないが、見てみろ」


 平先輩は、上半身の服を自ら脱いだ。


 「俺の、大胸筋、上腕二頭筋、三角筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋は、こんなにも燃えているぞ」


 平先輩が美しいサイドチェストのポージングをとってみせる。

 ピクピク自在に動く胸筋!

 油でも塗っているのか綺麗に黒く光る筋肉が美しい。


「お前は、その程度で満足する男なのか」


「まさか」


 平先輩は、ニヒルに笑う。

 

「お前は私の拷問についてこれるか?」


「もちろんだ! ドンとこい!」


 拷問って、そんな自ら求めるものではないはず!?


「私と一緒に、魔族の高みをめざそうぞ!」


「「がっはっはっは」」


 平先輩とゴブリンのお姉さんは、意気投合し肩を組んで笑っていた。


 ものすごく楽しそう……!


 そこで映像が途切れる。


 魔王が手を広げて、宣言した。


「これからも、彼には終わりのない拷問の日々を過ごしてもらう!」


 良いと思います。

 平先輩の望み通りです。

 好きなだけやったらいいとおもいます。


「さらに彼には、毎日、大豆という豆から抽出した味気ない食べ物を、水に溶かして飲んでもらう!」


 それ、プロテイン!

 こっちの世界に来てから平先輩が飲みたがっていたものだ!


「まだお前には仲間がいたな」


 そう。

 僕にはまだ仲間がいる。

 平先輩は、体力馬鹿なので拷問にまるでなっていなかったが、確かに普通の人間には拷問だったかもしれない。


「次に拷問を受けてもらうのは、彼女だ」


 次の映像には、会社の綺麗どころである、如月先輩が映っていた。

 

 

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