第34話 透子

今日はバイト。

鹿鳴館の社員のなっちゃんは、あたしと年齢たいして変わらないけど仕事ぶりは全然違ってさすが社員っていう有能そのもの。あたしたちはバイトだけど、なっちゃんの名字じゃなくてなっちゃんって呼んでて、仲良くしてもらってる。


「なっちゃん」


パソコンで予約情報さわってるなっちゃんに声をかける。


「何?」


「ね、18日って、あたしは9時半にはあがったんだけど、あの日って、牧産業の接待はいってたよね、月の間で。あの日のお客さんってたしか、インドネシアだったかマレーシアだったか忘れたけど、外国のお客様で、ヴィーガン用にしてくれって言われて板前さんが四苦八苦してた日だよね?」


「そうだよ。でもすごく喜んでもらえたみたいで、山さんも、女将さんもほっとしてたわ」


「その日って、牧社長は早めに帰ったりしてた?」


「まさか。だって社長が一番英語お上手だし、もちろん最後までいらっしゃったよ?なんで?」


「だよね、最後って何時だったかな」


「11時くらいだったと思う。お部屋も11時までって予約だったし、牧社長はそのあたりきっちりなさってるから、そんな延びたりはなかったはず。だから何よ」


「ごめん、なんでもないの」


なっちゃんは怪訝そうな顔をしてる。美冬から聞いた話でどうしても気になったの。伊東先生がお亡くなりになったあの日、牧父が予定がなくて8時には帰宅してたってことはまずありえないから。だってその日あたしもバイトにはいってたし、月の間に配膳したし、牧社長を見たもの。なんで牧社長はウソをついたんだろう。


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