第18話 美冬
ちょっと情報集めててわかったこと。
伊東先生がうちの高校で一番親しくしてたのは同世代の古文の吉岡先生。
伊東先生と仲が悪かったか揉めてたことがあるのは化学研究会で一緒に顧問してた目黒先生。
伊東先生は夏くらいに彼氏ができてたらしくどうもそれはうちの教師の誰からしい。相手は諸説あり。
まず、吉岡先生から聞いてみよう。
新聞部ですと取材申し込みして、はっきり迷惑な顔をされた。
記事にできるかは未定ですが、もし記事にする場合でも顧問の山田先生のチェックは受けますのでと言うと、やっと応じてもらえた。
「でもね、本当に何もわからない。親しくみえたかもしれないけどあくまで数少ない同性同世代ってだけでそこまで仲が良かったわけじゃないから。悩んでたことがあったとか、何か困ってたとかは何もわからない。自殺願望とか聞いたことも一切ないし。ただ差し障りのない話をしてただけ」
「ご家族のこと?お姉さんのことは知ってる。同業者だし噂で聞いたから。でもお姉さんの話は彼女の口からでたことないしご両親の話なんかも聞いたことない。だって言っても4月からの半年のつきあいよ?前の学校の同僚の方のほうでもっと親しい人いるんじゃないかな。ただ、彼女は壁をつくる人だったから、誰とも親しくなりたくないって雰囲気はあった。そういう意味で同僚としてやりやすい人ではあった」
「つきあってる相手?それは本当にプライベートなことだし、言う必要ないと思う」
吉岡先生から聞き出せたのはこのくらい。
目黒先生はなんか嫌な予感したんだよね、風貌からして苦手でその嫌な予感的中。
「新聞部?こういうタイミングで好奇心丸出しって恥ずかしくないのか?きみ」
いきなり一撃を食らうが怯んでるわけにもいかないから言葉ひねり出す。冷静に。
「確かにタイミングの問題はあると思います。みなさん一様にショックを受けられている時にお聞きすることはデリカシーに欠けてます。でも新聞部としてはこの事件を見過ごすこともできないので、ご存知のことがあればお聞きできればと思ってます。」
「ふん、義務感って体?まあ、いいけど。あとで山田先生に嫌味言われるのも嫌だしな。で?何が知りたい」
「伊東先生の転落死に関連がありそうなことでご存知なことはなんでも」
目黒先生は嫌な笑い方をした。
「どうせ、揉めた話でも聞きつけて来たんだろ?いやあの先生、亡くなった人のこと悪く言うのもなんなんだけどおとなしそうな顔してたいした人だったよ。うちの先生方はみんなぬるま湯で事なかれだからって、来てすぐなのに好き勝手してたからな。天文クラブだってあれだろ?地学の主任があんな爺さんなのをいいことに、自由にクラブの望遠鏡使って遊んでたしな。部員がいない日でもしょっちゅう屋上で観測してた。結局あの日も望遠鏡が現場に残ってたみたいだから星見てたんだろ。だから自殺じゃなくって事故だって。あれが自殺するようなキャラか。」
「ああ、揉めたのはこっちのクラブでも随分勝手なことしてて腹がたったんだよ、試薬は勝手に使うしさ。なんなのこいつって思ったけど、そこまでの話でもない。ちょっと文句言っただけなんだけど、どこから聞きつけた?山田先生か?」
「違いますよ。でも複数から聞きました、仲悪いって」
「仲悪いねえ、そこまで大げさな話でもない。なんかでもいろいろ調べてて変な子だなと思ったね。かなり熱心に調べてたのにここに放り出したままにしてたから、ちょっと拝借してた資料あるけどいる?正直、何かのトラブルっていうのならこっち方面だと思う。俺は関係ないからな。首突っ込みすぎたんじゃないの、知らないけど。あと、彼女、ちょこちょこメモしてたよね、なんか黒い手帳に。あれ見つかってないの?見つかってるならあれに全部書いてるだろ。ちらっと覗き見したけど日記みたいにいろいろ書いてたよ。誰からも手帳の話聞いてない?へー、うちの先生方ってみんな揃いも揃って本当に事なかれだな。悲しんでる顔してたくせに誰も言ってないのかよ、事情にしても遺書にしてもおそらくあれに書いてあるだろうに。ちらっと盗み見しただけだから何書いてたかなんて覚えてないよ」
「もういいかな、まだこっちは仕事あるんだよ」
丁寧にお礼を言って化学室を出た。
疲れたー
目黒先生ほんと感じ悪いしきつかった。
でも感じは悪いってほどでもない無難な吉岡先生より目黒先生のほうが無茶苦茶情報くれたのはどうなの。
でもどうしようこの資料。
A4の茶封筒抱えて立ち尽くす。
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