03

「暇だ」


 そうでなくても出たがりのようは我妻君とお出かけしていてまたここにはいない。

 誘われなければ積極的に出るタイプではない自分はこうして一人呟くしかない。

 おかしいな、ようが条件とはいえ僕だって我妻君とお友達になったんだけどなあ。

 まだ一回も誘われたことがない……なんてことはないものの、僕が自分から誘うように試しているとかなら現在進行形で失敗している形になるけど……。

 やることもないからお昼寝でもしようと動いたタイミングでチャイムが鳴ったから出てみた、立っていたのは菅野さんだった。


「おはよう、もしかしていまとも君一人?」

「うん、残念ながら一人だよ」

「だったらとも君だけでいいや、ちょっと山の方にいこうよ」

「いいよ、じゃあ着替えてくるから入って待ってて」


 山の方にいってなにがしたいのかはわからないけどとにかく動きやすい服装に変えた。

 靴もちゃんとした物を、途中でお金を使わなくて済むように飲み物なんかも持っていくことにする。


「ななを誘ったんだけど受け入れてくれなくてねー」

「残念だったね」

「ん-とも君だけでも付き合ってくれているからそれで十分だよ」


 ただなにをするのかは教えてくれないみたいだったから半分以上の不安な気持ちと少しのワクワクがあった。


「ここだよここ」

「それなりに大きな川だね」


 その後ろには木々と、正直に言って向こう側にはいきたくないな。

 あと春とか夏ならいいけど秋や冬に特に用事もなくいくような場所ではない気がした。


「あんまり距離も離れていないから休みの日はよくここに来ているんだよ、なにもしなくても落ち着く場所なんだよね」

「え、一人で? それはちょっと危ないんじゃないかな」

「ん-誘っておいてあれだけど毎週のようにここまで連れていくのはちょっと申し訳ないから」


 とはいえ、なにが起こるのかなんてわからないからいくなら誘うべきだ。

 求められてはいないだろうけど僕なら暇人だからと言ってみた、そうしたら少し困ったような笑みを浮かべて「それでも毎回は誘わないようにするよ」とここも変わらない。

 踏み込まないのもそうだし簡単に踏み込ませないぞというそれが伝わってくる。

 まあ、僕から誰かに変わればあっさりと突破できてしまいそうだけど。


「ななが付き合ってくれたのは一番最初のときだけなんだ、しかも本当に出会ったばかりの頃の話。はは、ほとんど知らない最初には付き合って仲良くなってからはゼロなんて面白いよね」

「動きたがるときとじっとしていたいときがはっきりしているからね、動きたいときに頼んでみたら言うことを聞いてくれるんじゃないかな?」

「ん-それはとも君とかよう君が相手のとき限定なんじゃないかな」


 いやいや、彼女だってななちゃんとは長く一緒にいるのだからそこまで露骨に差が合ったりはしないのだ。

 結局はそのときの気分次第というだけ、これまではタイミングが悪かっただけでしかない。

 もしどうしても来てほしいなら頼ってきてほしかった、そうしたら頑張ってあの子を連れてきてみせる。


「それで問題なのは我妻君だよね、どうする? ななちゃんと我妻君が仲良くなったら」

「それならそれで応援するよ」

「本当に?」


 本当にって聞かれても同じように答えるしかない。

 僕らは別にそういう関係ではないし多分これからも変わらない。


「私は違う結果になると思う、ななと仲良くする我妻君に君は嫉妬しちゃうんだよ」

「そんなことにはなってほしくないなあ、だって特別な関係でもないのに勘違いしてそんなことをしたら恥ずかしいよ」

「私はそうなってほしいけどね」


 仮に僕が好きになったとしても一方通行で終わるだけではないだろうか。


「よいしょ……っとお! あ、あれ……?」

「はは、上手くいかなかったね」

「もう一回! てりゃあ!」


 もう一回を繰り返している内に石がなくなりそうだから止めた、なんてね。

 それこそここに偶然寄るなんてこともないだろうから大事な話をするにはいい場所かもしれなかった。

 僕のお家も彼女のお家も共通のお友達がいるから、誰かが来てしまう可能性があるから。

 大事な話を中途半端なところで聞けなくなるのは嫌だ、また、途中で誰かが来てそのことについてごちゃごちゃ考えるようになってしまっても嫌だから対策が必要なのだ。


「は……は……はっくしゅ! うぅ……ちょっと冷えてきたかも」

「戻ろうか」

「誰かに運んでほしいなー」

「任せて」


 ようをお部屋まで運ぶことを繰り返している身としては彼女を背負って帰るなんて余裕だ。

 実際にやってみても、うん、全くトラブルが起こったりはしなかった。


「お疲れ様、正直に言って安定しすぎて寝ちゃっていたぐらいだよ」

「それならよかった」


 こんなことを繰り返していけばいつかムキムキともになれるかもしれない。

 そうなったら別のことにも役立てるかもしれないからどんどん頼ってもらいたかった。




「よう」

「こんにちは」


 一週間ぐらい経過してからレアなことが起きた、隣にようや菅野さん、ななちゃんがいたりもしない。


「ようのことはとりあえず少しは知ることができたから次はともだ」

「おお、積極的に名前で呼ぶようにしているんだね?」

「いや、双子だからだよ、流石に俺だって他のパターンならこんなに早く名前で呼んだりはしない」


 急に名前で呼ばれて怒るわけでもないし本人がいいなら続けてほしい。

 おまけでも僕だけ名字呼びとかでもなければ幸せな脳が勝手にいい方に捉えてくれる。


「前にいったラーメン屋とは別のラーメン屋にいかないか? あっさりしていて美味しい醤油ラーメンが食べられる店があるんだ」

「わかった」


 そうと決まれば早速移動だ。

 彼には少し前を歩いてもらって勝手にじろじろと見ていた。

 長身で髪は奇麗に整えられていて振り向いたその顔も整っていて、


「見すぎだ」

「ははは、ごめん」


 うん、よう相手に頑張らなくてもお友達が十分いそうなタイプなのにどうしてなのか。

 あと勝手に元サッカー部かなあなんて想像をしてみた。


「ずず……俺がように近づいた理由だよな? それはともや桜井といるとき以外は物凄く小さく見えたからだよ。でも、そんな奴でも二人といるときは楽しそうだったから友達的存在が増えたら大丈夫だと思った。まあ……それが俺である必要はないんだけど……気になって仕方がない状態になってさ」

「そうだったんだ。確かにようは菅野さんにだってびくびくしていたから助かるよ」


 とはいえ、それも彼と普通に話せるようになったいま挙げる必要もないのかもしれないけど。


「だからこそ桜井にだけは普通でいられることが気になったんだ、菅野と桜井の差はなんだ?」

「えっと……幼稚園から一緒にいることかな、だけど小学一年生のときから菅野さんともいるからそこまで差はないはずなんだけどね」

「だから俺は菅野とようが普通に話せるようになるまでは協力する、ともも頼む」


 っと、麺がのびてしまう前に食べてしまわないと。

 ちなみにラーメンについてはこのお店よりも前のお店の方が舌的に合っている気がした。

 ラーメンは好きな方だから暇人としてはもっと合う味を探し回ってもいいかもしれない、一ヵ月に五回とかいくのは現実的ではないけど。


「チャーハンも頼んでおけばよかった……」

「え、ラーメンは大盛だったのに?」

「ああ、やっぱり店にいくならケチらない方がいいな」


 なんか暴走してしまいそうだからお家まで付いていってせめて夜ご飯の時間まで見ておくことにした。


「前も思ったけどリビングが広くていいね、僕だったらずっとここにいちゃうかもしれない」


 柔らかくて幅があるソファ、近くにある本棚には雑誌や漫画、お部屋がないならこの二つだけで過ごしていくことができる。

 トイレが二階にない僕のお家からすればトイレが近いのも大きい。

 我妻君のお家にトイレが二つあるのかはわからないけど誰よりも早くいけて争わなくていいなら尚更だ。


「菅野が好きなことってなんだ?」

「好きなことはある場所までいくことかな、好きな食べ物はコロッケ、料理の方は決められないって言っていたよ」


 細かく教えるのは本人がすればいい。


「菅野がように話してそれに付き合うようになったら完璧なんだけどなあ」

「でも、我妻君にはこれからもいてもらいたいよ」

「ん? ああ、離れたりはしないぞ……というか、双子の二人とも心配になるぞこれだと」

「ともだけに?」

「ああ」


 ま、真顔で返されてしまった。

 まあ? どちらが心配になるのかと周りの子に聞いたらようよりも僕の名前の方が挙げられそうだからそこまで急な話でもない。

 しっかりできているとも言えないし……やばい、自分一人で勝手に不安になっていく。


「っと、ぷるぷる震えてどうした?」

「僕のこともちゃんと見ておいてほしい」

「はは、任せろ」


 って、同性になにを頼んでいるのか。

 いやまあ、菅野さんとかななちゃん相手に頼むよりはいいかもしれないけどこれは流石に恥ずかしいというかなんというか、叫びながら走るようになってしまってもおかしくはないぐらいのやらかしだ。


「じゃ、じゃあもう夜ご飯まで我慢するようにね、これで帰るね」

「おう、気をつけろよ」


 鋭いように気づかれずにお部屋に移動……は無理なんだよなあ。

 だから着いたらすぐに吐いてしまうことで寒い中走らなくて済むようにした。

 そうしたら兄だからなのか、僕が二人以外とも上手くやれているのが大きいのか物凄く優しい顔で見られてしまった。


「ともが楽しそうだから嬉しいよ」

「い、いや、僕はこれまでもたのしくやれていたけどね、だからその顔はやめてほしいかな」

「うん、ともがそう言うなら」


 今度は嬉しそうに話しているように対して僕がそういう顔をしたい。

 だけどなんとなく見られる側にしかなれない気もしていてなんとも言えない気分になった。




「まだ時間はあるから寝て帰ろう……」


 今日は異常に眠たくて朝から毎休み時間ごとに突っ伏して休んでいた。

 それでも足りずに放課後にこんなことをしているものだから見ていた人がいたらアホかとツッコミを入れたくなると思う。

 まあ、いちいち残ってまでやることではないから延々にそんなときはこないけどね。


「ぐぇ」

「今日は一回も来なかったうえになにまだ寝ようとしてんのよ」

「ななちゃんか……」


 足音は聞こえていたけど荷物を取りにきたクラスメイトだと考えていたから意外だった。

 放課後になってから既に一時間が経過しているとかでもないから変でもないのはあれだ。


「で? なにかあったりしたの?」

「ううん、ただ眠たいだけかな」

「なにそれ、仮にないとしてももう少しぐらいは考えて言いなさいよ」


 だけど実際にそうだから仕方がない。

 それに彼女は隠されることを嫌がっているのだからこれが正解だろう。


「乙女みたいに待っていたのに来たのはようと我妻だけ、なみだって一回も来なかったから今日は暇な時間が多かったわ」

「お、我妻君は積極的だね」

「あんたにも見習ってもらいたいけどね」


 いきたくなかったわけではないから安心してくれていい。

 最近は何度も言っているけど基本的に暇人だから求めてくれればちゃんと応える。

 役に立てることは少なくても一緒にいることぐらいなら僕にだってできるのだ。


「ななちゃんが退屈だろうからもう帰ろうか」

「いや、相手をしてくれればいいわ」

「そう? じゃあブランケットとか掛けておきなよ」

「そうね、持ってくるようにしてからまあ少しは悪くなくなったからね」


 なんとなくブランケットなんかは女の子が使う物という偏見があるため僕の方はなにも使っていなかった。

 その状態で寝たら体が冷えて影響を受けるはずなのに全く気になっていなかった、やはり三大欲求の内の一つは相当大きいというかなんというか、うん。


「このまま冬が続いてほしいわ、そうすればあんたもじっとしているから」

「そうだね、なにかを頼まれたりしなければ一人で出たりもしないからね」

「かといって、ずっとそうしているわけじゃないんだけどね」


 みんなのおかげで退屈な時間ばかりとはならずに済んでいる。

 家族のようよりも菅野さんや彼女が誘ってくれるからだ、意外と兄は一人で出ていっていないことが多いから自然とそうなっていく。

 誰とも約束をしていないときは一人でなにをしているのかが気になるけど聞いたことはない。


「とにかく、一日最低でも一回はこうするという私ルールがあるの、その中にはあんたと話すことも含まれているんだから協力して」

「任せて」

「あとは……そうね、我妻に友達になってほしいと頼んだのなら適当にしないこと」

「そうだね」


 いまはおまけなんて敢えて悪い方に考えることもやめている。

 今日は寝ていたから考えてくれただけで普段はちゃんと来てくれているからだ、ようがいないときにだって来てくれているから信じられる。

 なにより内はどうであれ付き合おうとしてくれているのにどうせ~なんて考え方をしていたら失礼だろう。


「ん? ああ、あんた髪の毛が少し長くなったわね」

「あ、やっぱり? 帰ったらよう美容師に切ってもらおうかな」


 自分でやろうとしても止められてしまうから最初から甘えるようにしている。

 あとはやっぱり後ろとかは見えないからね、やってくれると言うのなら任せた方がいい。


「私が切るわ、さ、帰るわよ」

「え? あれー」


 残るのではなかったのか。

 別に一緒にお風呂に入らなければいけないというわけでもないし疑っているわけではないけどあまりに急すぎて付いていけなかった。

 してもらっている最中になんの時間だと鏡に映った自分を見て内で呟いた。


「終わり、どう?」

「少しスッキリしたかな、ありがとう」

「ん-もう少しぐらい切るべきだったのかしらね」


 い、いや、これ以上切ったらなんとなくやばい感じがするからこれで十分だ。

 ということで謎に髪を切ってもらった男がいた。

 着いてすぐに気づいたようは少し不機嫌そうな顔をしていた。

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