第354話 顛末
試合が終わった後、いつもはインタビューやらセレモニーやらが華々しく行われるんだけど、結局ドン選手の意識はすぐには戻らず、粛々と行われて、その日は終わった。
そして翌日。
いつもはスパッと寝れる俺が中々寝付けずに、なんとか数時間は眠れた朝の事。
「ドンの意識が戻ったそうだ」
「ほんと!?」
俺が起きたと同時に父さんの携帯に連絡が来た。どうやらドン選手の意識が戻ったらしい。寝覚めの悪かったテンションがしゃっきりして父さんに容態はどうなんだと詰め寄る。
「恐らく命に別状はないだろうって事だ。多少記憶が怪しいみたいだが、その辺も擦り合わせてではっきりするだろうと。これから頭とかの精密検査を受けるらしい」
「ぶふぅ…」
俺はベッドにびよーんと跳ねるように寝転がって大きく息を吐く。まだ精密検査を受けるまで完全に安心って訳じゃないけど、今のところ命に別状はないらしい。
いや、本当に安心した。
これでそのまま……なんて事になったりしたら、俺はどうなってたか分からない。
試合中にあった事故だとしてもだ。
実際にボクシングで亡くなるなんて事例はいくらでもある。相手が立てない程殴りまくる競技なんだから。
当たりどころ次第ではそうなる可能性はゼロじゃない。まあ、これは大体のスポーツにも言えるだろうけどさ。
野球だって頭にデッドボールが当たったらやばいだろうし。
本当に無事で良かったぜ。
☆★☆★☆★
「へっ、危うく死ぬところだったぜ」
「笑い事じゃないぞ。本当に無茶しやがって」
「俺に言われても知るかってんだ。4R目ぐらいから記憶がねぇんだよ。まさか5R終了まで粘るとはな。俺も中々やるじゃねぇか」
「……はぁ」
ドンが目覚めた日から更に一日経って。
精密検査の結果も出て、命に別状ないという事で、ドンはすっかり元気になっていた。
とはいえ、命に別状がないとは言っても、肋骨は二本折れてるし、頬の骨にもヒビが入っているので、無事という訳ではない。
控えめに言って重傷である。
それでも減らず口を叩くドンにトレーナーは呆れていた。
「すまんな。やはりもっと早く止めるべきだった」
「あぁ? 気にすんな。俺が止めるなって言ったんだろうが。記憶にはねぇけどな」
「しかし…」
「終わった事をグダグダ言っても仕方ねぇだろ。……それに今までで一番ボロクソに負けたってのに、今までで一番楽しい試合だったのは間違いねぇ。勝った試合より負けた試合の方が面白いってのも変な話だけどな」
ドンは自分が負けた試合の映像を見ながらニコニコしている。ドンがこんなに楽しそうにしてるのは、トレーナーの記憶にもあまりない。
「皮肉な事にこの試合で俺の評判と名前はかなり上がったからな。さっさと怪我を治してもっと稼ぐぞ」
「ボクシングを続けるのか? もう一生遊んで暮らせる額のお金は稼いだだろう」
「あ? 続けるに決まってるだろ。こんな楽しい試合をして辞めれるかってんだ。これで勝ってたら、気持ちよく辞めてたかもしれないけどな」
「……そうか」
「ただ、ケンセーとはもう勘弁だ。試合自体は楽しかったが、あれは勝てる気がしねぇ。負けるのはもうごめんだ。あんなの、太刀打ち出来るのはイヴァンぐらいだろ」
一時は命の危機もあったドンだが、ボクシングはまだ続けるらしい。その言葉を聞いたトレーナーは嬉しいような心配をするような複雑な表情。
ただ、それでも拳聖と試合をするのはもうごめんだと思ってるようであった。
「ドンさんの病室はここだって聞いたんですけど……」
そしてお昼頃。
ドンの病室に拳聖がやって来た。
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