ツン100%の王子の心の声でデレ1000パーセントで愛されています

青野きく

第1話 始まりの日

「リリア、お前の婚姻が決まったよ」

                          

青が眩しく輝く空の下、上品なインテリアで整えられた室内に朝日が差し込み、小鳥の囀りが聞こえる清々しい朝。

             

それは突然の宣告だった。                               

                                             

(ついにこの日がきたのね)

                                            

侯爵令嬢として生まれた娘は、18歳になると家格がつり合い、将来的にお互いの家が繁栄する相手と婚姻を選ぶのが慣習となっている。


そこには本人の意思はなく、婚儀まで相手の顔を見ることすら叶わないという場合も多いのだ。                                                 

                                                                                           

侯爵令嬢の生涯一番重要な役目である婚姻は、相手によって一族の今後が左右されるお役目。                      

                                             

(分かっていたことよ、私はそのために生まれてきたのだから。それに少しでもお父様やお兄様のお力になりたいのですもの。)              

                                                                                                 

リリアは壁にかかっている鏡に映された自分を見つめた。

                                                  

透明感のある銀髪と空のように澄んだ青い瞳を眺め、リリアはそっと窓から覗く青空を眺める。

                                                

美しい青い空が涙で滲んだ。

                                             

「気が進まないのは分かっているんだよ、リリア。だけどね、どうしてもお前がいいとおっしゃる方がいるのだよ。お前の幸せのためにもとても良い縁談だと思っているんだが・・・」

                                             

父であるアルベルトは温厚で優しく、人徳も権力もある人物だ。                    

                    

そんな人物の娘ともあれば、誰も中途半端な者を婚姻の相手として推挙してはこないだろう。       


(相手はどなたかしら。今までも沢山の縁談を持ちかけられても、私がまだ幼いということで婚約者も決めなかったお父様が、いきなり婚姻の話を持ち出すくらいだから余程の人物ということね。)


アルベルトは困ったように美しい銀髪をかきあげて、美しい青い瞳でリリアを見つめた。                 

                                           

リリアは冷静になる為に深呼吸をして涙を拭い                             

                       

「お父様、お相手はどの様な方なのでしょうか」


そうアルベルトに質問した。


アルベルトはリリアの兄であるアルルに一枚の手紙を手渡した。                      

                                                  

椅子にゆったりかけているアルベルトの代わりに、兄のアルルがリリアに手紙を手渡した。         

                                                      

アルルは母譲りの黒髪と父譲りの青い瞳の美しい青年だ。                     

                                                 

歩くだけでも溢れる優雅さと美しさに、妹であるリリアでも見惚れてしまう。                                                         

                                                                                                

リリアは手紙を受け取り、そっと文面に目を落とすと驚愕した。

                                             

「お父様!この方は王太子のシグルド殿下ではございませんか!確かシグルド殿下には婚約者がいらっしゃるはず。なのに私と婚姻をされるなんて何かの間違いではないのでしょうか」                      

                                              

手紙の差出人は、ここ、オーロランジェ王国の王太子であるシグルドだった。            

                                                 

シグルドは容姿端麗、文武両道の完全無欠の人物で、社交界でも人気が高く、貴族令嬢たちからも熱い眼差しをおくられているが冷血で恐ろしい人物ともっぱらの噂なのだ。

                                                               

それでも今まで浮いた噂が無かったのは婚約者であるカタリナ様を深く愛しておいでで、他の女性に興味がないからだと言われていた。


「リリアは驚いているだろうけど、シグルド様は良い方だよ。きっとお前を愛して幸せにしてくれる」                                                                 

                                            

シグルドと学友であった兄のアルルはそう言ってリリアの背中をさすって慰めたが、突然の出来事に戸惑いと驚きでリリアはうまく答えることが出来なかった。                  


「ですがシグルド殿下には婚約者が・・・」                       

                                        

戸惑いなから呟くとアルベルトは


「シグルド殿下とカタリナ嬢は既に婚約を解消しているから問題ない。リリアは何も憂いなくシグルド殿下と婚姻できるんだよ。シグルド殿下はこのオーロランジェ王国の唯一の王位継承者。お前は将来的にその隣に並ぶ王妃となる。これから厳しい王妃教育が始まるが、リリア、お前ならきっとやり遂げてくれると信じているよ」                                    

                                           

全てのことが悪い夢のようでリリアは戸惑うばかりだったが、自分を溺愛してくれている父と兄の言葉に嘘は感じない。 

                                              

(あんなに愛していると噂になっていた、お二人なのに・・・。シグルド殿下はカタリナ様に愛想を尽かされてしまったのかしら。それでも王太子は必ず男児を儲けなければならないから、自棄になって家格の釣り合うというだけで私との婚姻をお決めになったのかしら)                                                                                    

                                             

リーンデルト家は代々の当主が知識や商才に長けていたおかげで、オーロランジェ王国に多大な貢献をしてきた名家で、王族と婚姻するには十分な地位にいる。                                        

                                              

現在も国内で有力な一族と言われているが、王家との結びつきができれば不動の地位を得ることができるだろう。                                     

                                               

(私がシグルド殿下と婚姻して男児を儲ければリーンデルト家はさらに国内で力をつけることができ、お父様とお兄様の為になることができる。今まで二人には守って頂いてばかりだったけれど、この婚姻が成功すれば、その御恩に報いることができる)                                

                                             

そう考えると今回の婚姻の話を断るという選択肢はないと確信した。                   

                                               

リリアは深呼吸して、出来るだけ凛とした佇まいで告げた。                       

                                                                   

「わかりました。私はこの婚姻をお受けいたします」


リリアがそう宣言すると、いつの間にか近くまで歩み寄ってきていたアルベルトとアルルにぎゅっと抱きしめられた。                                                            

                                            

「お前には重責をおわせてしまうことをすまなく思っている・・・。せめて幸せに暮らせるよう陰ながら見守るよ、愛しいリリア」                 


アルベルトは涙声でそう言うとリリアを抱きしめる腕の力を強めた。                   

                                                                                    

「私も王室書庫に勤務しているから、王宮で困ったことがあったら書庫に逃げ込んでおいで。どんな者からもリリアを守ってみせるからね」                                                                   

                                             

アルルも涙声でそう言った。                               

                                           

「お父様、お兄様、私幸せです。こんなに愛してくれる家族がいて、そんな2人のお役にたてるなんて本当に幸せ」                                                                 

                                              

リリアは優しい2人に、愛のないと思われる婚姻話に冷えきった心を温めてもらえて、シグルドとの婚姻に少しだけ前向きになれたのだった。 

                                              

外からはうららかな春の日差しと甘い花の香りが漂い、優しい小鳥の囀りが聞こえてきて世界がリリアの婚姻を祝福しているようだった。                              


「私はやり遂げます。そこに愛がなくても、きっと立派な王妃になる」          

                                           

リリアはそう決意を固め、窓の外の青空を見つめた。                                          

                           

          

                                       


                                              


                               

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