第109話 閑話 豆まきは愛する人とする?

「ポーラ、今日は何日だっけ?」

学園の昼休みに私は聞いていた。


「何言っているのよ、今日は二月三日よ。アリストン帰りでボケたの?」

ポーラは相変わらず、言う事は辛らつだ。


でも、私はそれを無視して

「そうか、じゃあ、今日は節分なんだ。豆まきしないと」

私が呟くと、

「豆まきって何よ?」

ポーラが聞いて来た。


「うーん、前の世界でやっていた事なんだけど、春の初めに、1年の邪気をはらう目的で豆をまくのよ」

「豆をまくの?」


「そう、誰かが鬼の役やって、鬼の面付けた人に『鬼は外』って言って豆まいて、反対向いて『福は内』って言って福を招き入れるのよ」

「そうなんだ」

「なんか面白そうね」

ポーラはキョロキョロあたりを見渡して


「ボビー、鬼やってよ」

「なんで俺なんだよ。エイブがいるだろう」

「えっ、だってアオイがしてほしそうに見ているから」

ポーラが言うと


「何? アオイが俺に鬼をやってほしいのか?」

「えっ、まあ、やってくれたら嬉しいけれど……」

まあ、鬼なんてそんなにいい役じゃないし、普通はやりたがらないよね。そう思ってボビーを見たら


「判った、俺がやる」

何故か急にボビーがやる気になってくれたんだけど……


鬼の面を絵を描くのがうまいコニーが書いてくれて、エイブが購買に行って炒り豆を買ってきてくれた。


うーん、高校生が豆まきなんて普通はやらないけれど、みんなのりでやってくれた。




「じゃあ行くわよ」

私は豆を持つと鬼の面を被ったボビーに向けて


「鬼は外!」

叫んで豆を投げつけたのだ。


「「「鬼は外!」」」

ポーラ達も一緒にボビーに向けて投げつけた。


「痛い!」

と叫びながらボビーが教室の外に逃げていく。


私達はそれを追いかけて、

「「「「鬼は外!」」」」

と言って豆を投げつけた時だ。


ボビーとすれ違いざまにマイヤー先生が現れて、私達が投げたその豆を思いっきり受けていたのだ。


「「「「えっ?」」」」

私達は固まってしまった。



「あなた達何をしているのですか! それと誰が鬼んですって!」

私達は怒り狂ったマイヤー先生に延々怒られることになってしまったのだ。


「本当の鬼婆だ」

誰かがボソリと呟いた。








「アオイ、何でも学園で鬼役をボビーにやらせたそうじゃないか!」

夜遅くにやってきたクリフがとても不機嫌そうに言うんだけど。


あのあと、学園で先生の怒りが収まるまでなかなか大変だった。その後の授業ではこれでもかって感じで集中砲火を浴びるし……


夕食は皇后様と一緒で気を休める間もなかったんだけど、その場にいたマイヤー先生にまたその時のことを蒸し返されるし……

本当に最悪だった。


それでやっと開放されて部屋でくつろいでいたら、何でクリフにまで言われないといけないんだろう。


「それがどうかしたの?」

流石にムットして言うと


「なんで、俺に頼まない」

クリフが怒っていうんだけど、

「えっ? だってクリフは学園にいないし、」

「言えば行く」

「そんな、豆まきのためにわざわざ皇子様にきてもらう訳にはいかないでしょう」

私が言うと、


「何を言う。マイヤーからはその鬼役は好いている男にやってもらうと聞いたぞ」

クリフの言葉に私は頭を押さえた。


「どこでどう狂ったらそう伝わるのか判らないけれど」

「鬼役は子どものためにお父さんがやるそうじゃないか。なら恋人のために愛する男がやるだろう」

クリフが頓珍漢なことを言うけれど、確かに鬼の説明する時にそう言う説明を皇后様達にはしたような気がするけれど……


クリフは立派な鬼の面まで持ってきているんだけど。なんかやる気満々みたいだ。


「もう、恋人がどうするかは聞いたこと無いけれど、私はクリフに向かって豆は投げたくない! 面は被らなくていいから」

私はそう言うと部屋の窓を開けたのだ。



「恋人はおそらく、豆まきは一緒にするんだと思う」

そう言うと片手でクリフの手を握ったのだ。なんか恥ずかしいけれど……


そして、もう一方の手で豆を持つ。

クリフは戸惑ったみたいだが、豆を掴んでくれた。


私は外に向けて「鬼は外!」

と叫んで豆をまいた。


「鬼は外!」

クリフも握った手と反対の手で窓の外に豆をまく。


今度は部屋に向かって

「福は内!」

と言って豆をまいた。


「福は内!」

クリフもやってくれた。


「そう、こうやって私達二人に降りかかる厄災を払って、幸せを呼び込むんだと思う」

私がクリフを見上げて言うと。


「そうか、そうだよな。愛するものは二人でこうやるんだ!」

そうクリフはなんか感激していってくれるんだけど。


「ありがとう、アオイ、愛しているよ」

クリフは喜んで言うと、ぎゅっとそのまま抱きしめられてしまったんだけど……


えっ、いきなり抱きしめる?

私は赤くなってしまった。



「これからもずっと毎年やろうな」

そう言われて私はクリフの腕の中で頷くことしか出来なかったんだけど。



窓から入ってくる風は冷たかったけれど、真っ赤になっていた私は寒さなんて感じなかった。




帝国ではそれからは毎年この時期に愛する二人が豆まきをする風習になったそうだ……

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