第80話 草原の民の所から帰る途中で襲われました
宴会ののりは凄かった。
私は宴会なんて初めて参加したけれど、どこもすさまじい盛り上がりでびっくりした。
「まあ、まあ聖女様も一杯どうぞ」
ヴァーノン族の皆が次々に注ぎに来てくれるんだけど、
「ちょっと皆、アオイはお酒は駄目だから」
「ええええ! お祝いなのに!」
「駄目ったら駄目」
ポーラが必死に止めてくれた。
「じゃあ、殿下が替わりに」
ヴァーノン族のおっちゃんは矛先をクリフに替えるんだけど。
「いや、さすがに俺も、もういっぱいで」
「そう言わずに、今日は殿下のお祝いでもあるんじゃないですか」
「えっ、まあ、そうか」
断りきれずにクリフは飲まされていた。
でも、良いのか? 帝国の皇子を酔わせて! と思わないこともなかったが
「なあに、祝だから問題ない」
とヴァーノン族の皆は言うんだけど、そんなものなのか?
それに、クリフはまだ19で、私の基準ではお酒は20からだと思っていたのだが、この国ではそんな決まりはなくて、ヴァーノン族は物心ついた時から飲んでいるんだとか。日本も成人は18になったけれど、お酒は20からのはずだ。まあ、海外ではもっとおおらかだったような気もするし。
エイブも結構注がれていたが、問題ないみたいだった。というか、こいつはウワバミだ。全然酔っていない。
ボビーは注がれもしないのに一人で飲んで、泣いているんだけど。泣き上戸みたい。
ポーラに言ったら、「あれは仕方がないわよ。飲ませてあげなさい」
と訳の分からないことを言われたんだけど……
良いのか?
結局、私達は夜遅くまで騒いでいたのだ。
翌日目を覚ましたら、私のベッドの隣でクリフが寝ていたんだけど……
完全に酔っていたみたいだ。
普通の女の子は悲鳴を上げるのかも知れないけれど、私はよく、クリフと寝ているので、それも、いつもは私がクリフの布団に潜り込んでいるので、何も言えなかった。
起きようとして、クリフに完全に抱きつかれていて起きられない。
「クリフ!」
私が揺り動かすがびくともしない。
「ちょっと殿下! さすがに、まだ、結婚していないのにアオイと一緒に寝るのはどうかと思うんですけど」
様子を見に来たボビーがヒステリックに叫んでくれた。
「えっ、なになに」
クリフがやっと目を覚ましてくれた。
「殿下」
無理やり、ボビーが引き剥がしてくれる。
ボビーの目も寝不足なのか、真っ赤だ。
「ああ、悪い悪い」
言いながらクリフが頭を押さえていた。
「本当にしっかりして下さい。寝ぼけてアオイのベッドに入るなんて最低です」
ボビーが文句を言うが、
「たまに、眠れないって、アオイがベッドに入ってくるけど」
クリフが余計な事を話してくれた。
ちょっと、今言うことじゃないよね。あれは側妃様が怖かったんだって!
「えっ」
ボビーが固まっているんだけど。
「クリフの冗談よ。冗談!」
私がクリフの口を塞いで慌てて言い訳する。
「そうか、冗談ですよね。流石に」
ボビーが納得してくれたが。
「アオイ、良いのか、そんな事言って。もう、怖いと言っても布団の中に入れてやらないぞ」
クリフが小声で脅迫して来た。
「ふん、良いわよ」
私がムッとして言うと
「ちょっとそこ、イチャイチャするな」
まだ酔っているのかボビーが赤い目で怒ってきた。
その後、昼頃にポーラが家畜の所に連れて行ってくれて、私は生まれて初めて子ヤギを抱っこさせてもらえた。本当に可愛かった。
滞在中は、私が聖女だと噂を聞いて、近郊にいるヴァーノン族の人達やこの街にいる人達で、病人や、手足を負傷して治らなかった人達がたくさんやって来たのだ。
そんな人達にできる限り癒やし魔術をかけたのだ。
特に手足が欠損していた人にはとても喜ばれた。
何処に行っても皆が「聖女様」と呼ばれるのはさすがに恥ずかしかったけど……。
そんなこんなであっという間に滞在日が終わって、帰る時が来たのだ。
見送りの人は1万人を超えていたと思う。
近場の人が皆見送りに来てくれたのだ。
「聖女様。この御恩は忘れませぬ」
カルヴィンさん等、私が治療した人達は、とても感謝してくれていた。
私達はヴァーノン族の人達に盛大に見送られて、帝都への帰途に着いたのだ。
「クリフ、良かったの? 私が聖女様って呼ばれ出したけれど、あまりヒールを使えることは大っぴらにするんじゃなくて、内緒にしないといけなかったんじゃないの?」
街を離れて私がクリフに聞くと。
「今更言うか、あれだけヒールを使っておいて! どのみちアオイが聖女だという話は広まり始めていたんだ。いい機会だろう」
クリフは平然と言ってくれるが、そんなものなんだろうか?
「アオイが聖女だって言うほうが俺も都合が良いしな」
何が都合がいいのかよく判らない。
それを聞こうとした時だ。
クリフがいきなり抜剣したんだけど……
「えっ?」
クリフが抜いた剣を一閃すると、弓矢が弾かれて横の木に突き刺さったのだった。
私は慌てて前を見ると弓矢を持った大勢の兵士達が前に現れたのだ。
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