第3話 いきなり魔物に襲いかかられて私を庇って傷ついた貴公子に癒やし魔術を発動しました。

「ど、奴隷!」

私は唖然としたのだ。


私は人間だったのにいきなり奴隷の首輪をつけられて奴隷にされてしまった。


聖女として召喚されたのに、親友に裏切られて王宮を追放された。そんな私が破落戸に襲われている所を助けてくれた親切な貴公子だと思ったのに、今度はその男に奴隷にされてしまった……


あまりのことに私は気を失ってしまったのだ。





「鬼クリフ、悪魔クリフ、鬼クリフ」

私は花びらを一枚一枚取っていた。


「何をしている? ペチャパイ」

後ろからクリフが私の手元を覗き込んできた。


「花占いよ。クリフが鬼か悪魔か占っているの。それと私はペチャパイじゃないわよ。アオイって名前があるんだから」

私はムッとして言った。


「無いものは無いだろう」

クリフは私の胸を見て無情にも言ってくれるんだけど、

「次言ったら叩く」

私がきっとしてクリフを睨んだら、


「奴隷のくせに口調が生意気だぞ」

「私を騙して奴隷の首輪を嵌めたくせに、悪魔、鬼、人でなし、きゃっ」

クリフの言葉に私は怒りの余り馬から落ちそうになった。


「おい、暴れるな、落ちるぞ」

慌ててクリフは私を抱きとめてくれた。


その時に胸に触られたのた。


「どこ触ってるのよ」

「おい、やめろ、グッ」

私はクリフに思いっきり肘鉄を食らわせてやったのだ。


「お前、今のはわざとじゃないだろう。落ちそうになったのを助けてやったのに」

「それでもレディの胸に触るなんて最低」

「胸なんか無いくせに」

ボソリとクリフが言ってくれた。

「何か言った?」

私が後ろを睨みつけると


「何も。それよりも、また落ちるぞ。俺の手に掴まっていろ」


そう、私は今クリフの愛馬のホワイトの上でクリフの前に抱き抱えられて旅しているのだ。

白馬だからホワイトってクリフのネームセンスを疑うんだけど。



気絶した翌日、気がついた時にクリフがこの世界について教えてくれた。


私を召喚してくれたのが、アリストン王国という大陸中央に位置する小さな王国で、女神教を信仰している。女神教の総本山があるそうだ。


そして、その女神教の教祖と言うか、預言者、あるいは女神の生まれ変わりが聖女様で、聖女が亡くなる度に異世界から聖女を召喚しているらしい。


現聖女が昨年亡くなったので、この度の召喚の儀になったらしい。


本当にムカつく。それに巻き込まれた私は本当にいい迷惑だった。聖女の資質がないと判った途端に右も左もわからないこんなかわいい子を外に放り出すなんて許さない。私がぶつぶつ言っているのを目の前で聞いていたクリフが「自分の事をかわいいって言うか」と呟いていたが無視だ。美人って言わないだけちゃんと現実を見ているでしょ。そう思ったらさらに呆れた視線を向けられて、更には無い胸を残念そうに見られたので足を思いっきり蹴とばしてやったんだけど……この男はびくともしなかった。

本当にもう最悪だ。


「私が可愛い女の子だから、破落戸共に拉致されそうになったんでしょ。そこにさっそうと現れた王子様が実は奴隷狩りの男だったみたいだけど」

「色々突っ込みたいところは満載だが、俺は奴隷狩りではないぞ」

「じゃあ何なのよ!」

私がむっとして言うと

「隣の国の冒険者だ。聖女召喚の儀が執り行われると聞いたから隣国から来たら、変な格好の女の子が王宮から放り出されたのを見たから、助けてやったら召喚された女の子だったんだ」

「でも、何で奴隷の首輪を嵌める必要があるのよ」

「それは身分証も兼ねている。この国の身分証か旅券がないと捕まって売り飛ばされかねないからな」

クリフは言ってくれるが

「もっともらしい言い訳しても私を奴隷にしたのは同じじゃない」

私がむっとして言うと

「この国にいる間だけだ。出たら外してやるよ」

そう言われたので、この国の王宮を追放された私はクリフの国に一緒に行くことにしたのだ。


騙されて奴隷になった男の言うことなんて信じて良いのか? 


確かにそう思わないでもなかったが、このクリフは便利なのだ。狩りや釣りが上手くて、料理もとても上手いのだ。


本人言うには焼いたり鍋にしているだけで、何でも無いとのことだったが。

私は病気がちだったから包丁を持たしてもらったこともないし、料理なんかしたこともなかった。

だから、今は料理も全部クリフ任せなのだ。


私はただ、クリフの愛馬の前に乗せてもらっているだけで、これではどちらが奴隷か判らなかった。

料理も雑用も全部クリフがやってくれているのだ。


この国では奴隷は認められているが、クリフのいる国では奴隷は認められていないとのことだった。

戸籍もなにもない私をこの国から出すには奴隷にするのがいちばん簡単なんだそうで、関所はこの奴隷の首輪を見せれば確かに簡単に通過できた。


そもそも私はクリフのことをご主人さまともクリフ様とも呼んでいない。クリフが呼び捨てでいいと言うので呼び捨てにしている。流石に私も関所の前では静かにしていたが……


でも、奴隷の首輪をはめる時は、私に事前にちゃんと話してからやってほしかった。勝手に奴隷にしてくれたのはクリフなのだ。私はその点はまだ許していなかった。


「よし、今日はここで野宿しよう」

クリフは峠の途中の少し広くなった所で馬から降りた。

そして私を抱きとめて降ろしてくれる。


「ありがとう。クリフ」

私はお礼を言った。


「俺はこの川で魚を釣る。その間にアオイは薪を集めてくれ。できるだけ太い木を頼むぞ」

「判ったわ」

私は頷いた。


「魔物がいるかも知れないからくれぐれも気をつけろよ」

クリフが注意してくれた。

「判ったわ」

私はできる限りクリフから離れないように周りから薪になりそうな木を拾い集める。

こんなふうに普通に旅して薪拾いが出来るなんて想像したことも無かった。

そう、不思議なことに、私の病気は落ち着いていた。というか、普通これだけ起きて行動していると高熱を出して寝込んでしまうのに、転移してきた初日に気絶して以来寝込んでいない。


こんなふうに熱も出さずに元気に歩き回れるなんて久しぶりだ。


何でも、この奴隷の首輪は奴隷の病気を抑える効能もあるみたいで、こんなんだったらずうーーーーーっとしていても良いかもって思わず思ってしまった。


そうクリフに言ったら、「じゃあ俺の奴隷にしてやろうか」

そう言ってくれたクリフの弁慶の泣き所を思いっきり蹴ってやった。

まあ私のキックでは全然効かなかったみたいだけど……


私は馬に乗ったことも無かったから、馬の上の景色はとても素晴らしかった。


特に雪を戴く山を見た時は感動したのだ。今も目の前に見えている。

病弱な私は日本ではこんな景色を直に見たこともなかったのだ。


ここに連れてきてくれた、クリフにとても感謝していたのだ。


本人には言っていないけれど……



そんな私は考え事をしていて、気付くのが遅れた。


木を見つけて屈んだ時だ。


ビュっ


私の背中を何かが通り過ぎだのだ。


「きゃっ」

私はその巻起こった風で飛ばされた。


転がって立ち上がろうとして、目の前に凶暴なティラゴンがいたのだ。


テイラノザウルスそっくりなその魔物は山に住む凶暴な魔物だった。


私は恐怖で固まってしまった。



私はティラゴンがその凶暴な爪をきらめかした手を振り下ろした時、動くことも出来なかったのだ。


「アオイ!」

私の前にその瞬間叫び声とともにクリフが現れてくれたのだ。


そのテイラゴンの腕の攻撃を釣り竿で受けてくれたのだが、釣り竿は一瞬でティラゴンに壊されて、クリフがグサリとティラゴンの爪を肩から受けていた。


「クリフ!」

私は叫んでいた。


「ギゃーーーー」

しかし、次の瞬間クリフの手から炎の魔術が飛び出し、ティラゴンを丸焼きにしていた。


「クリフ、大丈夫?」

「ああ」

クリフが頷いてくれた。


「何だ、大したこと無かったんだ」

私がそう言ってクリフに駆け寄った時だ。

クリフがぐらりと揺れて倒れたのだ。私は受け止められなかつた。


クリフは腹を切り裂かれて虫の息だった。


「イヤーーーー」

私は悲鳴をあげた。


嫌だ、嫌だ! クリフが死ぬのは嫌だ。


私はとっさに叫んでいたのだ。


「ヒール」と

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果たしてアオイはヒールが出来るのか?

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