幕間 悠子ー調査

 ある日の給湯室。給湯室とは、食堂ではなく、自分達が休息の際に利用する簡単な場所だ。簡単だが、こじゃれた机と椅子、目利きが選んだか、値段の割にはおいしい茶葉と雰囲気のある急須が準備され、この会社が現在、販売展開している、電気ポットと電子レンジが置かれている。お茶くみという職の人はいない為、男でも女でも、自分で勝手にお湯を沸かし、必要なだけ入れて飲む。その後、貯金箱に、お茶代を

気持ちで払うことになっている。それはあいまいすぎて、どうしていいかわからない人の為に目安という金額が貯金箱を持ち上げると下に書いてあったりする。3年で立ち上げたにしては、まあまあの仕組みだ。

 あたしはそこで、一緒の時に入社した詩子と紅茶を飲んでいる。


「社長の奥さん?、確か、企画部にいるんじゃない?」

総務部所属の詩子が言う。

「え、悠子、社長の秘書じゃん。何で、知らないの?」

「社長、個人的な話、全然しなくってえ。」

「する時間は確かになさそうだよねー。水も滴るいい男なのにねー。いろいろ聞きたいよねー。きゃっ。」


 詩子が、ふっと思い出したように付け加える。

「悠子さ、もしかして、苗字、数奇で探してる?」

「どういうこと?」

「奥さん、旧姓で働いてるんだよね。夫婦別姓の取り組みの一環らしいよ。今、法律上は夫婦別姓って出来ないけど、社員でそれを望む人が出てくるかもしれないし、法律も変わっていくかもしれないから、実害があるかどうかの試験なんだって。」


何それ。あたし、一生懸命、数奇姓、捜していたのに。

「じゃあ、あたしの知ってる人?」

「知ってるといえば、知ってると思うよ。」

「何、その思わせぶりな言い方。」

「企画部の暗部寿さん。名前は聞いたことあるでしょ。」

「ある気はする。。かも。」

「でも、すっごーく、目立たないよね。」

「多分。」

「目立たないって程度が、地味だからって、色付けできるほうじゃなく、本当、存在が目立たない。でも、仕事の成績は残す、外国の物語に出てくる小人さんのような人。」

「なんか、引っ張るね。」

「あの暗部一族の末裔だってさ。ほら、忍者の里で有名な。」

「うっそー。」

「ははっ。その噂が本当かどうかは知らないけど、必要な人にしか存在を残さない技があるのは確かだな。」


「盛り上がるのはいいが、うちの部は現在、裁量労働制試験導入中だぞ。長時間いるだけじゃ残業代やらんぞ。自分の首絞めないようになー。」

 総務部長が自分のお茶を入れにきた。潮時か。


「おっしゃる通りですわ。仕事に戻りますね。」

 貯金箱に、人に見えるよう、目安より多く入れる振りをして、小銭を指の中に残し、目安以下の額を入れる。

こんのハゲおやじ。頭の中で罵倒しつつ、顔には仕事上の笑みを浮かべ、私はそこを後にした。






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