第682話 導きと希望と

 大量の水の処分に頭を抱えていたショーカンをレオが訪ねて来た。


「ショーカン、迷宮ダンジョンへ行くよ」


 ドアを開けると、ちょっと吊り目の強気なレオがそこにいた。


迷宮ダンジョンって?」


「そう迷宮ダンジョン


「なんでまた? 藪から棒に」


「あれから私も考えたんだ。ショーカンは迷宮ダンジョンから出て来た。だから答えは迷宮ダンジョンにある」


「わかるように話してくれるか?」


 困惑してレオを見返すと額の魔素斑まそはんが薄く緑色に輝いている。

 レオはスキル『鑑定眼未来を見通す目』を持っている。その延長で『巫女』のジョブを得ていた。


「それって“お告げ”があったって事なんか?」


「お告げかどうかはわからないけど、きっとそうだ」


 顔を見るだけで泣き出していたレオは影を潜め、何やら確信を持った目をしている。

 これは何かの導きではないか、と思ったらひらめいた。


「そうだ! 迷宮ダンジョンには海があったな。それだよ、それ」


 迷宮都市タレントゥムスの迷宮ダンジョンの第八層には海があった。そこへなら大量の水を放出しても問題ないだろう。


「レオ、助かった。早速行かなきゃな。もう――」


 時間がないんだ、とは言えなかった。

 あと2、3日で俺が終わるって事も。だから一つ条件を出した。


「――――なんだ、その、他に考えがあるわけじゃないし。その代わり頼みがある」


 レオの肩に手を添えて祈るように窺い見る。


「レオは王都に居てくれないか? 大量の水がこの中に収納されてるんだ。それこそ洪水を起こすぐらいの、あいたっ!?」


 レオが俺のすねを蹴りつけて来た。

 

「まだ消えるって決まったわけじゃない。

 迷宮ダンジョンは水だけじゃなくてショーカンのためになる。どこへ行けば良いか、私なら最短で連れて行ける。今、ショーカンには私が必要なんだよ」


 彼女の目には悲嘆の影はない。彼女の見つけた答えには希望があるって事なんだろう。俺だって消えたいわけじゃない。 


「ミランダさんが魔導車を準備してくれている。行くよ」


 レオの言葉に自然と頷いていた。


 王都システィから迷宮都市タレントゥムスまで200キロ。魔導車なら夕方前には着くはずだ。

 希望が見えて少し胸が軽くなった。


「よし、行こう」


 ――――15時を過ぎたあたりで。

 迷宮都市タレントゥムスに到着すると、普段なら城壁の通用門で足止めを喰らう所をすんなり通された。

 車窓から外を見ると懐かしい顔が手を振っている。


「ベルトラン隊長、マーベルまで? どうした?」


 驚きと共に鼻の奥がツンとして視界がぼやけた。

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