第33話:温かな日々

2年目春になる前、まだ冬


「「「「かんぱ~い」」」」」


 巨樹が造ってくれた地下街はとても過ごしやすい。

 気温が17度前後なので薄着は無理だが、地上の極寒とは比べ物にならない。

 絹の下着と綿の上着をはおったら十分温かい。


 十分温かくした状態で、凍結させた清酒を飲む。

 ワインは凍結したら味が落ちるのだが、清酒は新たな美味しさになる。

 だが、シャーベット状になった清酒を美味しく飲むには、大切な条件がある。


「もう煮えたぞ、好きな奴から自由に取れ」


 温かい料理が不可欠なのだ。


「「「「「やったぁ~」」」」」


 大きな鍋に多くの具材を入れた料理、おでんが煮えている。

 俺が大好きな厚揚げを作る事ができたから、5つは食べるつもりだ。

 モチは、俺が食べる鍋に入れないようにしてもらった。


 俺の鍋にはタコ、カニ、スジ肉、魚のスリ物、貝がたくさん入れられている。

 だから金猿獣人族はいない。

 俺と同じ鍋を囲んでいるのは、エンシェントドワーフたちだ。


 金猿獣人族のおでん鍋には肉も魚も入れられていない。

 ダシは多くのキノコとコブだけで取られている。

 そこに根菜を中心に葉物野菜が入れられている。


 誰もが自分の好きな物だけを入れて食べるおでん鍋だ。

 食べたくない嫌いな物がある人は、前もって言っている。

 苦手な食べ物が同じ、好きな食べ物が同じ者が鍋を囲んでいる。


「村長、蒸したカニが一番美味しいが、出汁で煮たカニも美味いな!」


 ヴァルタルがカニと凍結清酒を交互に口に入れながら言う。

 他のエンシェントドワーフは言葉にせず、うなずいている。

 俺もそう思う、ただ、一瞬歯が痛くなるは何とかならないか?


「村長、煮卵はどうしましょう、鍋に入れますか?」


 給仕妖精が聞いてくれる。


「煮卵は別で食べる」


「ここに置かせていただきますね」


 俺が使っている取り皿とは別に、煮卵だけを入れた皿を目の前に置いてくれる。

 おでんの味付けよりもかなり濃い、半熟トロトロの煮卵!


 俺はおでん鍋から白菜ロールを取った。

 白菜ロールに半熟煮卵を割ってかけて食べるのが大好きだ。


 魚介と肉の具材から出た濃厚なダシを吸うのはダイコンと白菜ロール。

 それとおでんのダシを汚さないハルサメ。

 うどんもラーメンもモチも、ダシを濁すから俺の鍋では禁止。


 もちろん、うどんやラーメン、モチを入れたい人のおでん鍋もある。

 ハルサメを入れるのも嫌だという人のおでん鍋もある。


 多くの人の好みに合わせたおでん鍋があるが、1番多いのは全アリだ。

 この村で1番人数が多い妖精族と1番強いエンシェントドワーフ。

 彼らが何でも美味しく食べるから、全アリおでん鍋が1番多い。


「そのまま食べていてくれ」


 俺はそう言うと食事の席を外した。

 完全に酔っぱらってしまう前に、やるべき事をしないといけない。


 おでん鍋を始める前にやってはいるのだが、余りに楽しくて、本当にあれでよかったのか、気になった。


 魔境神と弱神たちに酒を捧げる祭壇に行った。

 俺の後を給仕妖精たちが酒とおでん鍋を持ってついて来てくれる。

 自分で持つと言ったのだが、危ないと言って持たせてくれない。


 祭壇に捧げておいたはずの凍結清酒とおでん鍋が全てなくなっている。

 魔境神と弱神たちが飲み食いしたのだと思う。

 おかわりを奉納する必要はないのだが、思いついてしまったのだ。


 これほど幸せな生活をさせてくれている三柱神に何も奉納していない。

 魔境神と弱神たちに奉納する前に三柱神に感謝を捧げるべきだった。

 だから料理妖精たちに頼んで四つのおでん鍋を用意してもらった。


 もちろん、誰よりも感謝しなければいけない三柱神にはおでん鍋を1つずつ。

 凍結清酒だけでなく、凍結高酒精エールとラガー。

 全ての村人から絶賛されている各種果物ワインを奉納した。


 この世界の物を自由に飲み食いできる魔境神には、凍結清酒をお代わり奉納。

 封印されて何も飲み食いできなくなった弱神は数が多い。

 不足がないように数を確かめて、各種おでんと凍結清酒を奉納した。


「まあ、気持ちは良く分かりますが、神様なのですから……」


 魔境神と弱神たちに奉納したおでんと凍結清酒は一瞬でなくなった。

 給仕妖精たちが苦笑いしている。


 自分たちも、俺の造る酒に魅了されてここに集まったので、バカにはできないが、神なのだからもう少しがまんしろと思っているようだ。


「ここに捧げているお酒と料理は、俺をこの世界に連れて来て下さった、来訪神様と守り神の二柱の方々の物だ。

 これから毎日毎食奉納する事にする。

 封印されている神々と同じように毎日毎食奉納する。

 三柱の神々のお酒と料理が消えなくても、そのまま捧げておいてくれ。

 次のお酒と料理を奉納する時に下げるようにしてくれ」


「食べ物をとても大切にされる、いつもの村長とは違いますね」


「俺のいた世界では、神様に捧げた食べ物は『おさがり』と言って皆で分けて食べたるのだ、三柱に神様に奉納した酒と料理も同じようにする」


「分かりました、村長をこの世界に連れてくださった神様です。

 あのような、すばらしいギフトを授けてくださった神様です。

『おさがり』という風習を尊重させていただきます」


「ああ、頼むよ、つき合わせて悪かったね、今度は俺が給仕するよ」


「だいじょうぶでございます。

 私たちは給仕の仕事に誇りを持っております。

 安心して食事をされてください。

 どれほど深酒されてもだいじょうぶでございますよ」

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