第13話 新しい家が決まりました。

 12月29日、年越し目前ではあるんだけど、お父さんはここで漸く年末のお休みに入った。そして、私たち家族は、みんな揃って緑区にお家を見に来ている。


「一戸建てが良いと思うんだけどなあ」


 未だにお父さんはブツブツと何かを言っているけど、お母さんは完全無視ですね。実は、先日のお母さん宝くじ当たっちゃった報告の翌日、珍しく会社から早く帰って来たお父さんは、唐突にお母さんに家の事を話し始めたらしいです。


「いやあ、会社の人達と話してたらさ、買うなら絶対に一戸建てだって言ってたんだよ」


「え? その会社の人も家を買うの?」


 帰って来て早々に話される内容に、お母さんはキョトンとした表情を浮かべていました。私やお姉ちゃんも、ご飯を食べ終わって食卓で一緒に冬休みの宿題をしていた。そんな中で、私達への挨拶もそこそこに話始めたお父さんに、女三人揃って首を傾げる。この段階ではお父さんが何を言っているのか判らなかったんだよね。


「何言ってんだよ。お前が家を買うって言ってたんじゃないか。それで部長とかにその話をしたら、買うなら絶対に一戸建てだって。土地とかも含めて資産になるし、マンション買うより絶対に良いって」


 う~ん、まあ間違ってはいないのかな? どうなんだろう? 資産価値とか考えたら一戸建ての方が良いのかな? そもそも、自分で家を買った事が無い私は、それが正解なのかどうかは判らない。その為、お父さんの言う内容を考えていた。


「家を買うの?」


 家を買う事をまったく聞かされていないお姉ちゃんが、不思議そうに首を傾げている。


 昨日の夜に二人でお父さん達の会話を聞いてはいたけど、お姉ちゃん的には今ひとつ会話の内容を理解していなかったのだろう。その為、ここでお父さんの家を買うと言う話を聞いて、驚きの眼差しでお母さんを見る。


「まだ決定じゃないわよ? ただ、買おうかっていう話をお父さんとしているの」


「すごい! あのね、日向は自分の部屋が欲しい!」


 お姉ちゃんは家を買うという事に大喜びして、まずは自分の部屋が欲しいと言い出した。


 まあ、お姉ちゃんももう中学生だし、妹と一緒の部屋はそろそろ卒業したい頃なんだと思う。ただ、今まではそれで仕方が無いと思っていたんだろうけど、もしかすると自分の部屋が持てるかもという話にちょっと興奮気味です。


「そうね、日向ももう中学生だし、2年後には高校生だものね」


「やった!」


 お姉ちゃんの話にお母さんは笑顔で答えています。でも、お姉ちゃんは気が付いていないみたいだけど、お母さんの表情というか目が怖いです。笑っていません。


「まだお家は決まっていないから、みんなで考えて行きましょうね? ちょっとお母さんはお父さんとお話するから、二人は自分の部屋に戻っていてね」


「え~~~っと、は~~い、行こっか、日和」


「うん」


 お母さんの様子がちょっと心配だけど、お姉ちゃんと一緒に子供部屋へと戻りました。


「凄いね、自分の部屋が持てるかもだよ」


 そう言って喜ぶお姉ちゃんだけど、前世だと大学に入るまでずっと二人部屋だったからね。確かに何かと不自由はしていた。特にお姉ちゃんは、私から色々な物を隠すのに苦労をしていたのを覚えている。


 新しい洋服とか、ブランド品の鞄とかね。


 そんな事を思い出しながら、率直にお姉ちゃんに尋ねてみた。


「お姉ちゃんは、私と一緒の部屋は嫌なの?」


 今のお姉ちゃんは、ハッキリ言って前世のお姉ちゃんを欠片も想像できないくらい真面目です。学校の成績もだいたい学年で10番以内にいるらしい。この数年で、此処まで変わるだろうかと驚くぐらいに変わっちゃいました。2度目の人生をやり直しているはずの私だけど、成績でお姉ちゃんを上回るのは無理だと思っています。


「馬鹿ねぇ、嫌じゃ無いよ。でもさ、今も遅くまで勉強してたりで寝るのが遅くなってるから、日和もそのせいで寝るの遅いでしょ? 来年は高校受験だし、もっと遅くなると思う。だから部屋が別々になれば、日和に迷惑を掛けなくて済むじゃん」


 なんと! お姉ちゃんが此処まで私の事を考えてくれるとは思っても居ませんでした。私はどうしても前世のお姉ちゃんの悪いイメージを引き摺っているのかもしれません。未だにお姉ちゃんの事を信用できずにいる自分に、思わず嫌悪感を感じてしまいました。


「お姉ちゃんありがとう! 変な事を聞いてごめんね」


「馬鹿ねぇ、日和を嫌ったりしてないよ? 可愛い妹だよ」


 抱き着く私に対し、お姉ちゃんは笑いながら抱きしめ返してくれました。


 ここで話が終わっていれば綺麗な感じで終わっていたんでしょう。

 ただ、問題はこの翌日にありました。お仕事から帰って来たお母さんから、私は昨日のお父さんとのあらましを聞いたんです。そして、転生後の自分の判断を思いっきり褒めてあげたくなりました。


「え? お父さん会社の人に話しちゃったの?」


「ええ、思いっきり自慢したみたいよ」


 何と、何と! お父さんはお母さんが宝くじで5000万円当たった事を会社の人達に自慢しまくったみたいです。


 お母さんが、口を酸っぱくして、誰にも言っては駄目だと念押ししたんです。大金を手にした事を知られると、最悪は子供達にも被害が及ぶから。だから絶対に宝くじが当たった事は内緒にしてねと言ってあったんです。


 そして、お父さんも判ったと言ったらしいのですが、翌日にはもう会社でみんなに自慢しちゃったそうです。


「色々と言い訳をしていたわよ? でもね、さすがに言った翌日とは思わなかったわ」


「凄いよね。私も思わなかった。子供の事とか考えなかったのかな?」


「あの人が、自慢せずにいられるものですか。それこそ、得意満々に話をしたんだと思うわよ」


 都市伝説ですから実際は判りませんけど、宝くじの高額当選した人って決して身内とかにも当選した事は安易に言わないようにと説明されるって聞きますよね。

 どんな厄介事を招き寄せちゃうか判らないですから。そう考えれば当たり前の事のように思います。それでも、引っ越ししてから周りの人に色々と聞かれて、良くお金があったねとか言われて、ついつい自慢しちゃうとかは私もお母さんも覚悟していました。


「あの人の自己顕示欲を甘く見ていたわ」


「うん、私も吃驚だよ」


 ただ、この件でお母さんが一気に優位に立ったため、引っ越し最有力候補は利便性の良い4LDKのマンションになりました。一戸建てとかだと金額もあるんですけど、まずは駅まで遠いのでお父さんもお母さんも通勤とかで不便なんですよね。

 ただ、お父さんは未だにマンションじゃ無くて一戸建てがとか言っています。でも、普通はこれって男女逆じゃ無いのかなって思うんですよね。


「うわあ、こんな感じなんだ。凄い綺麗だね」


 マンションはまだ建設中で、来年3月に完成予定です。その為、私達はモデルルームを見に来ています。


「そうね、ダイニングとキッチンの間にカウンターがあるのね。思ってたより良い感じね」


「うわ~~~、こんななんだ」


「こっちが子供部屋になるの? それともこっち?」


 お父さんを除いた女性3人は、始めて見るモデルルームの綺麗さにテンションマックスです。私も、前世を含め人生初めてのモデルルーム見学で、思いっきり興奮状態です。


「これで3000万円ならお得なのかしら? バブルの頃なら4000万円を超えてたんじゃない?」


 お母さんがモデルルームの人に視線を送ると、思いっきり苦笑しています。


「そうですね、このクラスの分譲ですと4000万円半ばくらいでしょうか? そう考えればお求めやすい価格になっていると自負しております。ご希望は4LDKタイプで宜しかったですか?」


「ええ、ただ5LDKも気にはなっているの。そちらはまだ空いています?」


「最上階の角部屋がまだ空いていますが、一番価格が高い部屋となりますので」


 5LDKはマンションでも最上階のみなんですよね。ちょっと差別化を図っているみたいです。そのせいもあってお値段は4500万円、中層階の4LDKとの価格差はなんと1500万円も違います。下手するともう一部屋買えちゃいそうですよ? 改めてマンションを買うという事で知ったのですが、購入する部屋の階層と、配置などで価格が違うんです。


「一戸建てと値段が変わんないなら一戸建てだよな。何でマンションなんだよ」


 お母さんが中心で話を聞いていると、後ろでお父さんが何かブチブチ言っています。ショールームの人も、チラチラとお父さんの事を気にしているみたいです。ただ、お母さんは終始ガン無視しています。


 その為、ショールームの人はあくまで説明はお母さんにする事にしたみたいです。


「そうね、5LDKを買っても貴方達が独り立ちしたら部屋を持て余すわよね。4LDKにしておきましょう。3LDKも価格を考えれば悪くないんでしょうけど、子供部屋2つとなるとのこりは寝室にしないと駄目なのはキツイわ」


 ちらちらお父さんへ視線を向けるんですが、余った一部屋はどうするのでしょうか? 普通に考えると、お父さんの仕事部屋? ちょっと気になります。


 あと、5LDKはお父さんに対するパフォーマンスだったのかな? それとも、本気だったのかな? お母さんの本心は判りませんが、当初予定していた4LDKの部屋で話を決めるみたいです。


 その後、お母さんは仮契約を結んであっさりと此処に決めちゃいました。流石に即決すると思っていなかった私達も、ショールームの人も驚いていました。


 その数日後、お母さんと話をしています。


「拙いわ、このままだと何でも買ってしまいそうで怖い」


 お母さんはブランド品などにあまり興味を示していませんでした。ただそれは、買うお金が無かったから敢えて意識を向けないようにしていたんだそうです。


「そりゃあお母さんだって、友達なんかが良い物を持っていたら羨ましくなるわよ? でも、我が家にそんなお金なんかないでしょ? だから考えても仕方が無いって考えないようにしていたのよ」


 ある意味、この割り切れる所がお母さんの強み何だと思う。普通はそれでも割り切れないですよね?


「お母さんだって欲しいもの買っても良いと思うよ? せっかくお金が入ったんだし。お父さんだって車を買ったでしょ?」


「でもね、買いだしちゃったら箍がはずれちゃいそうなのよね。でも、そっかあ、少しぐらいは良いか」


 そう言って、お母さんは翌日ファッション雑誌を買ってきました。


 まだネットが未発達だから、こういった雑誌が主力になっていた時代なんだなあ。


 そんな事を思いながら、お母さんと楽しく雑誌を見ます。


「気にしないようにしていたから、ブランドって良く判らないのよね」


「私も全然判んない」


 それでも、雑誌を見るだけでも楽しいです。


そして、結局お母さんは普段使いも出来そうな左程高くはない鞄や財布を購入する事に決めたみたいです。


 うん、お母さんが買ったら見せて貰おう。

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