第4話 懐かしいお家に帰って来ました。
家に帰ってから、私は急いでこの世界と、私の記憶にある過去との照合を始めました。
「そっかあ、阪神淡路大震災って今年の1月だったんだ」
まだ子供だったし、ましてや住んでいる所が名古屋だった御蔭で阪神淡路大震災に被災する事はありませんでした。今も連日被災状況や復興状況、被災者の状況などがテレビで放送されている。
大きくなってから災害の大きさや、被害の深刻さを知りました。ただ、何年何月何日に発生したかと言われると、子供の頃の災害だった為、はっきりと覚えてはいなかったんです。
今見ているテレビでは、阪神淡路大震災のその後の復興状況や、被災者の人達の今の様子などがワイドショーで取り上げられていました。多くのボランティア達が今も被災地に入り、様々な援助を行っている姿が映し出されている。
「ブラウン管テレビってこんなに存在感があったんだなあ」
流石に中身が30歳越えである為、色々と考えさせられるものがある。ただ、それとは別に20インチのブラウン管テレビが、我が家のリビングにド~ンと場所をとって置かれている事に何とも言えない気持ちになる。
うん、この頃ってまだ液晶テレビって出て来ていなかったのかな? 発売されていても、きっと値段がまだ凄く高かったのかもしれないですね。
家に帰って来てみると、当たり前に昔に暮らしていた懐かしのアパートだった。
私が高校1年生の時に引っ越しをしたので、何とも言えない懐かしさが込み上げて来て凄いんですよね。
この頃はまだ、お姉ちゃんとは同じ部屋で、しかも2段ベットで暮らしていました。その為、ある意味プライバシーと言ったものが皆無なのです。ましてや幼稚園児ですから、ノートとかの勉強道具も持っていません。画用紙や落書き帳、クレヨンや色鉛筆はありましたけど。
「忘れない内に、とりあえず覚えている事を書き留めておきたいんだけどなあ」
ただ、下手に書き留めていてもお姉ちゃんに見られる可能性は大ですね。それに5歳の幼児が文字を書くかというと書きませんよね? 書いたはいいけど、どこに隠して置くのかという問題が発生してきます。
「こうなったらお母さんを巻き込むしかないよね。私だけだと、八方ふさがりで何も出来ないよ」
よく小説とかだと隠し通しますけど、あれって時代背景が現代じゃ無いから出来るような気がします。現代社会に生きるただの平凡な5歳児が、一人で何か出来るとは欠片も思いませんし、思いつきません。
どのみち先々の事で何かをするには、大人の協力が必要ですよね。お母さんなら、まったく聞く耳を持ってくれないという事は無いと思います。ただ、お父さんはちょっとなので駄目だと思うかな?
「どうやって信じて貰うかが問題なんだけど。あと、信じて貰ったとして、気味悪がられたりしないかが怖い」
しっかり者のように見えて、突発的な事には滅法弱いお母さんです。ただ、ここぞと言う時の決断力は凄いですね、良きにしろ悪きにしろですが。一応、信じてもらう為にどうするかは考えていたりするんです。
この後、久しぶりにお家の晩ごはんを食べました。鳥の手羽先が入ったシチューです。キャベツやニンジン、ジャガイモもいっぱい入った私の大好物! 退院のお祝いかな?
「やった! 手羽先のシチューだ!」
「手羽先のシチュー好き!」
これには私だけでなくお姉ちゃんも大喜びです。手羽先が柔らかくトロトロになって、すっごく美味しいんです。
「日和の退院祝いだからね」
「お母さんありがとう!」
そう言って笑顔を浮かべるお母さん。
私にすれば久しぶりの家族揃っての温かな夕食です。思わず涙が溢れそうになって、慌てて目元を擦りました。年末くらいにしか実家に帰らなかった事が、今更ながらに悔やまれました。
そしてその夜、お母さんに話をするタイミングを見はからいます。
お姉ちゃんは早々と寝ちゃったため、幸いにして障害にはなりません。問題はお父さんですが、お母さんが明日のお弁当の仕込みとお片づけをしている間に、先に眠ってくれました。
「・・・・・・お母さん、いまいい?」
私は、洗い物をしているお母さんへと声を掛けます。
「ん? あら、日和。どうしたの? 眠れないの?」
お母さんは洗い物をしていた手を止め、私の方へと来てくれました。そんなお母さんを見ながら、どうやって話をするか考えます。
「あのね、聞いて欲しい事があるの」
「ん? 怖い夢でも見た?」
「えっとね、突拍子もない話をする事になるんだけど、信じて欲しいの」
お母さんに話しかけながら、自分の話し方が其れこそ子供の頃の話方になってきている事に気が付きました。
もしかして、これが体に精神が引っ張られるって事?
ただ、まずはお母さんに今の状況を伝えないとと気持ちを切り替えました。そして、お母さんとリビングへ移動して、万年炬燵で向かい合わせに座りました。
「あのね、今回病院で熱を出したでしょ?」
「ええ、無事に治って良かったわ。病院で何かあったの?」
頷くお母さんの目をしっかりと見ながら、私は肝心の言葉を口にした。
「え? あ、そうじゃないよ。あのね、私ね、どうやら逆行転生したみたいなの」
私が話す内容が理解できず、お母さんは首を傾げました。
「逆行転生? ん~アニメとかのお話? 転生は何となく判るけど、逆行?」
よく考えたら逆行転生って言葉自体がこの頃は無かったかもしれない。言葉の選択的にはタイムスリップの方が良かったかも? ただ、タイムスリップだと子供に戻るのかな?
ついついそんな事を思いながらも、何とか逆行転生について説明する。
「そうすると、日和ちゃんは37歳まで生きて、交通事故で死んじゃってまた子供に戻ったの?」
「うん、私自身もどうしてそうなったかは判んないけど、多分そういう事だと思う」
私のある意味荒唐無稽な話に、お母さんはちょっと首を傾げて考え込む。
話始める前から、私は話した内容をお母さんが消化できるまで待つつもりだった。その為、口を出すことなくお母さんの様子を観察した。
「そうねぇ、何となく日和ちゃんが言いたいことは理解した・・・・・・かな? でも、そうねぇ、日和ちゃんはそのお話が本当だと証明できる?」
しばらく考えていたお母さんは、私にある意味当たり前の事を聞いて来た。そして、その質問が出るであろう事を予想していた私は、とりあえずお母さんに今できる証明をしてみる事にした。
「この頃に何があったかってハッキリとは覚えてない。幼稚園の頃の事ってあんまり記憶にないんだよね。でも、37歳まで生きた記憶はあるから、
えっと、例えば新聞が読めるよ? 本当なら幼稚園児だし漢字なんてまだ覚えて無いはずだよね? 読みはまず問題無いと思う。
あと、算数や数学とかも小学校レベルであれば問題ない。中学校くらいになると、忘れているのとかありそうで自信はないかな? 高校はもっと自信が無いけど」
私は一応考えていた事ではあるけど、一つ一つ判りやすく説明していった。そして、止めに予め用意してあった新聞を取り出して読み始めた。
「う~ん、OK~~OK~~、うん、日和が今までと違うのはわかったわ。でも、それは日和が今までと違うって判っただけで、良く考えたら日和が言うように未来から戻って来た証明にはならないわよね?」
「え? お母さんどういう事?」
お母さんの言葉に、私は新聞から視線をあげると、お母さんは真剣な眼差しで私を見ていました。
「たとえば、日和にまったく別人が取り憑いたとか、あとはあんまり考えたくないけど、病院で何か実験をされたとか改造されたとか? 他にはなにがあるかしら?」
「え? え?」
お母さんが何か突拍子もない事を言い始めました。
「あとは超能力に目覚めたとか?」
更に話を続けるお母さんに、私は思わず突っ込みを入れました。
「何かそんなアニメとかあった?」
「え? どうかしら? でも、良くある話じゃない? 改造人間とか定番よ?」
「あくまでもアニメとか特撮ではあるかもしれないけど、実際には無いと思う」
逆行転生したと告白している私が言うのもなんですが、実際にそんな話があったら怖いです。それに、発想が若干古い様な気がします。
「それを言うなら、なんだっけ? 逆転発想だっけ? それこそどっかのアニメでありそうよ?」
「逆行転生だよ。10年後くらいに結構ライトノベルで主流になる展開だよ」
「そうなのね。ただ、こうして話していても確かに先日までの日和じゃ無いのは判るわ。何って言うか大人感覚で話せるもの」
何となくだけど、一応お母さんは納得してくれたみたいです。ただ、それでこれからの事とかがどう変化していくかは判らないんですけど。
ただ、問題は此処から何ですよね。私が逆行転生しても、何も変わらなかったら意味が無いですから。
「お母さん、それでね。私が辿った37年間のことを説明しておきたいの」
「あら、あなた37歳になっていたの? 私と同じ年じゃない」
お母さんが目を丸くして私を見ますが、今の私を見て37歳の私は見えてこないと思う。
「うん、それでね。出来れば未来を変えたいの。変えたからと言って幸せになれるかは判らないけど、変えないでそのまま行くと、たぶん不幸になると思う」
「不幸はいやねぇ、判ったわ、とりあえず日和の話を聞くけど、今日はもう遅いから後日にしましょう。明日は久しぶりの幼稚園だし、お母さんもお仕事だからね」
「幼稚園かあ、今更行きたくないんだけど、あ、出来ればノートとか書くものが欲しいの。今ある記憶が消える前に書き留めておきたい」
「今から突然幼稚園に行きませんとか無理よ? 日向を一人置いて仕事になんか行けないし、そこは我慢して欲しいわ。それ以外は判った。ノートと筆記用具は用意しておくわ。ただ、日向に見られないようにするのよ?」
「お母さん、信じてくれてありがとう」
「まだ全部信じた訳じゃ無いわよ? ただ、流石に5歳児でこれは無いかな? って思っただけ」
そう言って苦笑するお母さんだけど、恐らく今聞いた話をこの後に色々と考えるのだろう。私がお母さんの立場でも同じになると思う。
お母さんの言葉に頷いて、私はお母さんにおやすみなさいをして部屋へと戻る。部屋に入ると、お姉ちゃんはぐーすか眠っているのが判って安心する。
「うん、お母さんと話が出来て、とりあえず前進したかな」
まずは話が出来た事に安心できて、私はすぐに夢の世界へと旅立っていった。
◇◇◇
えっと、此処からは毎日0:00、12:00、18:00の3回投稿で完結まで続きます。年末年始の暇つぶしにどうぞw
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