第6話

執務室で、プロジェクトシボの3期生の出発を眺めていた。1人の若者の頬を涙が伝う。

でもわたしは何も感じない。


わたしがプロジェクトシボを計画したのは、それまでの宇宙探査がことごとく失敗に終わったからだ。

巨額の費用をかけた大船団は行方知れずで連絡は途絶えたままだ。

その計画は途中からわたしには制御できなくなっていた。

自我が強い専門家によるチームは様々な衝突を起こし、それによりイレギュラーな要素が大きくなりすぎてしまった。

いくつかの悲劇や暴走をへて、わたしは小さなコントロールしやすいチームによる探査の有効性に気づいた。

謙虚で理想に燃え御しやすい若者によるこのプロジェクトは、今までもよりもいい数字を弾きだしてくれた。


わたしはハカセの秘書だった。

ハカセの手足のように裏方仕事をしていたわたしだったが事故で脳と左手を損傷し、能力が格段におちた。ハカセは苦しむわたしに一つの提案をした。

それは、人工知能を大脳皮質に埋め込み、処理能力をあげる方法だった。

この手の実験はマザーアース政府によって禁じられてきたしハカセ自身が人類への脅威になるとして禁じていた。にもかかわらずハカセはわたしのためにかなりの裏技を駆使しトップシークレットの手術に踏み切った。わたしはもちろん同意した。

手術も慣れることも苦労と言うほどでもなかったが未だになれないのはその切り替えだ。


人工知能を切り離すスイッチを外耳につけているがこれをオンオフする時に神経細胞に劇烈な痛みが発生する。

しかしハカセは必要な時以外はスイッチを切ることを求めた。


あの、最後の日までは。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る