第 69 話

「っと! 追いついたようだな……」


 王位争いの援軍ために進軍していたベーニンヤ伯爵。

 彼を追っていたエルヴィーノは、ソーカク領の領都ヤオリオの手前にあるカジョー村で追いつくことに成功した。

 村の外の森から探知してみると、兵たちがテントを張って休んでいるのが分かる。

 このカジョーの村からなら、明日にはヤオリオに到着するだろう。

 王位争いの次戦が近いことが予想される。


「……参戦させるわけにはいかないな」


 探知を使用し、村の中をくまなく調べるエルヴィーノ。

 その結果、その眉間に皺が寄ることになった。

 どうしてかと言うと、外に張られたテントで休む者の中に見知った顔があったからだ。


「彼らは……」


 大量発生した一角兎を倒した時(第3話参照)に、マジックバッグがなかったため、エルヴィーノが闇魔法で手助けした4人組だ。

 その時に倒した一角兎の数を考えると、彼らもなかなかの実力を有していたことが予想できる。

 そのため記憶に残っていたエルヴィーノは、彼らの様子を見ると体の一部に違和感を覚えた。


「隷属魔法か……」


 違和感には心当たりがある。

 奴隷化の魔法陣によるものだ。

 主人の命令に従わない場合に発動し、奴隷に苦痛を強制することができる魔法陣だ。

 場合によっては死に至らしめることもできるため、奴隷は嫌でも主人の命令に従わなくてはならない。

 彼らとしては逃げ出したいところだろうが、そうできないのは隷属魔法をかけられているからだろう。


「と言うことは周りも……」


 4人の周囲にいる人間のことも調べてみる。

 エルヴィーノが思った通り、他の者たちにも同じように隷属魔法をかけられているようだ。

 全員表情が暗いのも、隷属魔法をかけられているのだから当然だ。


「……ベーニンヤ伯爵の前に、奴隷化された連中だな……」


 ここまで来たのは、ベーニンヤ伯爵へ密かに報復をするためだったが、知り合いを放置するわけにはいかない。

 そのため、エルヴィーノは先に奴隷化されている者たちを救い出すことにした。






◆◆◆◆◆


『なんでこうなったんだ……』


 パーティー名【月の光】のリーダーであるカトゥッロは、どうしてこのような現状になってしまったのか考え込んでいた。

 いつものように魔物討伐の依頼を受け、討伐に向かったところ、背後から多くの人間にから襲撃を受けた。

 多勢に無勢と言うこともあり、あっという間に自分たちは気絶させられてしまった。

 そして目を覚ますと知らない場所で、自分たちの体の一部に奴隷の魔法がかけられていた。

 自分たちを攫った者たちの話だと、ハンソー王国の貴族の命令によって農研者を攫ってくるように言われたそうだ。

 そして、これから起こるハンソー王国の王位争いの戦いの奴隷兵として利用するために、自分たちは誘拐されたという話だ。

 誘拐犯たちからは、抵抗しなければ危害を加えないと説明を受けた。

 それもそうだろう。

 これから始まる戦いで活躍してもらわなければならないため、余計なことをして気持ちを乱さないように配慮したためだろう。


『活躍すれば解放するなんて言っていたが、どうせ嘘だろうな……』


 攫われ、奴隷化された冒険者たちは自分たちだけではないかった。

 どこから集めたのか分からないが、100人近い冒険者たちが自分たちと同じように攫われ、連れてこられたようだ。

 中には見知った顔の者もいる。

 その者も、自分たちと同じようにCランクだったはずだ。

 どうやら、ある程度実力の有る冒険者たちをターゲットにして攫ってきたようだ。

 ハンソー王国に連れてこられ、自分たちをはじめとする冒険者たちを攫うように指示した貴族を目にすることになった。

 ベーニンヤという恰幅の良い、というよりデブの伯爵だった。

 その伯爵が戦に向かう前に自分たちに言ったのは、活躍した者はすぐに解放するという約束だった。

 しかし、伯爵の顔を見ればわかる。

 恐らく、自分たちが戦で活躍したところで、二度カンリーン王国に帰す気はないだろうということをだ。


『どうにか仲間だけでも逃がしたいが、奴隷魔法をかけらている時点でどうしようもないな……』


 奴隷魔法の設定で、自分たちの主人はあのベーニンヤ伯爵となっている。

 伯爵だけなら目を盗んで逃亡を図ることも可能かもしれないが、伯爵は自分たちに兵の命令に従うようにという命令を下している。

 主人ではないので兵の命令を無視しても死ぬことはないだろうが、奴隷魔法が発動して、一瞬のうちに行動不能の苦しみを受けることになるだろう。

 そのため、逃げ出すには一瞬でこの場から兵の命令の届かない場所まで移動するしかない。

 そんなことができるのは、転移石か転移魔法を使用するしかありえない。

 転移石なんて超の付く貴重品だし、転移魔法を使える人間すら見たことも聞いたことがない。

 完全に詰んでいる状況に、カトゥッロは頭を抱えるしかなかった。


「っっっ!?」


「ようっ!」


 俯いたカトゥッロは、自分の影がおかしな動きをしたことに気付く。

 そして、次の瞬間その影から顔を出してきた知っている男の顔を見て、目を見開いて固まった。


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