子連れの冒険者
ポリ外丸
第 1 話
「ホ~ッ!」
「ガウッ! ガウッ!」
ベッドで眠る青年。
小さいフクロウが羽を広げて鳴き声を上げ、カボチャ頭の幼稚園児くらいの身長の生物が、その青年を揺すって起こそうとする。
「……んっ? なんだよ。フック、ジャン……」
揺らされた青年は目を覚まし、のそりと上半身を起こした。
黒髪黒目で中肉中背の彼は、自分を起こした者たちを見て声をかける。
「……まだ朝早いだろ?」
青年が完全に開いていない目で時計を見ると、まだいつも起きている時間よりも3時間ほど早い。
早朝に起こされたため、青年はフクロウのフック、カボチャ頭のジャンに対して苦情気味に問いかけた。
「ホ~ッ!」
「ガウッ!」
「んっ? 玄関?」
1羽と1体は、玄関に目線を向けて声を上げる。
何を言いたいのかを理解した青年は、眠い目をこすりながら玄関に向かって歩き出した。
“ガチャッ!!”
「……………………」
玄関の扉を開けて、青年は目の前の光景に固まる。
そして、無言のままゆっくりと開けた扉を閉めた。
「……ん~、何かの間違いだ……」
家の前の光景が信じられず、青年はいったん現実逃避する。
そして、自分に言い聞かせるように呟いた。
“ガチャッ!!”
「あぅ~……」
「……………………」
玄関の前に置かれた小さいかご。
もう一度扉を開けた青年は、その中に入っている生き物と目が合う。
青年を見たその生物は小さく声を上げる。
それを見た青年はまた現実逃避し、無言で扉を閉めた。
「ホ~ッ!」
「ガウッ!」
「……分かってる。分かってるって……」
フクロウのフックとカボチャ頭のジャンが、青年に対して抗議しているような声を上げている。
1羽と1体の言いたいことは分かる。
しかし、分かっていながらも、青年としては受け入れがたい。
そのため、青年は1羽と1体の講義に対して返答した。
“ガチャッ!!”
「あぅ~……」
「……やっぱり、夢じゃないよな……」
扉を開けると、またもかごの中の生物が声を上げる。
それを見て、青年は観念したように現実を受け入れた。
「…………」
「あぅあ~♪」
青年が玄関前に置かれたかごの中にいる生物を無言で持ち上げると、その生物は嬉しそうな声を上げた。
「「あなたの子です」か…………」
かごの中には、小さい生物以外に一枚の手紙がおかれている。
その手紙を見る限り、どうやらこの生物……、恐らく生まれて半年以内程度の赤ん坊は自分の子供なのだそうだ。
「んなわけあるか!!」
まだ生え揃っていないとはいえ、この赤ん坊も自分と同じく黒髪黒目なことがわかる。
しかし、
そう断言できるため、青年は怒りとともに手紙を近くにある机の上に叩きつけた。
「っ!! もしかして家間違えてんじゃねえか?」
自分の子ではないことから、青年はある考えが頭に浮かぶ。
黒髪黒目なんてそこまで珍しくない。
そのため、本来とは違う家に置いて行ったのではないかということだ。
「……いや、周りに黒髪黒目の人いないし……」
青年は、思い浮かんだ自分の案をすぐに否定する。
町の中心から少し離れているため、隣近所との距離は少しあるとはいっても、周辺に住んでいる人の顔は把握している。
その中に、黒髪黒目の人間は存在していないことを考えると、間違いで置いて行ったという可能性はかなり低いと考えたからだ。
「あっ!! そうだ!」
寝起きで頭が回っておらず、しかも完全に予想もしていなかった状況。
そのため、青年は今になってあることを思い出す。
そして、赤ん坊をジャンに預け、すぐに家の外へ飛び出した。
「チッ!!」
外に飛び出すとともに、青年は周囲を見渡す。
しかし、結果に思わず舌打ちをする。
「いや、気づくのが遅れたとはいっても、いくら何でも早すぎる……」
赤ん坊は、フックとジャンがいるのにもかかわらず、ドアの前に置かれたということになる。
フックとジャンは探知に優れている。
その2体に気づかれず、正確には気づかれたときにはいなくなっていたということは、それだけわずかな時間しかこの場にいなかったということになる。
赤ん坊を置いて行った人間を探そうにも、今更近くにいるわけがない。
「……転移か?」
この世界には魔法が存在しており、それを付与した魔道具と呼ばれるものも存在している。
フックとジャンをやり過ごしたということは、それだけ短時間しかこの付近にいなかったということ。
そう考えると、一瞬で遠く離れた別の場所へと移動できる転移魔法、もしくはそれを付与した魔道具を使用したのではないかと頭に浮かんだ。
それならば、フックとジャンをやり過ごした説明がつく。
「はぁ~……」
転移を使用したとなると、赤ん坊を置いて行った人間が今どこにいるのかわからない。
これ以上探しても無駄だと判断した青年は、赤ん坊を置いて行った人間の捜索をやめ、ため息とともに家の中へと戻っていった。
「どうすっかな……」
「あぅ~♪」
室内に戻った青年は、ジャンから赤ん坊を受け取る。
ジャンに抱っこされていた赤ん坊は、泣くわけでもなく、ただじっとしているだけだったが、青年が抱き上げると嬉しそうな声を上げた。
「………………」
「ガウッ?」
ただ黙って赤ん坊を眺めつつ、これからそうするべきかを悩むしかない青年。
そんな青年に対し、ジャンは問いかけるようにキッチンを指す。
「あ、あぁ、頼む」
「ガウッ!」
何が言いたいのかを理解した青年は、その問いに頷きで返す。
それを受け、ジャンは朝食の準備を始めた。
「う~ん、仕事に行かないといけないけど、この子を置いていくわけにはいかないしな……」
ジャンが用意した朝食を食べ終えた青年は、時計を見つつ悩まし気に呟く。
青年はギルド(組合)に所属しており、魔物と呼ばれる危険生物を倒すのが今日の仕事だ。
ギルドとは、様々な仕事を斡旋する組織であり、魔物とは、空気中に含まれる魔素によって変質した生物のことだ。
非常事態のため、今日は仕事をせず、赤ん坊の今後のことを考えたい。
しかし、今日の仕事は数日前に決まっていたこと。
結構な違約金を支払わなければならないため、急遽休むというわけにはいかない。
そうなると、赤ん坊をどうするべきか考えないといけない。
「あっ、そうだ! たしか、ここに……」
少しの間考え込んでいた青年は、あることを思い出したかのようにタンスの中を調べ始める。
ちゃんと整理されていないせいか色々な物がごちゃごちゃしている中、青年は少しくたびれた紐を取り出した。
「うん、大丈夫そうだ。これで何とかなるだろ」
その見た目から、しばらく使っていないことがわかるその紐を一通り見て、破けている部分がないかを確認する。
そして、なんともないことを確認すると、青年は満足そうに頷いたのだった。
◆◆◆◆◆
“ガチャッ!!”
「「「「「……………………」」」」」
スイングドアを開く音が室内に響き、フックとジャンを引き連れた青年がギルドの建物に入ってくる。
その姿を見て、会話を交わしていた者たちは二度見をするとともに声を失う。
「…………おはよう」
「……お、おはようございます」
青年が声をかけると、受付の女性も挨拶を返す。
しかし、その女性の目は、青年には向かっていない。
「……どうしたんですか? エルヴィーノさん……」
「……いや、ちょっといろいろあってな……」
受付の女性の視線は、青年ことエルヴィーノの胸に向いている。
何故かといえば、エルヴィーノの胸の部分には、抱っこ紐で固定された赤ん坊がいるからだ。
エルヴィーノのことを知っているだけに、ギルド内の誰もが思っていたことを受付の女性が問いかける。
しかし、話せば長くなることから、エルヴィーノは頭を掻きながら言葉を濁すことしかできなかった。
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