第五話 超人気が無い過疎ダンジョン!!
「はい、やってきました~、はいいろだけに~っと。俺しかいねぇ、超人気の無い低レベル過疎ダンジョンッ前!!」
言ってて空しくなったけど、ほんっとうに誰もいやしねぇ。
いや、ここ一応学院が管理してる公認ダンジョンのひとつだよ?
このダンジョンも一階はダンジョン協会の出張所になっているし、必要最低限の設備とかは全部揃ってるんだけど、ここの職員は俺がこのダンジョンに入った瞬間、マジか? みたいな顔で出迎えてくれた。
「マジっスか」
「お~い、口に出てんぞ~。掃除は行き届いてるみたいだし、店も開いてるみたいだけどここって大丈夫なの?」
「いや~、このダンジョンに誰か来るなんて、ほんっと~に久しぶりなんっスよ。っていうか、私が働きだして初っスね。あ、私はダンジョン協会のバイトで
バイトかよ!!
それより、この人しかいないみたいだけど大丈夫なの? ダンジョンの一階には緊急時対策に救助要員とかが控えてるはずなんだけど……。
「俺は新人冒険者の
「もっちろん出来るっスよ。ただ、ちょっと古っすけどね。あ、配信用のドローンとかは扱ってないっス」
流石に撮影用ドローンはホムセンか魔道家電量販店に行く。
あの辺りは本気で新機種が毎月のように出てるし、各メーカーが力を入れてるしね。
値段もピンキリだけど、性能なんかも本当に発売時期とかメーカーで差があるんだよ。
ひと世代前だと値段が倍近いのに性能は全然ダメダメとか珍しくない。だから型落ちはすぐに処分価格で放出されるんだ。こんな場所に置けるわけがない。
「流石にそのあたりは期待してないよ。古いってどんな感じ……、うわぁ。これ、子供の頃に本で見た事あるぞ」
「十年前の武器でもちゃんと使えるっス。食料品なんかの消耗品は流石に管理されてるから問題無いっスよ。ここに置かれてるのは大体かなり長い賞味期間のタイプだけっスけどね」
ダンジョン内に普通の店で買った食材とかも持ち込める。
ただダンジョンの外だとダンジョンリングの収納機能なんかが使えないから買ってきた物はリュックか何かに入れてダンジョン一階まで普通に持ち込んで、ここでダンジョンリングの
レベルと能力が低い内はダンジョンリングの
その貴重なスペースに俺は買ってきた食糧と水を入れてるけどさ。
ダンジョン内で水場があるとは限らないので、ダンジョン探索に飲料水は必須なんだ!! だから低レベルの間はダンジョンリング内に収納せずにデカいリュックか何かをしょってる事もある。
あまり大きな荷物を持ち込むと、入り口でチェックされる事も多いけどね。
この辺りは犯罪者対策だ。爆発物とかはダンジョン内では意味が無いけど、死体なんかを持ち込んでダンジョン内に放置されると一日くらいで完全にダンジョンに吸収されて消えちゃうからね。装備とか身に付けている物も含めて……。
ダンジョン周囲に監視カメラが多くて、あまりにも入った時と出た時の荷物に差があると家の方に警察が来るって話だ。
それはともかくとして……。
「最低限の武器と防具。回復薬とかも欲しいけど……、高いよね?」
「一番ランクの低い回復薬でも最低千ダンカするっスね。擦り傷位だったら治るっスよ」
「かすり傷って、確かダメージ二とか三だろ? その程度の回復力か……」
「ダンジョン内の自然治癒でも三十分で一程度っスね。自然回復スキル持ちだったら必要ないっス」
この一階もそうだけど、ダンジョン内に居ると傷が治る。生命力でいえば三十分で一程度なので、ほぼ気休めだ。
ダンジョンで回復するのは、あくまでも生命力の数値と傷だけで病気とかは治んないんだけど、それでも地上に居る時よりも傷の治りが早い。
だから大きなダンジョンの一階に簡易型の診療所があったりする。此処には当然の様に無いけどね。
クラスがレンジャー系の場合はスキルの中に自然回復スキルってのがあって、そのクラスの人間はそのスキルのお陰で回復速度が早いらしい。
そんな事より武器だよな……。
「予算が限られてるから買うのは武器類だけか。……この剣、ほんとに使えるの?」
よく見なくても分かるけど、刀身が少し歪んでる。曲がってるのは先の方だし、多少は切れるのかもしれないけどさ。
こっちの中古はかなり刃がかけてる。これで五十ダンカってのが安いのか高いのか……。
そしてどこでも山積みになってると噂の棍棒。打撃武器を好んで使う人もいるけど、俺はパスかな。
「ちょ~っと歪んでるけどまだ使えるっスよ。あ、そっちが中古でこっちが新品っすね」
「その新品も十年物でしょ? それでもその歪んでる剣よりはいいのか」
「この辺りの武器はダンジョン産でも低階層でドロップする武器ばかりっスから。十年位前に別のダンジョン産の武器が納品されてそのままって感じっス」
ダンジョン内で使える武器はダンジョンで手に入れた物か、ダンジョンで入手した鉱石類をダンジョンに作られた鍜治場などで加工した物に限られる。
一階に鍜治場があるダンジョンなんかは割と人気だし、武器を打つ為のフリースペースが貸し出されている時もある。当然有料だけど。
あと、錬金術ってスキルを覚えると鍜治場じゃなくても剣とかを作れるって聞いたな。錬金術ってスキルの存在自体が眉唾らしいし、実際に持ってる人がいるって話は聞かないな。
飛び道具の類で使えるのはせいぜい弓やクロスボウくらいで、火薬を使った銃の類はダンジョン内で効果を発揮する事は無い。
だから売られている武器はダンジョンで手に入った物になるんだけど、当然ドロップが圧倒的に多い浅い階層の武器が初心者用として安く売り出され、一部の武器は買取された後で中古としてさらに格安で売りに出される。
高ランクの冒険者が使う武器は深層でドロップする武器か、超がつくようなレア鉱石で作った特殊な武器がほとんどって話だね。
「盾も買うとなると、この辺りの剣しか買えないな。両手剣は威力も高くてロマンだけど」
「あ~、初心者で両手剣は自殺行為っスよ。最初に両手剣選んだ初心者冒険者の三割程度がひと月以内に死んでるっス」
「三割って!! 全然ニュースでやってないんだけど」
「毎日大量の冒険者が発生して、この国でも一千万人以上が冒険者をしてるっスからね。ダンジョン内の死亡事故なんて話題にもならない位に日常茶飯事っス。高レベルパーティが全滅とかだったらニュースになるっスよ」
極稀に三色持ち高レベル冒険者パーティの全滅って話は聞くけど、初心者冒険者が全滅とかなんて話題にもされないのか……。
そういえば、プチっとされるライブ配信で紹介される映像。
アレだって結構更新されてるって話だしな。俺は観ないけどさ。
「お薦めとかある?」
「初心者向けの武器は軽くて振りやすい片手剣が一番っすよ。この辺りのショートソードにするか、いっそのこと棍棒にするって手もあるっス」
「あ~、打撃系武器か~。確かに初心者に多いって話だよね」
棍棒系の武器は刃こぼれとかほとんどないし、どんな敵にもある程度ダメージが入る。
素人だと剣で斬るのは難しいかもしれないけど、ぶっちゃけ鈍器でぶん殴る事なんて誰にでもできるしな。
効率のいい殴り方とか、よりダメージの入る殴り方には慣れが必要なんだろうけど。
「片手剣にするかな。棍棒は何処のダンジョンでもめちゃめちゃ拾うって聞いているし……」
「ゴブリンからもドロップするっスからね。買取額は五ダンカもあればいい方っス」
「で、売値は五十ダンカか。ぼったくりなんじゃない?」
「質の良い棍棒だけ残して後は処分っスよ。保管場所代から考えると安い方っス」
ダンジョン協会が施設として利用しているダンジョンの一階が広いとはいえ、倉庫として使えるスペースは限られる。
何も処理をしないまま地面に放置すると一時間程度でダンジョンに吸収されて消滅するし、きっちりと処理をしたものを設置するには金がかかるからね。
ドロップや出てくる敵が美味いダンジョンはともかく、こんな人気の無い超過疎ダンジョンに割かれる予算なんてほぼ無いだろうし。
「ドロップに期待してこのショートソードと小型の盾。これで三千ダンカは安いな」
「でしょ? 手入れされてますし、全部チェックしてありますから質だけは良いですよ」
久しぶりに商品が売れるのがうれしいのか、いきなり商売人モードに切り替わった。
何本かのショートソードを鞘から引き抜き、一番良さそうなのを選んでくれたみたいだ。
十年前にはやったシンプルなデザインのショートソードで、錆びひとつ浮いて無い。
「十年物だとこんな感じなの? ここで保管してると錆びないんだっけ?」
「錆びませんね~。ダンジョン内は地上の常識があてはまらない事が多々あるっス」
自然治癒もその一つだしね。
大体どこかからか魔物が湧いて出てくる場所に、常識なんて通用する訳が無い。
「それじゃあ行って来るよ。ドロップの買取お願いね」
「……ここに出現するレッサーゴブリンの武器は買取不可っスよ。ここで買取できる物は魔石だけっス」
「情報ありがとう」
あっぶねぇ。武器を山ほど持って帰って買い取れませんって最悪だからな。
このダンジョンでも採集とか出来るから、薬草類の納品でも頑張るか!!
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