第42話おっさん、お嬢様から告白される

魔王になった俺は魔族や魔物が人間に害をなさ無い様執政しようとしたが......。


何もする事がなかった。


意外だったが、魔族は人間に何も害をなしていなかった。


魔物を使っていろいろしてそうだったが、実は魔族と魔物は関係がなかった。


確かに魔族は魔物を使役できるが、魔族の言う事を聞く魔物は知能が高い魔物だけだ。


知能が高い魔物はむやみに人を襲ったり、食べたりしない。


つまり、魔族は人間にとって、ほぼ無害な存在だった。


「なあ、ネーナ? 魔王って何をすればいいんだ?」


ネーナとは俺、魔王の副官だ。角があり、褐色の肌の女性だが、それ以外は人間そっくりだ。


「魔王様、魔王様は魔族の頂点に君臨する事がお仕事です」


「具体的に何をするんだ?」


「......」


ネーナは無言だった。何となくわかったが、魔王は名誉職だ。


具体的な仕事は何もない。


「強いてあげれば、勇者を倒す事でしょうか?」


「......う!」


俺はなんとなく気付いていたが、その事実を突きつけられた。


魔王って、何も悪い事してい無いけど、勇者に付け狙われる運命らしい。


「なー、なんで、勇者は魔王を倒しにくるんだろう?」


「それは私も解りかねます。敢えて言えば、昔からのお約束ではないかと」


「迷惑なお約束だな」


俺はちょっと不機嫌になった。そして、ある事実に気付く。


「俺、勇者のお嬢様に命狙われるの?」


「おそらくは、お約束通り」


「......」


どうしよう、俺、リスペクトするお嬢様に傷一つ付けられ無い。


じゃあ、もし、お嬢様が俺を殺そうとしたら?


「......黙って殺されるしかない......な」


俺は覚悟した。


「あの、魔王様、勇者様達が訪問してきました」


えっ?


もう?


「如何しますか?」


「それは丁重にお迎えしろ!」


副官のネーナが勇者一行を魔王の間に通した。


「お嬢様!」


「おっさん!」


お嬢様は俺を呼ぶと、下を向いてしまった。


可哀想に、俺を殺す事に気を病んですかい?


「お嬢様、お嬢様がここへきた理由はわかっていますぜ」


「え? わ、わかっておるのか?」


「へえ、俺たちは運命でさ......まさに、宿命」


「......」


お嬢様は罪の意識で落ち込んでいるのだろう。


俺から、促そう。


「お嬢様、殺れ」


お嬢様はびくっとした。


そして、何か話始めた。


俺はお嬢様の言う事が何も耳に入らなかった。


多分、勇者の勇ましい口上を述べているだろうな。


ずっとお嬢様の護衛をしたかったな。


死にたくはなかったな。


だけど、多分、お嬢様はきっと、俺を苦しませない様に首ナイフで俺を殺してくれるに違いない。


お嬢様は心根は優しい娘さんなんだ。


俺は知ってますぜ、お嬢様。


俺は、その時を待った。


ずっと待った。


......ずっと 。


重苦しい沈黙が訪れた。


☆☆☆


私はおっさんに愛の告白をしようとしていた。


ミアちゃんと話しあって、私の方から先に告白することになった。


私の方が一歩おっさんに近い。


ミアちゃんはそれを認めてくれた。


それに、次期女王の私にはミアちゃんも遠慮せざるを得なかったんだと思う。


だけど、おっさんの言葉は厳しかった。


「お嬢様、やれ」


私は驚いた。おっさんは私の気持ちを知っているくせに!


女の子の私の方から、副官の魔族の女の子やミアちゃんの前で告白させる気だ。


『はっ!』


そうか、私は勇者、そしておっさんは魔王。


おっさんはみんなの前で、私に告白をさせて、そして、私を笑いものにして殺すつもりだ。


仕方ない、おっさんは魔王なのだ。勇者の私を殺すのは当然だ。


多分、笑いものにした後、前の死刑の続きをするんだ。


......勇者と魔王の宿命 。


でも、きっと、おっさんは優しいから、前みたいに裸にしたり、オークとかゴブリンに首を落とされたあと、陵辱させたりしないと思う。


おっさんは優しいからな、誰よりも。


私は、おっさんへの愛の言葉を綴った。


「私はおっさんの事が好きだぞ! 好きって言うのは、その、あの......愛しているって言う意味で......小娘が慕っているとか、そういうのじゃなくて、大人の女として愛しているって意味だぞ。恥ずかしいけど言うぞ。ずっと昔から慕ってました。その、私とお付き合いしてください」


私は顔が真っ赤になっていると思う。


恥ずかしい、でも、この後、殺されるのだ。


仕方がない。私は勇者で、おっさんは魔王。


殺しあうしかないんだ。


それにおっさんに勝てる訳がない。


せめて自分の気持ちを言葉にしよう。


ミアちゃんは勇者じゃないから、きっと、おっさんとミアちゃんが結ばれるんだ。


私は草葉の陰から二人を祝福しよう。


そして、私は、おっさんの言葉を待った。


長い沈黙が訪れた。


☆☆☆


「あの、いい処すまんが、何かとんでもなくすれ違っておらんか?」


副官のネーナが言った。


「ネーナ、お前、何を言ってるんだ?」


「魔王様、勇者は魔王様への愛の告白をされたのですよ。男なら、答えるべきかと」


「へっ?」


俺は、驚いた。


「お嬢様、何て言ったんですかい?」


「聞いてなかったのですか? 魔王様?」


「いや、だって、きっとすごく、かつての魔王や魔族の悪行を罵られて、俺、お嬢様の事、好きだから、聞きたくなかった。あ!? 俺、言っちまった!」


「はあああああッ」


何故かネーナは疲れた声をだす。


「勇者は魔王様の事を好きって言われましたよ」


「えええええええええええええ!」


「お嬢様、何て言ったんですかい?」


「え、あの、もう一度言わせる気か? 酷いぞ! おっさん! その、おっさん、私、おっさんの事、好きです。ずっと昔から愛してたぞ! 私とお付き合いしてください! って言ったぞ!」


「是非お願いしやす!」


俺は即答した。


信じられないけど、断る理由がない。


夢かもしれないけど。


こうして、俺はお嬢様と交際をスタートする事になった。

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