第40話おっさん、魔王討伐に行かされる

その日も俺の家(宿の部屋は改装されてメゾネットタイプの5LDKになっていた)のリビングで牛丼を頬張るお嬢様と聖女ちゃん。


「え? 聖女ちゃんが闘技際で不戦勝で優勝された?」


俺は驚いていた。


聖女ちゃんみたいに可憐でか弱い女の子が闘技際に参加するだけでも驚きなものを、ましてや不戦勝で優勝って、どういうことだ?


「闘技際って、アムネジア教主催で、帝国もこの国も自由同盟同士のいざこざに関係なくやるオリンピックみたいなやつじゃねえですかい? なのに不戦勝ってどういうことでさ?」


「まあ、私の時は全員と私一人が闘って勝負をきめたんだけど、今回はねぇ」


ん? やはりいたいけな少女のお嬢様が全員と同時に勝負するとかどういうことだ?


「おじさま、今回はそれすらできなかったの。皆さま棄権なさって」


どういうことだ?


「あのね、初めて闘技際に出場する際には事前にどの程度の力を持っているのか確かめる為に副闘技場で神石への一撃をね、披露して参加資格を得るの」


「へい、それで聖女ちゃんはどうされやした?」


「うん、それでね。10tの神石を持ち上げてね。上へ投げて落ちて来たのを殴って爆散させたの」


「じゅ、10tの神石をですかい?」


俺も人並になった時に、試しに巨石を持ち上げたことがあるが、推定1000tはあったと思う。


「何故か皆さま顔面蒼白で棄権されまして」


「そうでやすか」


普通の平民ならそれで驚くのも無理もないが、闘技際に集まる猛者ともあろう者が何故?


それ位、誰でもできるだろう?


「何故皆さま棄権なさったのでしょうか?」


「全くわかりやせん」


「おっさんはともかくミアちゃんまで非常識が染ったら困るぞ」


「へえ?」


「はい?」


俺と聖女ちゃんは首をかしげる。


「そう言えば、お嬢様の時はなんで全員と闘うはめにあったんですかい?」


「ん? 私の時か? うーん、実は良くわからないぞ。神石は剣で真っ二つにしたから、参加資格は得られたんだけど、何故か、みんなが私に同時に全員で攻撃しないと勝負にならないとか……なんでだろね?」


俺は察した。


お嬢様の美貌……みんなそれにやられたにちげえねえ。


「わかりやした。みな、公平に全員同時に闘いを挑んで、勝ち残った者がお嬢様に求婚できるという密約をしたんじゃねえですかい?」


「え? あの人達、私を巡って闘ってたの?」


「わぁ! アリスちゃん、羨ましい。闘技祭って100人以上集まるよ。その全員がアリスちゃん狙い? モテる女の子は違いますねぇ〜」


「いや、そのだな、実は私ももしかしてそうかな〜って思っていたけど、自分の口からは、えへ」


そう言うと、お嬢様は顔を真っ赤にして照れてしまった。


可愛い。


「アリス、それにおっさん達もたいがい常識を学べ」


そう言って、俺の家に勝手に入って来たのは王様だ。


「うむ、アリスは闘技祭で魔法結界の中で全員肉片に変えよったじゃろう。それも片っ端から泣き叫んで逃げる者も構わずビリビリと紙屑をちぎるみたいに戦士達をバラバラにしたりしたから、みな恐れてミア殿の時は辞退するはめになったのだ」


「え? アリスちゃんが悪いの?」


「失礼だな。ミアちゃん。私は正々堂々と闘っただけだぞ」


「土下座して、許しを乞う者も手足をもいで、最後は肉片に変えたと聞いておる」


「え? あ、あれは、あの日はちょっと気分がすぐれなくて……つい」


手足をもぐ? 肉片に変える? 何の話だ?


話が見えねえ。そんな事できるの魔王だけだろ?


そうか、俺の知らない、何か趣向の違う闘技祭だったにちげえねえ。


「まあ、そんな事はどうでも良い。聞いて驚け。アリスが勇者と認定され、ミア殿と共に魔王討伐の命が大陸連盟より来た。帝国の他、他国の同意も得た連盟の正式な命だ」


俺は驚いた。王様が俺の家の冷蔵庫から勝手に牛丼出して、勝手にチンし始めたからだ。


一番常識ないの、王様だよな?


「ちょっと待ってくださいお父様。いくらなんでもそれは無茶な命令ではないですか?」


「私も苦渋の承諾なのじゃ。帝国や自由同盟と構えるのは一向に構わん。じゃが、他の国々まで敵にまわしたら、我が国の経済が崩壊する。我が国は資源の輸出国だからな」


「あの、王様、素人考えですが、それだと他国も困るんじゃないですかい?」


「ああ、ワシも最初はそう思っておった。しかし、帝国のキャツラめ、この為に何年も前から資源を備蓄して、我が国が異を唱えるに至った場合、資源は責任もって提供するとほざきよった」


「くッ!」


「やられましたね」


俺はお嬢様について行く覚悟を決めた。


「おっさん。娘とミア殿を頼む。良いか?」


「もちろんでさ。この命に変えやしても」


「うむ、こんな無法な命は形だけ、そう1ヶ月程魔の森に入って、そこそこの魔物を討伐して、魔王はいなかったと報告すれば良い。その1ヶ月間、どうか娘達を守ってくれ」


「へい。わかりやした」


☆☆☆


こうして、俺たちは魔の森に魔王討伐、いや、1ヶ月間のキャンプに行く事になった。


だが、俺は正式なメンバーではないので、お嬢様や聖女ちゃんより、少し遅れて、人知れず魔の森に入った。


俺は魔の森に入って、30分で驚いた


「お嬢様!」


魔の森に入って30分の所の広場で、それは執り行われようとしていた


お嬢様は何も身につけていなかった。


全裸で手を木の枷で拘束されている。


手が拘束されているから、体を隠す事もできない。


周りにはたくさんの低俗な魔物がいた。オーク、ゴブリン、オーガ。


額には昇華石が見えた。


みな、人の女を犯す魔物だ。


お嬢様が進む先にはギロチン台があった。


「このままじゃ、お嬢様が殺される!」


俺は当然、お嬢様を助ける事にした。


いきなり攻撃魔法をぶっ放す。


「汝の力に届きし焰よ、我が血と汝の血を混じりて、再び大気を震わせ、王者の力を顕現せよ、薙ぎ払え、『エクスプロージョン』」


炎の範囲攻撃魔法『エクスプロージョン』をぶちかます。


たちまち魔物が統制を乱す。


俺はスキル「瞬間移動」でお嬢様の近くまで移動した。


そして、『斬』


お嬢様の首に付けられた隷属の首輪という魔道具の鎖と手の枷を斬り、周りの魔物を細切れに斬り殺した。


「おっさん! やっぱり助けに来てくれたんだ!」


お嬢様、喜んでくれるんだ。俺、嬉しい。


「大丈夫ですかい? お嬢様? ちょっとまってくだせえ」


俺は自分の上着を脱いで、お嬢様にかけてあげた。


お嬢様は下を向いて、顔を真っ赤にしている。


恥ずかしかったろうな......。


全裸の上、手足を拘束されて、体を隠す事もできねえ、あんな辱めを受けたんだから。


俺は魔法を更に何度かぶち込むとお嬢様を連れてその場を去った。

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