第30話おっさん、クーデターを知る

う〜カンカンカン———う〜カンカンカン


早朝、突然、鐘の音が鳴り響いた。


「こ、この鐘の音は戒厳令か?」


聞いたのは子供の頃以来だ。


俺が孤児になった原因、おそらく戦争だ。


「入りますぞ」


「おじさま、おじゃまするね」


そう言って俺の宿の部屋に入って来たのは教皇様と聖女ちゃんだった。


「この鐘は戦争ではない。クーデターによるものじゃ」


「ク、クーデター? それじゃ王様やお嬢様は?」


「おじさま、王様もアリスちゃんも王城で軟禁だよ」


「まさか! お嬢様がそんな簡単に軟禁される訳がありやせん」


「おそらく、あーちゃん、いや国王を人質にでもとられたのじゃろう」


俺はグッと拳を掴んだ。


お嬢様の警護としては責任を感じざるを得ない。


「おじさま。それだけじゃないの」


「これ以上何があるっていうんでさ?」


「自由同盟軍10万が西の国境を超えたの」


「そうじゃ。クーデターは第一王子の首謀、自由同盟の侵略は第二王子の手引きじゃ」


俺は訳がわからなくなって来た。


この国の王子って、王様の息子だよな?


お嬢様の兄だよな?


そもそも王族だよな?


それが王を幽閉?


他国の侵入を手引き?


「ミア、説明してやってくれ」


「はい。お父様」


聖女ちゃんは強張った顔になるが、決意を露わにしたかのような顔をすると、切り出した。


「ことの発端は先日の飛竜———いえ、ロック鳥襲撃が原因でした」


「例の帝国の新兵種による国王暗殺未遂がですかい? しかし、あれは失敗したんじゃ?」


「おじさま。失敗はしたけど、誰かが手引きしなければ、あの場にこの国の王がいることなんて、わかる訳がないよ。それで、王様の諜報員が第一王子の仕業という確たる証拠を掴んだの」


なるほど。


「それで第一王子がクーデターを引き起こして力づくで政権を乗っ取ろうとした? って言う訳ですかい?」


「その通りじゃ」


「そして、このままでは粛清されてしまうと考えた第二王子はかねてより計画していた自由同盟の侵入を手引きをした———て言う訳なの。第一王子の軽率な行動で、この国の最大戦力のアリスちゃんが幽閉されているって情報をね、流した訳」


「救いようがねえでやす」


教皇の目力が増したかのように思うと、思わぬことを言い出した。


「いや、救う道はあるぞい」


「そうです。おじさま」


「一体、どうやって?」


俺の疑問は二人の言葉で理解できた。


「おじさま/おっさんがアリスとあーちゃん/王様を助ければいい」


「……教皇様と……ミア様は……俺に死ねとおっしゃる?」


「「へ?」」


二人は顔を見合わせると。


「いや、そうか。こういう所がこのおっさんの面倒な所か……」


「おじさまはなんでこんなに自意識が低いのかな? そういう所、好きだけど」


「囚われのお姫様を助けるのは物語の王道じゃと言うのに」


———「王とアリスを助ける方法ならあるぜ」


「「「誰ッ!」」」


「ジュターク家のシュレンだ。おっさんとはアリスを賭けて決闘したことがある」


ああ、思い出した。


お嬢様に切腹を命じられて、最後は決闘結界の中で人形みたいに首をスポンと抜かれた奴だ。


「聞くともなく、聞いてしまった。決して、アリスのためじゃねえからな。アリスを助けられるのはおっさんだけだとか思って来た訳じゃねえからな」


ツンデレか?


そもそも、人の宿の部屋に勝手に入って来て、聞くともなく聞いたなんて、無理ありすぎだろ?


「いいか、良く聞け。俺の祖先は王城築城の命を受けた経緯がある。それで、嫡男の俺と親父、後は王のみが知る秘密の抜け穴が王城にはある」


「なんと! それなら犠牲者が少なくて済むな!」


「まあ、あちこちトラップだらけだけど……おっさんは盗賊なんだろ? うってつけじゃないか?」


……確かに。


盗賊の俺なら密かに王城に潜入できる。


「いいか、良く聞け。大広場の噴水の中には隠し扉がある。そこから一本道で、王城の中の井戸に繋がっている。安心しろ。水がしこたまあるのは噴水と井戸の底だけだ。途中は狭い抜け穴だ。井戸の底の横穴の隠し扉に直結している」


「なるほど、それなら」


「決まったな。後は自由同盟軍をどうにかするだけじゃ」


「そっちの方が大変じゃなくね?」


俺は思わず驚いた顔をしてしまった。


てっきり、お嬢様を救出して、クーデターを鎮静化してから迎えうつのかと思っていた。


「大変だとしても、やるしかない。西方守備隊と、国教騎士団1万、合わせて3万で迎え撃つのみじゃ」


「それじゃ話になりやせん。戦略の基本は相手の3倍の兵力を用意することでさ。俺だって知ってやすぜ」


「それはその通りじゃが、こちらには聖女ミアがおる」


「ミア様が?」


「うむ、ミアはあの殺戮の名に愛された天使と異名を持つアリス殿と同等の力を持っておる」


「……はい。お父様。命に変えてもこの国を守ってお見せます」


決意を固める聖女ちゃんだったが、俺は心配でしょうがなかった。


それで、密かにステータス画面からChatを開いた。


そこにはこう書かれていた。


――――――――――――――――――――


■Chat(14件)


[msn]


は? なにこのクエスト? 戦列歩兵って、あれ頭おかしいだろww 最前列死ぬやんww


てか、あいかわらずこの運営頭おかしいww


[しま]


なんで敵の近距離までゆっくり行軍して撃たれてんだよwww太鼓鳴らしながら死んじゃってるしww

塹壕ほっときゃいいだろ怖くねえのかあいつら?

しかも律儀にターン制だし舐めてんの?


[臭性]


最前列ってもしかして懲罰部隊だったりするの? 普通何の罪もないのにあんなとこいきたがらねえww


[しま]


戦列歩兵は犯罪者を逃がさず戦わせる為の戦術だとかどっちみち逃げたら指揮官に殺されるしね


「めいちゃ」


戦列歩兵で戦うよりも、魔道弓兵を使って散兵戦した方がまだましなような……

塹壕やら陣地やらで弓兵防御して蹴散らせばいいじゃん


「みこ」


弓兵は育成に莫大な時間と、当然時間が掛かればコストも掛かる

よく訓練された弓兵がマスケット兵より強いというのは史実からも知られていたが

どの軍もコストが掛からない戦列歩兵って形を選んだわけだな


「のえる」


成程……確かに、密集して突撃して撃つだけならば訓練は少なくて済むな


「しま」


じゃあせめて塹壕掘るか障害物に隠れようぜ


銃口に障害物なしで突撃とか犬死じゃないっすか


「みこ」


銃使うのは専ら平民だからな

幾ら死のうが関心なかったんだろう


「しま」


1000~2000人規模の連隊同士が30メートル離れて撃ち合っても

殺せるのは1分間に1人か2人だけなんだぜ


「のえる」


結局銃はあっても最後は白兵戦か


[める]


頭悪すぎww


「msn」


だから王国は魔道弓兵おるから、戦列歩兵せんでいいねん、ちゃんとゲームwiki読めよ!


——————————


「教皇様、俺に考えがありやす!」


俺は大声で言った。

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