第28話おっさんお嬢様を傷ものにする
皆、驚きの声を上げつつ、太陽を指さす。
お嬢様も聖女ちゃんも空を見上げている。
そこには5匹ものグリフォンが口に炎を煌めかせて急進していた。
あれ? グリフォンって、口から炎とか吐いたっけ?
炎のブレスとか吐くの竜種だけだったよう気がする。
俺、ロック鳥位とかしか戦ったこと無くて、本物のグリフォンって見たことないの。
「おっさん、何とかするんだぞ!」
「お、おじさま、お願いッ!」
両方の女の子に挟まれてお願いされたら、やるっきゃないだろう?
「っ!!」
手のひらごしに太陽を目を細めて見ると、グリフォンは急降下中だった。
「魔道弓兵! 魔法兵! 準備出来次第各自の判断で攻撃! 目標真上!」
騎士団長が叫び、兵はバラバラに真上のグリフォンに攻撃を始める。
だが、直上からの攻撃は僅かな射角のズレでも命中しない。
俺はこんなこともあろうかと、昨日のディスカウントストアで買った、新しい魔法スキルを使うことにした。
「……スキル、イージスシステム展開」
目の前に一旦ステータスウィンドウが現れるが、新しいウィンドウが現れて、敵の位置を示すシンボルが現れる。
「ターゲット捕捉、攻撃開始。スキルSM-6スタンダードミサイル!」
俺のアイテムボックスから次々とミサイルが発射されて行く。
イージスシステムは同時に数百の目標を追尾し、危険度の優先順位を自動で判断し、スタンダードミサイルのスキルを組み合わせることで、万全の対空防御が可能になる。
———ブーッッシュュューー。
———ブーッッシュュューー。
———ブーッッシュュューー。
次々とミサイルがグリフォンに発射されていく。
「……グァ」
「……ギァ」
次々と墜落していくグリフォン達。
直上からの急降下。
空を飛ぶ魔物の最大の武器である速度と正確な攻撃方法。
この方法だと撃墜困難、被弾確率はほぼ100%。
正確にこちらに向かってんだからな、当然だ。が、故に。
「回避不可能だよな?」
俺のスタンダードミサイルが更にもう1匹のグリフォンを仕留める。
ドカァアアアーーン!!
命中と共に、爆散し、墜落していくグリフォン。
最後のグリフォンにミサイルが命中したのを見届けたその時だった。
「おっさん/おじさま! もう一匹!」
お嬢様と聖女ちゃんの悲鳴がこだまする。
なんと、5匹のグリフォンの後ろに隠れた6匹目がいた。
スキル、イージスシステムの唯一の欠点。
それはAN/SPY-6アクティブフェイズドアレイレーダーが探知できるのは、投射した高周波数の魔素に反射するものだけ……つまり、物陰や他のグリフォンの後ろに隠れたものは探知できない。
マジか? ジェットストリームアタックか?
既にグリフォンの顎には炎が瞬き、その熱塊が放射される。
どうする? 俺?
咄嗟に考えたが、防御するしかねえ。
「スキル、ファランクス! 召喚、アテナ!」
俺は70%の絶対防御のスキル、ファランクスと、絶対防御30%の召喚獣アテナを召喚した。
召喚獣アテナは火、水、風、土、光、闇の6属性攻撃を全て30%遮断する優秀なSSR召喚獣だ。カーバンクルは各属性6個全部持ってるが、セットできる召喚獣は自身の属性を決めるメインの他、5個までだ。
それで最近はこの召喚獣を必ずセットしている。
虹色に光るバリアに向かって熱塊が飛んでくる、そして。
ゴォオオオオオオオオオン
直上で熱塊が着弾して爆音が聞こえる。
「きゃあ!」
「いやん!」
熱塊は防いだものの、爆発で生じた爆風がお嬢様と聖女ちゃんを襲う。
「……グゥ!」
俺は思わず呻いた。
お嬢様の白い頬に直径1cm位の小石が当たった。
「お嬢様に向かって———」
俺は袖口から愛用の短剣を取り出すと。
「可憐なお嬢様が怪我でもしたら———どう落とし前つけるつもりだぁ!」
そして手早くグリフォンの額に短剣を投げつける。
念の為にもう一本の短剣を口の中を狙って、立て続けに投擲する。
「グァアアアア!」
至近距離で断末魔の咆哮をあげて、天幕のすぐ近くに落下するグリフォン。
「え? 今の何? グリフォンって、短剣で倒せるモノ?」
「いや、それ以前にこれ、やっぱり飛竜じゃねえ?」
「ねえ、飛竜のブレス防ぐって、どうやってやるの? ねえ、どうやって?」
「う、嘘だ。こんなのデタラメだろ?」
口々に騎士達がなんか叫んでいるが、お嬢様の頬に小石をぶつけられた俺は怒りのあまり、聞く耳を持てなかった。
そして、最初の1匹。
おそらく陽動の役割を担っていたグリフォンの方へ目を移す。
「お嬢様に小石をぶつけるという狼藉———」
俺は更にアイテムボックスから短剣を取り出すと。
「俺が許す訳がねえだろ!」
俺は大声で叫んで、最後のグリフォンに短剣を投げつけた。
スキル、身体強化(極大)を発動して。
ドコォオオーーーーーン
短剣が着弾するとグリフォンは爆散した。
しかし、俺は自分が見当はずれの過ちをしていたことに気が付いた。
あれはグリフォンじゃねえ。
グリフォンが盗賊の俺程度の短剣の投擲如きで爆散する訳がねぇ。
「失礼しやした。あれはグリフォンじゃごぜえやせん……ロック鳥でさ」
どここここ、ずささささささぁーーーー。
何故かその場の人たちが全員ズッこけた。
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