第24話おっさんは聖女ちゃんと海へ行く

「海に連れて行って」


そう言われて、腕に手を絡ませて、胸をグイグイ押し付けられながら、海に向かう。


「俺なんかと行っても、面白いとは思えねえですぜ」


「じゃあ、おじさま、頑張って。私はおじさまと一緒だと楽しい♡」


「海なんて行ったことねえんで、自信はありやせんが……分かりやした。俺なりに頑張ってみやす」


「期待してるね」


やべえ、海って、おっさんが行っていい所だっけ? 年齢制限とかあるんじゃね?


仮に入れたとしても、若い女の子がビキニで闊歩するとこだろ?


俺、ガン見するの我慢できる自信がねえ。


お巡りさんに逮捕されたらどうしよう。


俺、素人童貞どころか、マジ童貞だから。


「……水着で海ってはじめて」


「よく、似合ってますぜ」


いや、途中、水着を買うのに付き合わされて、色々な種類のビキニを着た聖女ちゃんを見れたけど、何度鼻血が出るかと思った。


「おじさまはよく来るの?」


「いや、俺も初めてでさ。盗賊なんてしていると、生活するのがやっとで、ましてや女の子と一緒なんて、初めてでさ」


ヤバい。テンション上がって、キモいこと言っちまったぜ。


「じゃあ、もしかして、私がおじさまの初めて?」


「へい。女の子と一緒に海に来たの初めてでさ」


「嬉しいな」


聖女ちゃんの気遣いに感謝する。


キモいおっさんだと自分で気がついちゃったけど、そんなことは無いよと言いたいんだ。


今日の海は快晴に恵まれた。濃く鮮やかな青い空と強い日差しの下では全てのものがくっきりと明るく輝いていた。そう、特に水着姿の女の子は。


周りには若い水着姿の女の子だらけだった……普段露出がほとんどない服でも、ちょっと見ただけで恥ずかしいとか言っておきながら、あんな露出の多い水着を普通に着てるとか……海とか川という免罪符を手に入れた女の子があれほど露出したがるとは……。


下着同然のかっこを自ら進んで平気でしてんだもんな。


ある意味異次元に来たような錯覚を覚える。


俺は一人感慨に耽っているが、決して女の子の胸やお尻のあたりを凝視することに夢中になっていた訳じゃねえぜ。


レジャーシートを広げ、テントを貼って、パラソルを砂にさす。男の仕事をこなしている最中だ。


「おじさま、他の子の見てるとお巡りさんに逮捕されるよ。私ならジロジロ見たり、ガン見しても問題がないよ……むしろ見られたら嬉しいかな」


「いや、ミアさん……あんまガン見すると、悪いです」


そこまで聖女ちゃんの好意に甘えちゃダメだ。


俺みたいな冴えないおっさんに一夏の思い出を作ってくれたことは感謝するけど、そこに付け込んじゃ、本当にダメなおっさんになる。


自重しよう。


「おじさまッ!」


そう言って俺のそばに聖女ちゃんが来た。


「海で遊ぼぉ!!」


元気よく俺のことを遊びに誘ってくれる。


声も笑顔も普通の女の子みたいだ。


こ、こんな幸せな現実初めて……水着の女の子と海で遊ぶなんて……。


「さあ、おじさま! 早くしないと置いてくよ!」


聖女ちゃんが海で遊ぶだろうアイテムNo.1のビーチバレーのボールを片手に俺の手を引いて海に連れて行ってくれる。


ボール遊び、水のかけっこ。


俺は今日という日を決して忘れない。俺は水着の女の子と海で遊んだという既成事実を作った。俺は勝ち組なのだ。例えこれから長い孤独な日々が待っていたとしても、俺は余裕で生きることができる……そう……この経験は俺の一生の宝物。


空を見上げるとどこまでも青い空が続いてた。


「おい! 大変だぁ!」


突然の大声がした先を見ると、少年を抱えたライフセーバーがゼエゼエと砂浜に上がって来た。


「だ、誰か、回復魔法が使える方はいらっしゃいませんか?」


ライフセーバーは悲痛な面持ちで訴えかけた。


おそらく、危険な状態だ。


「私は国教会の聖女です。私に任せてください」


俺が名乗りでようとした所、聖女ちゃんが先に手を挙げた。


聖女であることも隠さずに。


「もう、大丈夫です。肺の中の水は全て吐き出せましたし、呼吸もしっかりしています」


テキパキと治療の指示を出し、最後に回復魔法をかけると少年の胸の鼓動が蘇った。


「……ありがとうございます。聖女様」


「おお。なんと尊いことか、教会に頼めば金貨1枚はいるぞ。ましてや聖女様になんて」


「お布施は要りませんよ。今日はプライベートなので、その代わり秘密の方向で」


「……あ、ありがとうございます。聖女様」 


今の聖女ちゃんはキラキラと輝いていた。


なにより――――嬉しそうだ。


人を助けることが本当に好きなんだ。


その笑顔を見ていると、俺まで笑顔になる、そんな魅力ある笑顔だった。


「おじさま、ありがとう。私、教会に帰れそう」


そう言う聖女ちゃんはキラキラと輝いて見えた。


「でも、もうちょっと、もうちょっと、一緒に遊んで、おじさま♡」


「いいですぜ」


そう言った聖女ちゃんは何処か寂しそうだった。

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