第8話おっさん、魔法学園に通学する
朝目覚めると、頭の中に例の女の子の声が響いた。
「おはようございます。ログインボーナス、天空石300です。今日も良いゲームライフを」
そう言われて、ステータスを確認すると、やはりバグなのか……
「天空石が300000個増えてる」
どうやら、桁の設定を間違えている。
でも、これで俺は更に強くなれる。
今までの生活とも、おさらばだ。
俺はようやくみんなと同じスタートラインに並んだんだ。
「いきなり、あのお嬢ちゃんの従者にさせられるとは思わなかったけどな」
貴族なんて関わりにならない方がいいことはわかっているが、条件がいいしな。
冒険者ギルドの仕事は泥棒の嫌疑をかけられているから、しばらくギルドの仕事は受けられないかもしれない。
だから、ちょうどいいと言うか、貴族の通常の10倍の報酬って、半端ない額だと思う。
「しかし、あのお嬢様……俺が「はい」と言った瞬間に破顔してニコニコ笑いやがった」
泣いてたくせに、ほんと、女は油断ならねぇ。
信頼していた受付嬢のシアさんにまで裏切られたし。
俺、女性不信になりそう。
誰か俺に優しくしてくれて、信頼できる女の子を紹介して欲しいぜ。
「……まったく」
俺が思わずため息を吐くと、『コンコン』という扉をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「アリスお嬢様の直衛の騎士です。お届け物をお持ちしました。これに着替えてください。30分後に馬車でお迎えにあがります」
「へ?」
俺は騎士から、騎士服みたいな制服を渡された。
騎士の説明では、これから俺は毎日お嬢様の警護を魔法学園内でしなければならない。
それで、学園の許可証と制服を渡された訳だ。
制服は学生のものとは異なり、どこかの騎士とも思えるものだった。
「そう言えば、魔法学園には学生の他にも、従者やメイドも出入りしてたんだな」
そう、魔法学園の生徒の大半は貴族だ。故に一人で何もできない貴族の子弟のために、使用人が出入りする。
一般人と区別するため、従者専用の制服が作られている。
しばらくすると馬車が来た。
「わ、私、別におじさんの勘違いなんだからね! 別にこの気に乗じて、お付き合いしてもらって、恋人なるとか、お似合いの2人になるとか、未来のお嫁さんになるとか、婚約届けには今から署名しておいた方がいいとか! 今すぐに婚約届けを出した方がいいとか、新婚旅行はナーロッパがいいとか! 思ってる訳じゃないからね!」
「安心してくださえ、お嬢様。俺は勘違いしないおっさんです」
キッパリと言い切った。
俺は女の子に勘違いなんてしないおっさんなのだ。
勘違いする要素なんて、どこにも見当たらないしな。
学園の中に入り、お嬢様と二人で学園内を歩く。
もちろん、従者の俺は一歩後ろに引いて周囲を警戒しながらお嬢様の後を歩いた、だが。
「何あのおっさん?」
「分不相応ですわ」
「キモいんですけど?」
学生に口々に罵られる。
「……クッ」
仕方がねえ。
10代の若い学生にとって、盗賊風情のおっさんなんてばばっちいモノにしか見えないのだろう。
実際、周りの学生たちは見目も良く、みなキラキラと輝いているようだ。
「おっさん。私の隣に来て」
「へ? それじゃ警護が?」
「いいから!」
お嬢様はそう言うと、俺の横に並び……腕を絡ませて、しなだれかかって来た。
いや、当たってる。弾力のあるのが当たってる、思いっきり!
「か、勘違いしないでね! 私は別にデートみたいに横に並んで欲しいとか、優しくエスコートされたいとか、腕を組んで欲しくて仕方ないとかじゃないからね!」
「へい。わかっておりやす。勘違いなんてしやせん」
俺は勘違いしない。
お嬢様の真意はわかった。
自分の魅力で、俺を守るつもりだ。
察するにこのお嬢様はかなり高貴な身分だ。
そのお嬢様が、これだけ心を許しているから、俺をなじった学生たちも黙ることになる。
ならなかった。
「嘘! 信じられない。最終兵姫と呼ばれたアリス様がまさか! あんなおっさんに?」
何故か、ざわざわしている。
どこに? どこにざわざわするポイントある?
お嬢様の胸か?
これは、多分、お嬢様の言っていた、ラッキースケベで、偶然の産物だ。
そんな時、お嬢様が突然つまずいた。
「危ない!」
お嬢様の腰に手を回して彼女の身体を支える。
「気をつけてくだせえ。意外と石畳には段差とかありますぜ」
何故か、お嬢様の顔が赤いような気がするのは、きっと、お疲れで微熱でもあるんだろう。
「しゅき♡」
いやいや、とうとう幻聴が聞こえてきたぞ。
勘違いしてはいけない。
さっきよりもっと胸を強く押しつけて来ているとか、距離が近くなってるとか、お嬢様が耳元でボソボソと、さっきからしゅきとか愛してますとかなんて囁いてなんていない。
俺は道理をわきまえたおっさんなのだ。
故にお嬢様が俺のこと好きだとか……あり得ない。
ましてや、お嬢様位の年の女の子を好きになるとか、社会的に犯罪である。
故に、全て気のせいなのだ。
俺はお嬢様のメチャクチャ細い腰から手を離して、モジモジしているお嬢様の後ろへ移動しようとした矢先に。
「なんでおっさん如きが……それに、お前、冒険者ギルドの盗賊……か?」
冒険者ギルドでもあったが、簡単に盗賊であることがバレる。
盗賊の足運びや動き、それになんと言っても、俺がいかにも盗賊そうな顔をしているからだろう。
「おい! お前! ひょっとしてこの間、冒険者パーティ銀の鱗を追放された盗賊じゃないか?」
ふいに明らかに粗暴そうな貴族の子弟が俺達の間に割り込んできた。
遺憾だが、どう見ても紳士的な態度ではないな。
とはいえ、従者として、貴族様に、とりあえずは気を使うか。
「へい。俺は冒険者パーティ銀の鱗を追放されやした」
「ぎゃははは! やっぱりな! その情けない顔! 確か昨日ギルドで聞いたぜ! それにな、俺はな、弱いヤツは死ぬほど嫌いなんだ!」
「…………」
はぁ。
盗賊だからと言っても、こんなにも馬鹿にされて生きていかなければならないのか。
盗賊の地位が如何に低いのかがわかる。
……そうでなければ、突然、頭ごなしに見下されることもなかっただろうに。
「あら、おっさんが弱いって思うの? じゃ、決闘で勝ってごらんなさい。このゴミ虫がぁ!」
いきなり、お嬢様がキレた。
……なんで?
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