第54話 もうひとりの幼なじみ➁
「さ、じゃあ涼ちんの話を聞こうか?」
ゲームを置いた皐月は、俺へと向き直る。
ローテーブルに乗せた左腕で頬杖をつくと、真っ直ぐに俺を見据えた。
なんだかそれだけのことで皐月は様になるから、本当イケメンってやつは羨ましい。
すっかり冷めきってしまったコーヒーに口を付けた俺は、ゆっくりと口を開いた。
「……俺、澪が好きだ」
自分の想いを口にしたのは、これが初めてだった。
澪とは小さい頃から一緒に過ごしてきたというのに、俺は今更になって自分の恋心に気が付いた。
いやもしかしたら、「潔癖症さよなら大作戦」がなかったら、俺は気が付かないままだったのかもしれない。
口にした途端、急に羞恥がやってくる。
俺の言葉に皐月は、「うん」と頷いた。
「だと思った。涼はきっと、澪が好きなんだろうなって」
その言葉に、俺は目を丸くする。
「相変わらず気付くのが遅えなあ、涼ちんは」
皐月はにっと笑う。
「涼は幼なじみだから澪が心配だし大事だし大切にしたいって思うんだって、思い込んでたんだろうけど、それってきっともうとっくに澪のこと意識してるんだよな。幼なじみだとしても、興味なかったら大事にしようなんて思わないぜ、普通」
「でもそれは、」
「俺に対してもそうだって言うんだろ?涼が俺のことを大事に思ってくれてるのもちゃんと分かってるよ。でも澪に対しては違う。涼はもうずっと前から、ただの幼なじみじゃなくて、澪のこと女の子として見てるよ」
「ま、自分の感情すら鈍ちんの涼じゃ、分からないかもしれないけどな。俺はずっと二人のこと見てるからなー」と皐月は笑う。
「そう……か…」
皐月の目からはそう見えていたのか。
確かに俺は、日に日に可愛くなっていく澪を見ていた。
澪が段々と女らしくなっていって、たくさんの友達ができて、きっといつか俺の傍から離れていってしまうんだろうなぁ、とそんな時が来ても、俺は当然のことなんだって自分に言い聞かせてた。
だって俺は、自分に自信がないから。
澪を繋ぎ止めることなんて俺にはできないって諦めてた。
澪の明るさに、俺はいつも救われてたのに。
そうか、俺はとっくに、澪のことが好きだったのか…。
なんだかやたらと自分の頬が熱い気がして、皐月から目を逸らした。
いくら相手が皐月とはいえ、こういう話はやっぱり恥ずかしい…。
「んで?澪ちんと喧嘩したのか?」
皐月はぐいっと距離を詰めてくる。その顔は何故かやたらと嬉しそうだ。
「喧嘩なのかは、分からない…。多分、俺が一方的に傷付けたんだと思う……」
澪が一瞬、傷付いたような顔をしたのが、俺の脳裏に焼き付いて離れない。
俺は、好きな子を傷付けたのだ。
「ま、何があったのかは知らんけど、」と皐月は俺の目を見て言った。
「涼はもっと、自分に素直になった方がいいぜ」
「え…」
「涼って、照れ隠しとかすぐするだろ?澪にはそういうのよりは、素直に思ったことを伝えた方がうまくいくと思うよ、俺は」
「澪もすぐ照れ隠しするからなー、ほんと、涼ちんと澪ちんはそっくりなのよ」と皐月は呆れたように息を吐いた。
「だから、どちらかが素直になれば、このわだかまりは解決する。そんで先に素直になるのは、涼だ」
俺はこくりと頷く。
澪も少なからず俺に好意を持ってくれているとは思う。
俺はきっとずっとそれに甘えてきてしまった。
ほんと、情けないよな……。
「まあ、原因はなんとなく分かるから、とりあえずちゃんと話してみることだな」
皐月はそう言って、スマホを指差す。
「え……?」
皐月は不気味なまでに綺麗に笑う。
まさかとは思うが。
「今、澪に連絡しろ。こういうのは長引かせると絶対に良くない」
やっぱりか……。
まあ確かに皐月の言う通りだ。
長引かせて、これ以上状況が悪化するのは良くないだろう。
皐月に見守られながら、俺はメッセージアプリを開く。
澪とのトーク画面を開くと、賑やかなどうぶつたちのスタンプやカラーの絵文字が溢れていて、なんだかそれだけで愛しさが込み上げてくる。
俺は少し考えてから、文章を打ち込んだ。
【澪、今少し話せないか?】
するとメッセージを送ってすぐに既読の文字が付いた。
【今、そっち行く】
そのトーク画面を皐月に見せると、皐月は嬉しそうに笑った。
間もなくして、うちのチャイムが鳴った。
俺はゆっくりと階下へ降り、玄関のドアを開けた。
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