第44話 二人のジャージ
ぴぃぃぃい~~~!
体育館に間抜けなホイッスルの音が響き渡る……ほどの力強さもなく、地面に落ちた…。
「ちょっと、藤沢っち!!もっとしっかり吹けないの!?」
「いや、全力の肺活量だったはずなんだが……」
「もうっ!はーい!!試合終了っ!!!3年F組の勝ち!!ですっ!!!」
俺のホイッスルよりも大きな声で、岬さんが試合終了を告げる。
ついに球技大会が始まり、球技大会委員である俺と岬さんは競技の審判を務めていた。
今ちょうど白熱した3年生同士のバレーボールの試合が終わったところである。
岬さんはトーナメント表が書かれたホワイトボードに結果を記入する。
すると「おっ!」と声を上げた岬さんは嬉々として俺を振り返った。
「藤沢っち!次うちのクラスの女子だよっ!」
トーナメント表を見ると、確かに俺達のクラス2年D組と3年A組の試合と書かれている。
「うわぁ…初戦から3年生と当たるなんて…大丈夫かなぁ、澪達」
そうこうしているうちに、2Dのバレーボール組、澪達がやってくる。
「あれっ!涼に心海?もしかして審判?」
澪の言葉に、俺と岬さんはこくりと頷く。
「澪ちん!3年生なんてやっつけちゃいな!!」
岬さんの力強過ぎる応援に、澪は少し苦笑い気味に返す。
「がんばってみるね」
澪の後ろに隠れるように、椿姫さんが辺りをきょろきょろとしている。
「椿姫さん?どうかしたのか?」
俺が声を掛けるとびくっとしたように飛び上がって、そそくさとこちらにやって来る。
「あ、涼くん…。なんだか視線を感じたような気がするのです。最近そういうことが多くて……」
俺と澪も辺りに視線を走らせる。
少し離れた場所に溝口達三人の女子がこちらを見ているのが視界に入った。
また溝口……。
さっと澪の方を見ると、澪も気が付いていたようで小さく頷いた。
「はーい!ではそろそろ試合を始めまーす!準備してくーださいっ!」
岬さんの掛け声とともに、試合に出場する生徒がバレーボールコートへと足を踏み入れていく。
「よおしっ!いっちょやったりますかー!」
澪が気合を入れながら腕をぶんぶんと回す。
椿姫さんも慌てたようにバレーに意識を向ける。
羽織っていたジャージを脱ぐ椿姫さんに、女子バレーの応援に来ていた男子生徒がどよめいたのが分かる。
男子ってやつは、見るところは一緒だな…まったく…。
「涼くん、良かったらジャージを持っていていただけますか?」
「え…?」
ついこの前まで人の物に触ることすら臆していた俺は、その言葉に一瞬フリーズする。
しかし椿姫さんは俺を安心させるかのように、優しく微笑んだ。
「涼くんに持っていてほしいのです。…ご迷惑でなければ、ですが…」
椿姫さんが俺を汚いなどと言うはずがないことは分かっている。
これくらいのことなら、俺はもう、大丈夫だ。
「分かった。大切に持っておくよ」
俺の返答に、綺麗に畳まれたジャージを嬉しそうに手渡す椿姫さん。それを丁重に受け取る。
「ありがとうございます」
少し照れたような表情を見せる椿姫さんは、「がんばってきますね!」と気合十分にコート内に入って行った。
するとそれを見ていた澪が、ぶすっとした表情で同じようにジャージを脱いだ。
「おい、澪、ジャージは着ておいた方がいいんじゃないか?」
「は?なんで?」
何故だか急に機嫌の悪い澪にびびりながらも、俺は辺りをちらりと見ながらもごもごと言葉を紡ぐ。
「なんでって……、男子の目とか気にならないのか?」
澪は首を傾げる。
「それどういう意味?私の身体が貧相で、椿姫ちゃんと比べられて可哀想とかそういうことが言いたいの?」
何故そんなにつんけんしているのか分からないが、澪は少し拗ねたように俺に詰め寄る。
貧相なんてそんなわけがない。寧ろ豊満すぎるので、他の男子の視線が気になるのだ。
「いや、えっと…そうじゃなくて……」
こんなとき、俺が澪の彼氏なら、「他の男にお前の身体見られたくないから、ちゃんと羽織っておけ」、とはっきり言えるのだが、そんなこと言えるはずもない。
如何せん俺達はただの幼なじみである。
俺が澪の彼氏なら……シリーズ、きっと永遠に出てくるぞ。
はっきり言えなかった俺に、澪は自分のジャージを押し付ける。
「はいっ!私のジャージも持ってて!!」
「わ、わかった…」
澪は俺にジャージを押し付けると、さっさとコート内に入っていった。
俺の両の手に抱えられたジャージから、なんだかものすごくいい香りがするような気がするが、ひとまずそんなことは置いておいて、試合開始のホイッスルを鳴らす。
ぴぃぃぃいぃぃ~~~……。
今度は体育館に間抜けな高音が響いて、バレーボールの試合の開始を告げた。
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