あなたしかいない

 初めて彼に会った日。彼は私に『一本の薔薇』をくれた。理由を聞くと、彼は惚れた女には『一本の薔薇』を渡しているらしい。

 二回目に彼に会った時、彼はまたしても私に『一本の薔薇』をくれた。なぜ二本目をくれたのか理由を聞くと、「また惚れた」と言った。

 それから、彼は会うたびに私に『一本の薔薇』をくれた。

 十二回目の時、彼は「付き合ってください」の言葉と共に『一本の薔薇』を向けた。私は告白を受け入れ、『一本の薔薇』を受け取った。

 百八回目の時、彼は屋上のナイトプールを貸し切りにし、「結婚してください」の言葉と共に『一本の薔薇』と『婚約指輪』を向けた。私は婚約を受け入れ、『一本の薔薇』と『婚約指輪』を受け取った。それから今まで受け取った『百七本の薔薇』をプールへと投げ捨てた。

 プールに舞い落ちる薔薇を見た彼は大いに笑った。溺愛した私たちには『一本の薔薇』さえあればそれでいいのだ。

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