第13話

私のくだらないエゴを知らないまま、桃花は必死に窕木うてなをフォローしてくれていた。


「私の恋愛感情が先生を傷つけることはあるかもしれませんが、先生の感情によって傷つけられることはもうないです」


 もうない、と桃花は言う。それは私の我儘で逃げ出したあの夜から、ずっと彼女は傷ついていたってことなんじゃないか?

 その傷を乗り越えて、傷跡を隠して、吉祥桃花は私にすべてを委ねていた。追いかけてくるかもしれないけれど、この場から私が立ち去ることさえ、きっと彼女は許容している。


「……わかった」


 流石に、それは保身に走っている。ここまで訪ねてきてくれた彼女に対して、誠意がない。


 それに隠していた私の醜い本性が、逃げても逃げなくとも暴かれるのだ。ならばこれ以上、彼女に負い目を感じるような行為を、私は選ぶことができなかった。

「え。いいん、ですか」

 私の了承する返事に、桃花が驚いて目を見開いた。そこで私が頷くとは思っていなかったあたり、彼女の幼さを垣間見て思わず微笑んでしまう。

「私の主観で話すことだからね。不快感を抱いたら、すぐに言ってほしい」

「分かりました」

「返事だけはいいんだから……さて、どうしようかな。まず前提の話として、私について教えなきゃいけないね」

 口が重くならないよう、私はグラスに注がれた葡萄酒を飲み干した。

 アルコールで酩酊しなければ、話せない。先ほどの桃花と話していた『私が国に保護されるべき』心当たりにも関わる話だ。

 これは、まだ誰にも伝えたことがない私の秘密。荒唐無稽すぎて、私自身も信じ切れていない不思議な体質を彼女は信じてくれるのだろうか。

 逡巡するも、私はかぶりを振って迷いを捨てた。もう相手が信じるかどうかは、問題ではないのだから、ここで躊躇うのは間違っている。


「私は物心ついた頃から澱んでいたり、滞っているものに対して忌避感があった」


 例えば掃除されていない水槽のフィルター。喧嘩で拗れてしまった人間関係。原因不明の、長期的な体調不良。

 ソレが物でも、者でも、関係ない。直感として “イマが正しくない”存在だと認識したモノは、凝視しているとひどく気持ち悪くなった。


「そしてさらに不思議なことにね、ソレに対して私は手を加えることができた。どうやってとかなんで、なんて聞かないでよ。説明できない感覚だし、自分でも分からないから」


 強いて言えば対象を粘土のように叩いたり捏ねたりして、“整える”イメージが一番近いだろうか。


「物理的なものだけじゃない。人の雰囲気や、身体の目に見えないナガレのようなものを、整えることができるんだ」


 ありていに言えば私、窕木うてなは特殊能力者なのでした。

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