猫耳美少女

「それじゃあ、いただきます」

腹が減っていた。朝飯を食わず、昼食抜きで営業活動をしていたからだ。

星空が浮かび上がった空のもと一郎が手を合わせる。

信心深い訳じゃないが感謝の気持ちを表するには十分な振る舞いだと思っている。


包み紙から唐揚げ串を手に取って口に運ぼうとしたとき、こども広場でなにやら騒いでいる少女が見えた。

唐揚げを口に放り込むのも忘れて注目すると、十数匹の猫たちを相手に熱弁を振るっているようだった。


「なんだありゃ?」

よく通るきれいな声、印象的だな……興味を覚えた一郎は唐揚げ串を手にしたまま腰を上げて近づいていく。


熱弁を振るう少女よりも、まず猫たちに興味が湧いた。

なんで猫たちはこんなに真剣そうに少女の言うことを聞いているんだろう?

内容は……この近くで魚の漁れる川を教えるにゃ、とか、眷属なのだから情報収集を手伝えにゃ、とか。

語尾ににゃがついてるあたり、思い込みの激しい少女なのかもしれない。


そう思って少女に視線を移した男の呼吸が止まる。

「かわいい……」

全身に活発さがあふれている、力強い瞳に心がまるで吸い込まれるようだ。

一郎の胸は激しく脈動していた。


「ふにゃ!? かわいいってあたしのこと!?」

少女の声に我にかえる。

「とても……かわいい」

ただの変質者だ。

通りすがりのおっさんが中学生になるかならないかくらいの少女にそんなことを言ったら当然そう思われるだろう。


「男にゃ!? ふー!」

一郎を目にした途端、毛を逆立てて威嚇する少女。

「猫!?」

頭の上にピンと立つ耳。毛が膨張するしっぽ。口元には牙。

その様子はまるで怒りに身をまかせて威嚇する猫そのものだった。

いまにも襲いかかってきそうな少女を前に焦燥する一郎。

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