異世界から帰ってきたら30年経ってた上に日本にも魔物が現れる世界になってました。 ~帰還勇者の夢現境界侵食戦線~
阿澄飛鳥
1:序奏
夢を見ていた。
頭の中でぼんやりと思い浮んでいた情景に、俺は――
いや、違う。夢ではない。記憶だ。夢のような世界だったが、それは確かに俺自身が体験したものだった。
なにがきっかけかはわからないが、欠落していた記憶が戻った。
今はそれでいい。
俺は意識をはっきりとさせると、強く打った全身に鋭い痛みが走る。
『マスタ。左大腿骨頚部骨折、左側頭部裂傷、他損傷軽微』
無機質な少女の声が体の状態を淡々と告げてきた。
以前の俺なら、この土砂という天然のベッドにこのまま身を預けて、助けを待っていたと思う。
なんなら痛みに叫んで、助けを求めて泣いていたかもしれない。
けれど、それはできない。
――アキィ! その程度で止まるんじゃねぇ! 動け! 甘えんな!
頭の中で、以前組んでいたパーティリーダーが俺を叱咤する。
俺はそれに応えるように身を起こし、折れた左足に治癒魔法をかけた。
――アキくん! 足を今治すから! さぁ、立って!
魔法使いの彼女がそうしてくれたように、最低限の治療を終えた俺は、痛みという悲鳴を無視して立ち上がる。
――広く視界を保て、お前は要だ。
寡黙な弓使いが言っていたように、今ここで敵を倒せるのはぼくしかいない。
――アキ~! ぼさっとしてるとイイトコはアタシが取っちまうよ!
盗賊上がりの少女が隣を駆け抜けたかのように、風が吹いた。
俺が顔を上げると、「敵」から距離を置いて二機の攻撃ヘリが旋回している。
その「敵」の見た目は巨大な花だ。
爆発する花粉をまき散らし、ヘリに向かって長い蔓を伸ばして叩き落そうとしていた。
だがここは紛れもなく現実だ。否、異世界を旅したぼくにとってはそのどちらもが現実であり、確かなものだ。
だから、大事なのは場所ではない。今というこの時だ。
どちらの世界であっても、俺が今、何を選択するか。なにを求めるかだ。
この世界にみんなはいない。けれど、確かに俺は彼らと冒険していた。
その記憶が、俺の力になる。
俺は勇者だ。
ここが異世界などではなく、日本だったとしても。
俺は勇者だ。
三十年という時を超えて、行方不明になっていた自分が現実に戻ってきたとしても。
俺は勇者だ。
死のうとしていたはずが、流されるままにこの役割を背負わされたとしても。
俺は生きることを選んだ。
誰かを救うことを選んだ。
戦うことを選んだ。
だから俺は敵に向かって駆け出す。
西暦二〇三〇年、七月六日。俺が現実から消えたこの場所で、俺はもう一度敵に立ち向かうのだ。
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