故郷へ(4)

 クララとサイモンの言葉に甘えて、ドロシーとルルはゆっくりとウォード家の中に入っていった。

 と……、その一方で、サイモンやクララたちは、何やら真剣に話しているようだ。


「てか、クララ……。お前、すんなって……」


「はあっ!?」


 美青年のサイモンが弱々しくうなだれている一方で、美少女のクララも険しい顔になって、ドスのいた声を出した。


 サイモンはサイホク村の広場で、クララが自分より先にドロシーに声をかけたことを不満に思っていたようだ。

 彼の言動を見て、クララだけでなくウォード家の使い魔たちも、サイモンの想いに気付いただろう。


 クララは単に兄より早くドロシーのそばに行っただけなので、彼女は兄の言葉に非常に驚いたのだった。


「まっ、サイモン様は人当たりはいいけど社交的じゃないから、意外と気持ち分かりやすいっスよねぇ〜」


「そうよっ! お兄様。ドロシーお姉様のことが好きなら、もっと大胆にアプローチしなさいっ!! お兄様はコミュ力が高い割には、肝心なことはなかなか言えない癖があるんだから!」


「……ああぁ〜。お前ら……、痛いとこ突くのは、もう止めてくれよ……」


 クララに加えて、ロニーにもドロシーに好意を持っている事をいじられ、サイモンは思わずその場にしゃがみ込んでしまった。

 すると、ライサスはサイモンの片肩に乗って、サイモンの顔を心配そうに見つめたようだ。


「まあまあ、程々に……。ロニーもクララ様も、勘弁かんべんしてあげてくださいね」




 外での一悶着ひともんちゃくが終わると、クララは自室にドロシーとルルを案内した。

 サイモンは、どこか別の部屋に行ったようだ。ライサスとロニーは、サイモンのあとについていった。


 宰相さいしょうという大物の家ではあるが、豪華で高価そうな家具やインテリアは置いていないようだ。シャンデリアや大理石の床や家具も無い。

 いて言うなら、大きくて分厚い絨毯じゅうたんが目に入るくらいだ。



 クララに案内されて、二階に上がろうと階段を歩き始めた時、ドロシーは玄関のすぐ横に、一人の女性がゆったりとイスに腰かけて、微笑んでいる絵があるのに気が付いたようだ。

 その絵を気になりつつも、彼女はルルと一緒にクララの後ろを歩いて行った。




 クララの部屋に入ると、まずドロシーは部屋の広さに驚いた。

 大きな棚もいくつかあったので、きっとアクセサリーやら小物やらが入っているのだろうか。


 ベットはセミダブルのサイズで、薄いピンク色の天蓋てんがいが垂らされている。女性の憧れが詰まっているような部屋だ。



「直してもらいたいのは、このクローゼットの中の服よ。固めておいたから、よろしくお願いします! ……あっ、今開けるわねっ」


 クララはベッドの向かい側にある、大きくて横長いクローゼットの引き戸を動かしたようだ。

 クローゼットの中には、年頃の少女らしく、フリルやリボンがいつくも付いているワンピースやドレスがハンガーにかけられていた。


 ドロシーは「分かりました」と返事をした後、手際良くクララの服の修復を進めていったようだ。

 その一方で、クララはルルと触れ合っていたようだ。


「サビ猫って珍しいわね! とっても可愛い〜♪」


 クララはベッドの横でしゃかんで、ルルの頭を優しく撫でたのだった。クララから好意的に思われているようなので、ルルもゴロゴロとのどを鳴らして、安心したサインを出したのだった。


「わたしの名前はルルだよ〜。よろしくね、クララさん」


 クララがフカフカのベッドに腰かけると、ルルもぴょんっとベッドの上に飛び乗った。

 ルルがいつものようにドロシーの姿を見守っている間、ルルは引き続きクララに大人しくでられているようだった。



 ドロシーはエヴァンズ家にしか見えない青い光を目で辿たどりながら、服に染み付いた汚れや小さな穴を次々と直していった。新品だった時のように、本来の色彩を取り戻しながら服の傷みが消えていく様子を、しっかりとイメージしながら……。




 と、ドロシーが依頼された服の修復を全て終えた時だ。

 ドロシーは修復対象の反対側、クローゼットの端にある服から、ほんのりと青い光が放っていることに気が付いた。彼女は、自然と青い光を放つ服に近寄った。


 その服は、レースが控え目に付いている上品な真っ黒なドレスのようだ。

 そして、ドロシーは迷わずそのドレスの修復を始めた。ドレスの青い光が完全に消えた後、彼女は非常に慎重にドレスに汚れや穴が無いかどうかを確認したのだった。



 黒いドレスの修復を終えると、ドロシーはクララの元に行った。

 手足を隠して座っていたルルは、ドロシーが傍に来ると、背伸びをした後に床に降りた。


「クララさん、修復が全て終わりました。……あと、クローゼットの奥にあった黒いドレスも傷んでいたようだったので、直しておきました。

 あっ! サービスとして……なので、黒いドレスの修復代は必要無いですよ〜。安心してくださいね」


「さっすが、ドロシーお姉様っ! 本当にありがとう!! では一階で、一緒にお茶しましょ♪」


 再びひと仕事を終えたドロシーは、クララと共にウォード家の一階へ降りて行った。ルルも欠伸あくびをしながら、彼女たちのあとに追ったようだ。

 階段を降りてから、クララたちは一階にある窓際の角部屋に向かった。


「お兄様手作りのベリーパイと紅茶を用意してくれるって。キッチンが横にある部屋に案内するわ」

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