第135話:停滞結晶と試作型魔弩

 ログイン129日目。順調に【魔装変形】が付いた『魔盾』が売れているのは嬉しいけど、何度考えても『船になる盾』ってフシギだよね。

 元ネタが何かあるのかなーって有志攻略掲示板で調べてみたところ、マイナーなアーティファクトアイテムに『プリドゥエン』というのがあるらしい。


 これは『魔装』じゃないし別に変形もしないアーティファクトなんだけれど、【盾】と【船】の2つの『プリドゥエン』という同名アイテムが存在しているのだとか。

 【盾】の方は連合国サーバーで、【船】の方は共和国サーバーで発見されているのでサーバーの違いによる名前かぶりじゃないか、なんて噂されてるくらい共通点は特に無い。


 【盾】の『プリドゥエン』は両手持ちの【大壁盾】で、日光の当たる場所で強化が入るわりと珍しい効果を持ち、【船】の『プリドゥエン』は金属製の小舟で漕がなくても進んでくれるから地味に便利くらいの扱い。

 ……でもこの2つ、画像を見た限りだとサイズ感が近いんだよね。【魔装変形】の『魔盾』の大盾形態と船形態みたいにさ。


 もしかしたら『魔剣ダインスレイヴ』のように、『魔装』版の『魔盾プリドゥエン』という【魔装変形】が付いたアーティファクトが存在するんじゃないかな。それなら【船】と【盾】、2つのアイテムに同じ名前が付いているのにも納得できるもん。

 いつか【魔装鍛冶】の熟練度が上がってそこらへんの答え合わせが出来るといいなー。






 プレイ途中に現実リアルの用事を思い出して一旦ログアウト。再ログインしたら新着メッセージの通知が山のように来ていてびっくりしてしまった。


 送り主は、提携している発明家クラン”新たな夜明け”で私の担当をしてくれている【パオペイ】さん。

 匿名で公式のフォトコーナーにアップロードしていた私の開拓地の画像を見て、『水晶水仙』の取引ができないかメッセージを送ってきたみたい。

 そっか、いくら匿名だったとしてもパオペイさんとは私の開拓地『ジュールのおうち』に招待したこともある仲だもの、そりゃ分かっちゃうか。


 『水晶水仙』の取引に関しては……増産については可能だけど、品質が低すぎて【完全蘇生薬】の材料にはできない見かけ倒しです、って断りを入れた。

 あれは【横着】を使ってズルして作ったものだからね、変に期待されても困るよ。

 作ろうと思えばいくらでも増産はできるものの、【横着】の効果で品質が目に見えて下がってしまうから、素材としての取引には向かないんじゃないかなー。


 ……でも、パオペイさんは『品質が低いものを大量確保できるなら、むしろぜひ取引を!』とすごい勢いだった。

 話を聞いてみると、【錬金術師】のスキルに【結晶化】というアイテムの特性を引き出した『結晶』を精製するものがあるらしんだけど、これは元となるアイテムの品質によって違う『結晶』が得られたりもするんだって。

 以前、試供品として回ってきた『純硬結晶』は品質の特に良い『純硬鉱石』に【結晶化】を使うことで作ったんだとか。通りでいまだに安定供給されないわけだよ。


 そしてこの【結晶化】、元のアイテムの品質が低いほど『結晶』の精製に必要な素材の数は増加していくらしい。まあ、品質の低いものの方が普通はたくさん手に入るんだしおかしいことではないよね。


 でも、『水晶水仙』を素材に使うとなると話が変わってくる。

 そもそも『水晶水仙』は『陽光の丘』のようなベストポジションで育てると高品質かつ育成時間が短縮されるという植物素材。

 つまり、わざわざ品質が低いものを育てようとすれば通常よりも時間がかかってしまうの。


 普通の品質のものでさえ『水晶水仙』は育成に1週間もかかるんだもん、育成に失敗する危険がある品質の下がる環境で普通より長い期間をかけて育てるなんて誰もやりたくないのは間違いない。

 その上、品質の低いアイテムの【結晶化】には数が必要になるわけで……。そのため低品質な『水晶水仙』の【結晶化】なんて誰も作ろうとしたことがない、ということらしい。


 ……で、誰もやったことがないならやってみたいという人が集まっているのが発明家クラン。パオペイさんも手に入るならぜひ! とメッセージの文面だけでもすっごい前のめりだった。

 私としても低品質の『水晶水仙』の育成にかかる労力は【横着】のおかげであって無いようなものだし、対価として今後の取引でさらに優遇してもらえるそうだから断る理由はないね!

 さっそく開拓地で『水晶水仙』を増やして発明家クランへ届けようっと。こういう風に役に立つなんて、何にでも使い道はあるものだね。






 とりあえず50個ほど『水晶水仙』を育てて納品したところ、待合室でちょっと待っていて欲しいと言われたので素直に待機していたら、即日で【結晶化】に成功したアイテムを渡されちゃった……。

 発明家クランの人たちとしては今後の取引継続のために奮発してくれたんだろうけど、納品に訪れた足でそのまま作成アイテムを引き渡されるなんて思ってなかったからだいぶ驚いたよ。


 超速で【解析】や仕様の研究も一通りは行ったらしく、詳しい解説書までつけてくれて至れり尽くせりだね。

 パオペイさんからは『お気に召したら今後も物納と交換で!』とのことなので、『水晶水仙』を増産すればこれからも安定して入手できそう。


 まあでも、実際に使ってみないと今後も取引したいものかどうかは分からないし、まずは一度生産に使ってみてから考えようか。

 そうと決まれば鍛冶場へゴーゴー!






 さて、さっそく貰ったアイテムを生産に使っていくわけだけど、一体どんな【代償】が付与されるかな?

 アイテムの名前は『停滞結晶』。元になった素材である『水晶水仙』が持つ蘇生効果や薬効の要素はもっと品質の高いものからできる結晶に引き継がれ、品質が低いものからできたこの結晶は『時間がかかる』という特性が引き出されたみたい。


 鉱物の特性も引き継いでいた『純硬結晶』と違い、この『停滞結晶』は鉱物カテゴリを持っていないから【鍛冶】の素材にできず【代償付与】のための素材粉にして使うことになる。

 発明家クランの人たちの調べによると、『停滞結晶』を素材に使用したアイテムは通常より『長く留まる』特性を持つらしい。


 実験例では、『範囲回復薬』を使用した際にフィールドに出現する回復範囲が一定時間滞留したり、薄暗いフィールドで辺りを照らすために上空に発射する『照明弾』の滞空時間が伸びたりするみたい。滞空時間が伸びるなら、遠距離武器につけるのがいいかな? RNG……射程距離補正を上げる効果がありそうだよね。


 というわけで、今回作っていくのは弩弓どきゅう……クロスボウにしていこうと思う。

 クロスボウは『ボルト』という短めの専用矢を使う弓の仲間で、威力が高いかわりに弓より射程が短めで、普通の弓より扱いが簡単なのがウリ。弓って結構プレイヤースキルに依存してるところがあるからねー。

 『停滞結晶』で射程が伸びればクロスボウの高い威力と狙いの付けやすさで狙撃もどきもできるようになるかもしれない。【狙撃】といえば本来【弓】の専売特許だから、きっといいセールスポイントになるよ!


 クロスボウは大体【木工】スキルで作るのが普通なんだけど……、『模造』があれば【木工】で作られた店売りのクロスボウを元に金属製のクロスボウも作れちゃう。

 あとは『停滞結晶』を『模造』の型に詰める金属生地に『捏造』で混ぜておく。今回は元の装備にこだわりはないので【偽造】はナシ!

 

 出来上がった金属製クロスボウにさらに一工夫、【魔装鍛冶】の器具に【入力】して『魔装』としての効果も付与しちゃおう。

 【入力】に必要な時間はいつも通り【横着】で省略し、付与する効果を選択する……んだけど、今回は【魔装貫徹】しか選べなかったね。暗い色で表示されている【魔装連射】とか結構気になるのに、選択できないのは残念。

 

 名前からして【魔装貫徹】は相手の防御力をある程度無視できる貫通効果の付与とかだろうね。基本的に【弓】系は装甲が硬い相手が苦手だから好相性かも。

 そうして出来上がったのがこちら。


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【試作型魔弩(代償)】 耐久:240/240

ATK+109 RNG+12(+58)[Max!]

魔装貫徹 停滞代償

[説明]

ある女ドワーフが作った弩弓型の魔装。

放たれた矢は、制約を受けず貫徹する。

通常より遠距離まで矢が届くが、代償としてその動きは停滞する。

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 うーん、性能としては射程距離補正が限界値まで上がっていること以外は実にシンプルだね。デメリットは……停滞? よく分かんないなぁ。

 お店のフィッティングルームもクロスボウを使うには狭いし、フィールドで実際使って確かめておこうかな。






「な、なにこれぇ~っ!?」


 ブロンディンの街の外、最初のフィールドである草原フィールドで非アクティブなモンスター『グラスラビット』を狙ってクロスボウを撃った私は驚愕した。

 放たれた矢が……遅い。なんならAGIが低い私の全力疾走より遅いし、普通のプレイヤーなら鼻歌交じりに追い越せるくらいの遅さなの。

 撃たれた『グラスラビット』は攻撃されたことにも気付かず、矢が届く前にぴょんぴょんとどこかへ跳ねて行ってしまった。


 で、デメリットの『停滞する』って、矢そのものがゆっくり進むってこと!?

 これじゃあせっかく貫通効果があっても当たる気がしないよ!


 ええ……このクロスボウ、どうしよう……。

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