第16話:観光!共和国
「うわぁ……!」
船から出ると、当然だけど景色は一変していた。
帝国サーバーの重厚で厳めしい、暗めの色合いとはまるで違う、眩しいほどに
真っ白な壁とオレンジ色に統一された屋根の町並みが真っ青な空の下に広がっている。
視界の端に『共和国の玄関・アンティパスト』と表示されたし、間違いなく共和国! 情報は見て知ってたけど、本当に全然違うね! 辺りをキョロキョロしながら船着き場から出ると、建物の陰に溶け込んでいた原獣郎さんが手を振って知らせてくれた。
「結構時間が掛かったな、大丈夫か?」
「す、すみません……多分接続機器か体内ナノマシンが型落ちなせいだと……」
「おっとそうか。だがあんまりその手の事は口に出さない方がいいぞ。特にここの
「あっ、はい。気を付けます……」
たしかに、最新型の
『共和国』は芸術と商売の国、商人プレイヤーの数には事欠かない。現実でのお金の取引……いわゆる
落ち込んだ空気を変えるように、原獣郎さんが厳めしい天狗面に似合わない明るい声で言う。
「よし、それじゃ早速観光と
「えっと、大聖堂、図書館、美術館……あ! 水族館も行ってみたいです!」
「オーケーだ、じゃあルートは……」
わざわざ観光に付き合ってもらってるんだもの、落ち込んでる暇なんてない。この機会にこのサーバーでしか見られないものを全部見るくらいの勢いで行こう。せっかく観光に来たんだから楽しまないと!
原獣郎さんの案内で私はアンティパストの名所を満喫していた。
精緻な彫刻がいたるところに施され、外観はもとより、巨大な天井画と荘厳な祭壇の内装も美しい大聖堂。元々は帝国にもある『教会』という施設で、1日1回祈りを捧げることでささやかなバフが受けられる場所だったのだけど、1人の聖職者プレイヤーが発起人となって並みいる大商人たちからカンパを集めてこの規模まで育て上げたのだそうだ。
私も試しに祈ったら、『次の生産活動にのみDEX+20%』というバフをもらったよ。帝国の教会は1~2%のバフがせいぜいらしいから破格の量だけど、ここではしっかり入場料を取られたからトントンかな?
図書館はこの世界の設定資料や、有志【司書】プレイヤーが本にした色んなデータが収められた施設。特定ミッションやボスモンスターにある背景ストーリーなんかも読めるそうだけど……私は別にそういうのいいかな? 正直でっかくてキレイな図書館の見た目を眺めたくて来たところある。
美術館は運営が許可を取ってスキャンしたリアルの美術品が飾られていたり、中にはプレイヤーの作品も飾られている。共和国には、帝国に『師匠NPC』が居るように『パトロンNPC』が居て、生産活動に資金提供してくれたりするらしい。だから芸術家プレイヤーとかもいるし、【発明家】プレイヤーも帝国と違ってクランを結成せずにそれぞれパトロンを持って活動しているそう。……うらやましいなー、と思ったけど、そもそも【代償鍛冶】はNPCに評価されないからダメか。残念。
水族館は……なんか思ってたのと違った。水中の生き物を眺めたり、触れ合っちゃったりできる施設かと思いきや、
水族館の分の時間が空いたので市場を覗いてみようということになったのだけど、原獣郎さんは最短距離を通らず、妙に回り道をするように案内する。
「あっちの道は通れないんですか?」
「通れなくはないが……あっちはエルフ組の
「えっ」
話を聞くと、共和国の街は主に3つの地下組織の縄張りに分けられるそう。
沿岸部の港湾地区を縄張りにする
案内に原獣郎さんがいて本当に良かったよ。私だけだったらずかずか入り込んでイベントに巻き込まれちゃいそうだし。
市場はNPCショップも混じっていて、色々目新しいものが多いけど……ちょっと高い! 鉱石系なんて一部は帝国に比べて3~4割くらい高いんじゃないかな。
共和国はNPCショップの内容が他のサーバーより充実していて、帝国限定・連合国限定、みたいなアイテムも取り扱ってる代わりに現地で買うより割高とは聞いたけど……現実でも旅行先で買い物するのってこういう気持ちになるものなのかも。
買うか買わないか悩んでいると、原獣郎さんが悪戯気な声音で声をかけてきた。
「ジュールさん、せっかくだから"裏の市場"も覗いていかないか?」
「”裏”、ですか?」
「ドワーフ組が仕切っている非公式市場……
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【『NEW FRONTIER』匿名掲示板・闇商人部屋】
[匿名闇商人]
だから闇市ガチャはドワーフ組が当たり枠多いって一番言われてるから
[匿名闇商人]
でもハズレがとことんハズレじゃん
[匿名闇商人]
エルフ組はハズレ枠も一応金にはなるからな
[匿名闇商人]
ここまで完全に無視される魚組
[匿名闇商人]
あそこは通うの闇商人より料理人の方が多いから・・・
[匿名闇商人]
鮮魚に強いからねしょうがないね
[匿名闇商人]
カルマ管理しながら闇市通うの疲れますわ
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