第39話 クレハからガイウスへの手紙 クレハ視点

【クレハ視点】


 〇月×日


 親愛なるガイウス様へ


 ガイウス様、お元気ですか。

 栄光の盾を突然やめてしまって本当にごめんなさい。

 あたしのせいで、ガイウス様と冒険者たちに迷惑をかけてしまいました。

 本当に、本当に、申し訳ないです。

 

 あたしは、栄光の盾に何の不満もありませんでした。

 破格の待遇を与えてもらっていました。

 報酬は毎月金貨100枚、随時成果報酬もあり。

 休暇も自由に取れて、とても働きやすかったです。

 それに、ガイウス様はあたしに副ギルドマスターを任せてくれました。

 栄光の盾の仲間たちと一緒に働くのは、とても楽しかったです。


 あたしが栄光の盾をやめた理由……それは、あたしの一生を捧げるべき人が見つかったからです。

 その方のお名前は――アルフォンス・フォン・ヴァリエ侯爵令息です。

 あたしはアルフォンス様と、騎士契約を結びました。

 もしかしたらガイウス様は、あたしが貴族と騎士契約を結んだことを、とても驚いているかもしれません。

 あたしがこれまで、貴族から騎士契約を頼まれても拒否していたことを知っているから。

 アルフォンス様は、他の貴族とは違います。

 他の貴族のように、平民を見下したり威張ったりしません。

 魔法の才能があるだけでなく、剣の才能もあります。

 無能で何もできない貴族、生まれや家柄に頼る貴族とは違います。

 実力のある、本物の貴族です。

 

 アルフォンス様とあたしの出会いは……

 ごめんなさい。自分で言うのはなんだかとっても恥ずかしいですね。

 まるであたしとアルフォンス様が恋人同士……いえ、そうじゃありません。アルフォンス様には侯爵令嬢の婚約者がいます。

 本当はアルフォンス様と恋人になりたくて……ガイウス様はあたしがこの世界でアルフォンス様の次に信頼する人です。だから、ガイウス様には打ち明けます。

 あたしは、アルフォンス様と恋人になりたいのです――

 でも、あたしの本当の気持ちは、誰にも言えません。

 あたしはアルフォンス様の騎士。

 騎士と主人の関係です。

 騎士が主人に恋するなど、絶対にあってはならないことです。


 それに、アルフォンス様のことを好きな令嬢はたくさんいます。

 アルフォンス様の通っているセプテリオン学園では、令嬢たちが「アル様ファンクラブ」なるものを結成しています。

 はあ……貴族の令嬢たちは、なんて軽佻浮薄なのでしょう!

 仮にも、将来の王国の民を導くエリートであるのに……(実はあたしも、密かにアル様ファンクラブに入っています。誰にも言わないでくださいね)


 あと、アルフォンス様の婚約者が最悪な女で……

 アルフォンス様を「クズ」呼ばわりして、まるで自分の使用人かのように扱います。

 マジで首をブッタ斬ってやりたいです……っ!

 あの女を燃やして、灰の上で踊ってやりたいです。

 それから、それから――

 あ、ごめんなさい。

 ちょっと言いすぎました……

 このクソ女の話はまた今度しますね。(山ほど文句がありますから!)


 ごめんなさい。話が脱線してしまいました。

 あたしは、アルフォンス様の剣の師匠でした。

 これがあたしとアルフォンス様の、運命の出会いです。

 最初は、貴族の無能令息がお遊びで剣を習いに来たと思っていました。

 少し太っていて、剣も握ったことがない状態でした。

 どうせすぐに根を上げるだろうと思っていました。


 だけど、あたしが完全に間違っていました……

 剣のセンスが、ずば抜けているのです。

 怖いくらいです。

 毎日毎日、どんどん成長して、すぐに師匠のあたしを追い抜いてしまいました。

 あたしは「剣聖」だったはずなのに……

 でも、アルフォンス様はすごく謙虚でした。

 アルフォンス様は「まだまだ自分より上がいる」と思っています。

 才能があって努力もするから、もしかしたら近衛騎士団長になれるかもしれません……


 正直に言います。あたしは、アルフォンス様の才能に嫉妬しています。

 それも、激しい嫉妬です。燃え盛る炎のように。

 だからこそ、あたしはアルフォンス様の才能を、その行く末を、見たいと思いました。

 アルフォンス様のご活躍を、一番近くで見ていたい……

 あたしは純粋にそう思ったのです。

 騎士としての、あたしの誓いです。

 一生、アルフォンス様に着いていくと――


 最後に、ガイウス様に言っておくことがあります。

 今、王国中のギルドが探し回っている「水の魔術師」のことです。

 水の魔術師の正体は――アルフォンス様です。

 絶対に他言無用です。

 もしも正体がバレてしまえば、アルフォンス様は外国の騎士団やギルドに追われることになります。

 今度、学園生たちが栄光の盾に派遣されます。

 アルフォンス様も来ますから、例のことを話してください。

 あたしとガイウス様で、進めていた「計画」のことです。

 アルフォンス様なら、きっと栄光の盾の役に立てます。


 ガイウス様……今まであたしに良くしてくれてありがとう。

 本当に、本当に、感謝しています。

 アルフォンス様を、よろしくお願いします。


 主人に忠誠を誓う騎士として、書き記す。

 クレハ・ハウエル

 

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